大人になりたい!

□4冊目
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勉強会とか、時々のお出かけを重ねてはいるけど、
多分付き合っているカレカノってほどの密な関係でもないまま、
数ヶ月が経った。


渚さんに言わせると、
そういう関係もあるとは思うけど、きっと赤羽さんが高校生である私に対して気を使っているのかも知れないと言った。



私は早く受験を済ませて、大学生になりたいと
強く思うようになった。



高校生であるが故、
普通の恋人同士のようにいられない。
それが何よりも悔しいし、寂しい。

でも、ちゃんと好きでいてくれているということを、
いつも伝えてくれる赤羽さんを信じることができた。


卒業したら、きっと普通の恋人同士になれる。



そう信じていた。















〜〜☔〜〜☂〜〜



8月12日。
夏休みだけど、学校では割と長い期間夏の講習があり、休みという休みは今週だけ。

昨日から降り始めて、ゲリラ豪雨と呼ばれるほどの雨は
だんだん雨脚を強めて今日に至る。


夏だから、寒さはないけど・・







赤羽さん、明日から夏休みだと言ってた。
明日はお出かけと食事の約束をしているけど、この雨止むといいなあ。




夜の10時を回った頃、不意にメールが入った。


     おーい
     今から出れる?



いつもの赤羽さんらしくない、
そんなメールで何となく不安になったが、
送信元は赤羽さん。



             今からですか?
             どこまで?




私は時間が夜10時なこともあって、
場所にもよるけど、夏休みだしいけるかなと思って返事をした。
それに何かあったのかもしれないし。




     〇△駅の近くの、
     カラオケ店の前だよー





もしかして酔っ払ってる?

いつもと言葉が違うし、なんか軽い感じ。
それにこの時間に出てきてって、赤羽さんが言うのは
初めてかも。何かあったのかも知れない。




             わかりました。
             準備していきますね。



     待ってるよ^^













赤羽さんらしくないな、とは思ったけど
急いで着替えて準備をした。
雨だけど夏だし、ノースリーブのトップスにパンツスタイルで手軽に準備をして外へ出た。


バスはもうない時間だし、
電車の駅まで行った方が早いだろうと、最寄りの駅へ急ぎ、
電車で20分ほど行くと、繁華街のネオンが見えた。

こんな時間に、こういうところに来たのは初めてだ。





メールで言っていたカラオケ屋さんはどこだろうと、キョロキョロしながら歩いていると、雨が降っているにも関わらず賑やかで、多くの男女が傘をさして歩いていた。


「カノジョ〜、一人?」


「ねえ、ちょっと呑んで行かない?」




次々と声をかけられるのをかわしながら、
何とか見つけたカラオケ店の前には、若い男女がたくさんいた。


まずは、メールしないと・・


携帯をバックから取り出して、メールを打ち始めた時に
近くに寄ってきた明らかに酔っ払いの男性に声をかけられた。
20代前半くらいの人だろうか、黒いジャケットの金髪の男性で、
肩を掴んできたから、驚いて体を引いた。




「ねえ!待ち合わせ?
うちの店すぐだから、遊びに来ない?」



客引きかな。早く赤羽さんに連絡とって会わないと。。
何とかその男性から離れてメールを打った。




               着きました、
               どこに行けばいいですか?




そうメールを打った瞬間、
すぐに近くにいた男女の集団から歓声が上がり、
その後すぐに声をかけられた。





「あーーこの子が赤羽のカノジョ!?」

「かわいい〜」


「マジで、可愛いじゃん!」


「若いよね!いくつ?」




10人くらいの人に囲まれて、次々と質問攻めで
私は傘をさしたまま呆然とした。



「・・あの・・」



私が訳も分からず、言葉に詰まっていると、
その人の後ろから、見慣れた赤い髪の人が見えた。



「何?どういうこと?
何で恋ちゃんがここにいるの?」





「え・・?」




赤羽さんの言葉に、フリーズした。
赤羽さんの、メールじゃなかったってこと・・?



固まったままの私に、赤羽さんも不審に思ったみたいで、
自分の携帯を取り出して画面を開いている。



「誰?・・・・俺の携帯で勝手にメール送った奴!」



「あーゴメン。俺ら。
ミナとマリナが、赤羽にカノジョできたらしいって騒ぐから、
どんな子か見てみたいって話になってさ!」





私は傍観者のように、その会話を眺めていた。
でも、赤羽さんの顔は明らかに不機嫌だ。



「はあ?それだけのために、彼女をこんな時間に呼び出した訳?」





「赤羽くんが、いつもメールしてる女の子がいるってきいて、
気になったの。
見てみたいねって言ったら、男子が呼び出してあげるって言ってくれて。」



「カノジョちゃん、ゴメンね。こんな時間に。よかったら一緒に飲みにいこうよ!」


「恋ちゃんって言うんだよね。可愛い名前だよね。
赤羽とのこと色々聞かせてよ。」







男性の数人が私の腕を掴んで、行こうと背中を押した。
女の人たちから、大きな声で嫌がらせも聞こえてきた。
間違いなく、歓迎されている様子はない。





「子供じゃん。こんな子カルマくんの彼女な訳ないよ!」


「だよねー。間違って違う子にメールしたんじゃないの?あんた。」


「この間、私赤羽くんと帰り一緒だったけど、マンション近いみたいだし、ワタシ今日一緒に帰っちゃおうかなあ〜」






その女の人たちの声が、赤羽さんに聞こえたかどうかは分からない。でも、私は、きっとモテているだろうなっていう想像を目の当たりにした。

帰りたい。
来ちゃいけなかったんだ。








「・・・離せよ。
俺、この子送るから。ここで帰るよ。」







赤羽さんは、間違いなく不機嫌・・というより怒っている。
男の人たちの間に入って、私をその人たちから離してくれると、
私の傘を手から奪い、持ってくれた。




「赤羽ー怒んなよー。
女の子たち、最初っからお前狙いなんだからさ。まあ許してやってよ。」




「はあ?
ヒトの携帯を勝手に使って、こんな時間に彼女呼び出しておいて、
迷惑とか考えないわけ?


行こう恋。」






赤羽さんが、私のことを恋と呼び捨てにした。
初めてで、でもきっと本人は意識してないんだろう。
怒ってるから、とっさに出たのかもしれない。




「・・・赤羽さん・・、あのっ・・」





私は赤羽さんと話がしたかった。

早足だけど、腰に手を回して私を濡れないように支えながら歩いてくれている。

夜の繁華街には、こういう体制は全く不自然じゃないけど、
慣れていない私は、どう歩いていいかわからない。



でもそれよりも、すごく不安だったのは、


怒っている。
すごく、すごく。





「あのっ、ごめんなさいっ・・

私が、こんなところに来ちゃって・・だからっ・・。」





赤羽さんがピタッと止まった。
そこが横断歩道で、赤信号だったこともあったけど、
私が心配そうに見上げてところに、ようやくこっちを向いてくれた。



「・・・


違うよ、ごめん。

恋ちゃんに怒ってるわけじゃない。



・・迷惑かけたね。
こんな時間に、一人でこんなところに来させて。」









なんだか見たこともない、強張ったような表情で、
私はとても辛くなった。



ワイシャツの肩も、赤い髪の毛も濡れてる。
靴だって。

なんだか赤羽さんが泣いてるみたいに見えた。濡れてるのがそう見えただけなのだろうけど・・。




私は足元はびしょびしょだったけど、服はあまり濡れていないし、それよりも赤羽さんの心の方が心配だった。

片手を、濡れた髪に無意識に伸ばしていた。





「ごめんなさい。

・・濡れてる。」





背が高い赤羽さんの髪に手を伸ばしたけど、
軽く前髪に触れた程度で、その指を彼に掴まれた。




「・・服、濡れたね。来て。」







赤羽さんは、手を上げてタクシーを止めると、
私をタクシーに乗せて、それから自分も乗り込んだ。
私の知らない住所を言うと、タクシーは夜の繁華街を走り始めた。

赤羽さんが一緒にいて、それを不安に思うことなんてなくて
とにかく赤羽さんが大丈夫なのかが、心配だった。








10分ほどでタクシーは停車すると、そこは静かな住宅街だった。


お金を払うと、タクシーは何事もなかったように行ってしまって、そこにはもう傘にも入っていない赤羽さんが、私に傘をさしながら下を向いたままで言った。




「恋ちゃん、ごめん。

あとで送るから、



少しだけ、

一緒にいてくれる?」
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