舞姫
□B.熾熱燈(しねつとう)
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(探偵社へ戻ったメンバーたち)
とりあえず、舞姫の入社試験は合格ということだった。
異能を何かを守るために使えるか、ということが試験の一番の目的であった。
その目的を果たすためには、彼女の意思と反して異能を使わせなければならない。それを彼女の意思でできれば、文句なしの合格だ。
しかし、
今回それは彼女の意思だったのだろうか。
彼女は、異能を使った時間違いなく何かに取り付かれたかのように、虚ろで別人だった。少なくともその場にいた3人はそう思った。
それでも、社長は合格だと言った。
「私は、舞姫に異能を使わせるのは、できる限りしたくない。」
社長はそう言ったらしいが、乱歩さんはそれをしなければ探偵社の社員としての入社は無理だろうと言い、
そうでなければ、ポートマフィアとの公約を果たせないと、社長を説得、いや承諾させた。
そして乱歩さんが、彼女が異能を使うように考えられたシナリオにより、ポートマフィアに誘拐させ操るように今回の事件を起こさせた。
部屋に残った血痕は、事態を大きく深刻化させるため、乱歩がわざと大げさに汚したものだそうだ。
そして、殴られた、という情報も初めっから嘘だったのだ。
他にも、何故ポートマフィアたちが防弾チョッキを装着していたか・・。
それは、銃をもって探偵社が乗り込んでくる、と偽の情報をあらかじめ流しておいたからだ。
彼女の試験のために、死人を出すわけにはいかない。
きっと、彼女は人一倍傷つく。
「社長、彼女の異能は・・・」
唯一、舞姫の異能を体験した国木田は、未だ何が起こったのか、理解したが理解しきれてなかった。
「舞姫の異能は、祝福を与えた異能力者の力を数倍から数十倍に増幅させる。
ただ、祝福を与えた者を半分操っている状態になる事と、今は、舞姫にその異能を使う意思は全くない。」
社長は、いつもに増して深刻に話を勧めた。
その言葉に乱歩さんが、説明を付け加える。
「舞姫ちゃんが、とっても魅力的な女性になって誘惑しちゃうなんて事、社長は許せないんだよね。
恐らくポートマフィアのボスの、森鴎外もかなあ。
だけど、探偵社に入社してもらうには、これしか方法はない。
結局、あちらも黙って協力してくれたわけだ。」
「ポートマフィアもグルだったって事ですね。彼女の部屋の様子を聞いた時から、おかしいとは思っていたんですけどねぇ。」
太宰が、ため息をついてそう言った。
その目線の先には、未だ目を覚まさない女神様がいる。
すやすやと寝息を立てる彼女は、とても可愛らしい女子高生だ。
あんなに色気のある女性に変貌したところを見たら、誰もが一度は心を奪われるだろう。
あの地下室で、
国木田くんが階段上の倉庫のマフィアたちと応戦し、そのあとを追った谷崎君。
残されたその部屋で、まだ意識のあった舞姫は、私に異能の力『祝福』を与えようとした。
虚ろで色香を増した彼女の瞳は、まっすぐに太宰を捉え、その首筋に両手をのばし、桃色の唇を近づけてきた。
一瞬、意識が飛びそうなくらい甘い香りがし、頭がくらくらしかけたところで、静止した。
「ストップ。
舞姫ちゃん、もう十分だよ。」
彼女の右手を、そっと握った。
その手は思いのほか冷たく、指は細く白かった。
『人間失格』
すると、異能が解け、舞姫はその場に崩れ落ち意識を失った。
ほんとうに中也みたいだ。
我を忘れて異能に憑りつかれるところとか、ころころと表情を変えるところなんか、よく似ている。
「ポートマフィアが舞姫ちゃんを探偵社に入社させたのは、能力をコントロールできるようにさせる為ですね?」
太宰が社長に問いかけた。
それは、ポートマフィアに居た太宰が、確信を得た答えだった。
「そうだ。
恐らく、彼女を利用しようというのだろうが、少なくとも意識のある彼女にはその意思はない。
マフィアたちが彼女の意思をどうやって操ろうとしているのか、皆も気を付けていてほしい。」」
「そうだね、しばらくは心配ないだろうけど、そのうち動くだろうね。」
乱歩さんが、眠ったままの舞姫を見ながら言うと、さっきから黙ったままの国木田がようやく口を開いた。
なにやら、考えていたのだろうが、結局いい答えは見つからなかったようだった。
「とにかく!
舞姫が探偵社に入ったのだから、誰か教育係を付けねばならんな。」
「教育係?」
与謝野先生が、医務室のベットで眠る舞姫の寝顔を眺めながら、いつもより小さな声で疑問視した。
今まで、教育係なんてついたっけ?とその場にいた全員が思っていた。
「ガード兼監視、みたいな感じするよねぇ。」
太宰が国木田に、まだスパイかなんかだと疑っているのかと言わんばかりに言うと、そうではないぞと国木田が文句を言った。
結局、乱歩の賛成もあり、教育係として与謝野先生が社内で、社外では太宰か国木田が面倒を見ることとなった。
太宰は、えー面倒くさいな〜なんて嫌がっていたが、国木田は自分一人で舞姫を見ている自身がなかった。
何しろ、あの能力を肌で体感したんだ。
あの虚ろでうっとりとした眼。
するりと触れたキメの細かそうな肌。
柔らかくて甘い、ピンク色の唇が施すキス。
思い出すだけで、赤面してしまうようなあの状況は、彼女といると思い出してしまいそうで、怖かった。
「国木田くーん、
なにかエッチなこと、想像してない?」
「だ、太宰!!」
「国木田。
舞姫は酷く気にするだろうから、態度には出すな。」
社長は念押しすると、部屋を出て行った。
そのあと、乱歩さんやほかのメンバーも次々といつもの業務に戻ると、医務室の中は与謝野だけになり、
それから数十分後に、舞姫は目を覚ました。