舞姫

□D. 翳(かげ)
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☆探偵社新年会




「「「あけましておめでとうございます!!!」」」




社長宅に、探偵社の全員が集まった。

今年は社長自らの提案により、社長宅での新年会を催されたのだ。というのも、去年から社長宅に一緒に住むことになった舞姫と社員たちとの間柄を気にして、彼女の作る手作りの料理のおもてなしと一緒に、新しいメンバーを含めて仕事と別で集まれればと思ったのだった。


今までなら仕事以外で、皆で集まることなどなかった。
今年に限って、なぜこんなことを思いついたのだろうかと、誰もが初めは思ったのだろうが、おそらく彼女が原因だろう。




舞姫。



彼女が探偵社にやってきてから、否、社長とともにいるようになってから、社長は少しだけ変わったと思う。
もともと社員思いではあった。が、こんなにも社員との時間を共有しようなんてことはなかった。それはそれ、これはこれといったように、仕事とプレイベートは完全に別にしていた。

そもそも社長のプライベートはあまり知る者はいない。
知っているとしたら、乱歩さんくらいだ。
私でさえ、この探偵社では古株の方だけれども、社長のプライベートともなるとそう詳しくはない。
猫が好き、ということはよく知っているが。




「与謝野先生。少し手伝っていただいても構いませんか?」


「あぁ、わかったよ。すぐ行くから待っておくれ。」



和室が二間続いたその先にダイニングがありその奥にキッチンがある。
和室にテーブルを3つ並べて、そこには舞姫ちゃんが手によりをかけて作った手作りのおせち料理をはじめ、たくさんのご馳走が並べられていた。
どちらかというと、お洒落な料理というよりも家庭料理的なメニューで、酒のイイ肴になりそうだ。



「与謝野先生はこれを皆さんのところへ運んでいただけますか?
持っていっていただいたら、先に始めていただいて構いません。」



「へぇー、イイ酒用意したねぇ!
これは楽しみだよ。」



「社長のオススメのお酒を注文したんですよ?
ワインとか、焼酎もありますから、今日はたくさん飲んでくださいね。」



一気に嬉しくなってしまった。
飲むのは好きだが、このメンバーでならきっと楽しい。
それに美味しい肴と、可愛い後輩たちがいる。


私は、日本酒の瓶と、舞姫ちゃんが用意したカップののったお盆を持って宴の席に戻った。彼女はまだ台所で何か料理を盛り付けていた。

先ほどから見ていると、次々と年始の挨拶の品を手に集まってくる社員たちの相手をしながら、手際よく準備を進めている。
よほどご両親の教育が良かったのだろう。社長が特に彼女のことを気に入っているのもわかる。



「舞姫。少々早く着いてしまった。」


「国木田さん、今朝は途中で抜けてしまってすみませんでした。」


着ていたコートを脱いだものを受け取った舞姫は、それを慣れた様子でクローゼットのハンガーにかけ、玄関近くのフックにかけた。
国木田は少しだけ照れた様子で咳払いをすると、手土産の菓子折りを舞姫にわたして案内されるままに準備された部屋に通された。


「・・・友達には、会えたのか?」


「あ、はい。
やっぱり気付かれていたんですね。申し訳有りませんでした。」


「まあな。害はなさそうだから放っておいたが、
お前はやはり危機管理能力が足りない。面倒ばかりかけて、本当に・・・」



「国木田ァ。正月早々説教かい?
さあさ、こっち来て呑みなよ。」


後ろからグラスを二つカチンと合わせて音を鳴らすと、国木田の肩を掴んで社長のところへ連れていった。
舞姫は笑って台所へ戻ると、揚げたての春巻きを持って宴の場へ戻った。


その後次々と集まって来た探偵社員たちで、宴の席はいっぱいになり、出入り口に一番近いところに舞姫が座ると、社長が皆に挨拶をした。



「皆、開けましておめでとう。
昨年は探偵社の社員も一気に増えた。皆の力で今年も探偵社を盛り上げていってほしい。
今日は新年会だ、仕事のことは忘れて無礼講で楽しんでくれ。」



「「「カンパーイ!!!」」」



大人メンバーは早速温めた日本酒をカップに注いでいる。
未成年メンバーは炭酸のジュースやらフルーツジュースやらをグラスに注いで、さすがに若い、夕食同然、用意された食事を頬張った。



「美味しい〜!これ、どうやって作ったの?」


「これは普通に串カツと味噌だれを作るだけでできる、名古屋方面の料理ですよ。」


味噌だれに串カツをつけて食べる、というなんとなく新鮮な料理を男子メンバーはものすごい喜んで食べている。
ナオミちゃんが今度お兄さんに作ってあげたいからといっているが、あの子は料理できるのか?





「乱歩さん、今日は珍しくよく食べていますね。お菓子でないものを。」


「うん♡舞姫ちゃんの料理、すっごく美味しいからさ。
あー社長が羨ましいよ。いっそのこと僕もここに住んじゃおうかなーっ」


「駄目だ。お前の私生活の面倒は見きれん。」


「えー!?社長、ひどくない?
昔は一緒に住んでいた時もあったじゃない。」


乱歩さんがぶうぶうと文句を言いながらも、やっぱりご機嫌で法蓮草鍋を食べている。
しかしこの法蓮草鍋はサイコーに美味しい。



「ところで太宰君は?」

「あぁ、今来たみたいだよ。舞姫ちゃんとあっちで話をしてる。」









やはり遅刻して来た太宰は、皆と同じようにコートを舞姫ちゃんに預けると、手土産であろうケーキの箱を渡した。


「舞姫ちゃん、まだ始まったばかりだよねぇ?
私のぶんは残ってる?」


「まだ始めたばかりですよ。皆さん待っていらっしゃいますから、奥へどうぞ。何飲まれます?」


「じゃあ、先ずは日本酒をいただこうかな。」



ケーキを受け取ると冷蔵庫に入れながら、彼女は遅れて来た太宰の為に熱燗を用意した。
それを盆にのせて運ぶと、取り皿と箸、そしてお猪口を太宰に渡して、とても16とは思えない様子でそれを注いだ。



「慣れてるね。舞姫ちゃん。」


「舞姫は普段から、私に酌をしているからな。
それに彼女は幼少の時から、両親に礼儀作法やマナーは仕込まれておる。」



少し恥ずかしそうに頬を染めた舞姫ちゃんは、少し笑うと社長が毎晩呑まれるから・・と言いながら一口で飲んで空になった太宰のお猪口に、再び酌をして徳利をそばに置いた。

未成年メンバーであるのにもかかわらず、キャイキャイとはしゃぐこともなく周りを見ている。
ある意味天然っぽいところもあるけれど、すごくわかっているところもあって、とにかくアンバランスな子だ。





「ねえ、舞姫ちゃんてさあ、かなりモテるでしょう?
この間も探偵社に、高校の制服を着た男の子が来て市野さんいますか〜なんて来たもんだから、僕が追い払っておいたよー。」


乱歩さんが嬉しそうにそういうと、国木田が目を伏せて続きを説明した。


「そのほかにも恋文が毎週送られてくるし、仕事帰りには変な輩が後をつけているし、終いにはポートマフィアたちがお前の周りをうろちょろする始末だ。
一体、どうやったらそんな風になるんだ。」



文句を言っているようでも、かなり上機嫌だと思われる国木田が口うるさい兄のように舞姫ちゃんに説教じみたことをいう。
それでも彼女は嫌がったりはしない。
どちらかというと、少しだけ嬉しそうだ。





「そうなんですか?全然気が付きませんでした。乱歩さん、国木田さん、ありがとうございます。
学校では『あの』(ポートマフィアの)二人がいつもそばにいてくれるので、他の男子のクラスメイトとはあまり話すことはないのです。
だからきっと、誤解されていることも多いのかも。」



「へえ、でも舞姫ちゃんの事もっと知ったら、もっとハマる男の子たち、増えるかもしれないよ?
料理できるし、家庭的で気がきくからねぇ。」



クスッと笑うと、その言葉に謙遜するでもなく肯定するでもなく、彼女は社長のお猪口にお酒を注ぐと、




「与謝野先生、そろそろ焼酎にしますか?」


「いいねぇ!じゃあ、芋、水割りで頂戴。」



彼女は、はいと可愛らしい返事をしてその場を離れた。
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