舞姫

□D. 翳(かげ)
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☆探偵社新年会A



「ねーえ、敦くんとさぁ、鏡花ちゃんて・・
どこまでいってるの?」




ブハアァァァ!!!





「ちょ、ちょっと!いきなり何を言い出すんですか!春野さん!」


鏡花ちゃんが顔を真っ赤にして、固まっている。
その横で必死に何かを取り繕うかのように、敦くんが必死に抵抗するも、春野・ナオミペアに敵うはずもなく、根掘り葉掘り尋問を受けている。


「一緒に住んでるんだしー・・ねぇ?」


「同居です!ただの同居!!」


「違うでしょう?同棲だよね?」


「ち、ち、違います!!なんかその言い方、やらしいですよ!春野さん!
そもそも、社長と舞姫ちゃんだって一緒に住んでいるじゃないですか!」



「え・・でもそれちょっと違うよ。だって親子みたいなもんでしょ?歳の差だって20以上違うし。」


「あ、ま・まあ・・確かにそうですけど・・。」




若者チームがワイワイとやっているところに、トランプを持ってきた賢治くんは、みんなでやろうとカードを配り始めた。




「ねー舞姫ちゃんは忙しい?トランプやろうよ。」


「あとで行きまーす。先に始めていてください。」




空いたコップやお皿を片付けたり、食洗機に入れたりしていると思ったら、今度はデザートやお土産のケーキを用意して、運んできた。

いろいろな種類が十数個。
和風の平皿にフォークと一緒にのせられたケーキはどれもとても美味しそうだ。




「太宰、お前がこういうのを買ってくるなんて、珍しいな。」


「そう?私は結構女の子のツボをつくのは、上手い方だと思うんだけれど。少なくとも国木田くんよりはね。」




「私この、イチジクのタルト、食べていいですか?」



舞姫ちゃんは、タルトに目がない。
嬉しそうにケーキの箱を眺めると、キラキラとした瞳で訴えてきた。

社長はイチゴのショートケーキ、国木田は抹茶ケーキ、太宰はチョコレートのケーキ、乱歩さんはモンブラン・・・



お酒と合わない、と社長は言ってたけれど、甘いものは社長も好きだから結局ショートケーキを全部食べてしまった。




「美味しい。イチジク大好きなんです。」


「へえ、イチジクが好きだなんて、舞姫ちゃん、誰かさんと一緒だねぇ。」



「太宰、誰のことなんだい?イチジク好きな奴なんて、探偵社にいたっけ?」



与謝野先生は、不思議そうな顔をしてそう聞いた。
探偵社以外の人だとしたら、おそらくマフィアの人間誰かのことだろう。


「はい、たまたまですけど好きなものが一緒で。
イチジクのことは、この間知ったばかりですけどね。」



「誰なんだ?イチジクが好きな奴というのは。」


国木田が珍しく口を挟んだ。
おそらくマフィアの人間の話題だとはわかっているだろうに。


「芥川さんです。」


「い”・・、芥川か・・似合わんな。」


「ふふ、愛着湧きましたか?」


「いや、全く。」


呆れた顔で社長がため息をつくと、国木田はコホンと咳払いをして再び酒の入ったグラスに口をつけた。
社長の前で、マフィアがらみの話はやめておいた方が良さそうだ。




「そういえば、今日はあのボディガードくんと一緒だったそうだね。
舞姫ちゃんの本命は、一体どっちなんだい?」




太宰からふりそそがれたその言葉に、彼女は目を大きく見開いて言葉が出ないでいるようだった。
きっと一瞬だったのだろうけど、その時間はなぜか長く長く思えた。その場にいた何人かが、どうにか助け舟を出してやろうと思ったが、その二人にしか明確にはわからない会話に、国木田でさえ言葉が出ないでいた。



「・・芥川さんも、幸田くんも友達です。
特に意識はしたことはありません。」


「二人は思い切り意識してると思うけどね。」



「おい、太宰。
そんなに舞姫をいじめるな。困っているだろう。」




国木田がようやく口火を切って助け舟を出したが、明らかにその時の太宰はいつもの太宰ではなかったと思う。

そして、社長の耳に入る距離でのこの会話は、まずい。
ほぼほぼ舞姫の父親的な位置にいる社長は、眉間にシワが寄って本当になんともいえぬ顔になっている。


ちょうど若者チームのメンバーに呼ばれて、トランプをしに行った彼女の背中を見ながら、もう一度太宰に忠告した。




「なんだ太宰。
お前まるで彼女にヤキモチでも妬いているみたいだぞ。」



「?
何を言っているんだい?国木田くん。
私は舞姫ちゃんのこと、恋愛対象としてなんて見ていないよ?」



太宰はぐいとお酒を飲み干してそう言った。
酒は強い方だ。これくらいで酔っているとは思えない。



「じゃあ、なぜあんなことを言う。
あれでは、彼女に八つ当たりだ。」



「国木田くんこそ、どうなのさ。
舞姫ちゃんの異能力を受けた時から、少し意識しているでしょう?」



「そんなことはない。あの能力は、少し驚いたが・・
舞姫は今や探偵社員だ。大事な後輩の一人だ。」



自信ありげにメガネを持ち上げながらそう言った。
国木田のことだ、彼女の噂に聞く異能を受けたからと言って、その一時期の感情に流されることはないだろう。

でも、鏡花ちゃんと同じようには思えない。
後輩以上に、彼女に特別目をかけているように見える。今日だって、舞姫ちゃんと、幸田とかいうマフィアの構成員である高校の同級生とが、二人でお茶をしているのをしっかりと監視していたようだから、やはり気になるのだろう。



「・・で?
あの幸田とかいうマフィアの子と、彼女なんの話していたんだい?」


太宰は、後をつけていた国木田が見たことを、ある程度予測していたのか、全くのあてずっぽうだったのか、聞いてきた。




「いや、そのな・・・
幸田とかいう少年、舞姫に・・・その・・」



「なんなんだよー国木田くん。はっきり言ってくれないとわからないよ?」


結局太宰と国木田の周囲には、乱歩と与謝野の大人組4名がひしめき合って、国木田の返答を待っている。
若者がキャーキャーと騒いで遊んでいる最中に、大人組はなんとも変な状況だ。
ちょうど社長は事務員の春野が相手をしてくれているし、聞かれることもない。



「後をつけた喫茶店で、実は幸田とかいう少年が舞姫に探偵社ではどうだと近況を聞いたりしていた。それから、その・・愛の告白を・・だな・・」



「「えーー、すす、好きだって言ったの?」」


乱歩と太宰の声が、シンクロした。


「・・まあ、そんなところだ。
それでだ、そこであの、芥川の名前が出てきたんだ。」



「芥川の?」



与謝野まで顔を近づけてきて、ケラケラと笑いながらその話に食いついている。もうすっかり酔っ払いだ。



「そうだ。
幸田という少年は・・『芥川さんは、許嫁なのか』・・と舞姫に聞いたのだ。」



「「「えええぇぇ〜〜〜」」」


今度は3人の声がハモった。


「・・付き合っているの?」


乱歩さんは少々冷や汗をかきながら、聞いた。
こういうことには、いつもの超推理は発揮しないのだろうか。



「・・・それが、その時にだな・・・
えらく騒がしい若者たちが店内に入ってきて、その先の会話が全く聞こえなくなってしまったのだ。」



「「「え・・・。」」」


「なにそれ。それがオチ?つまんなーい!」

「国木田くーん、それはないよぉ。」

「完っ全に不完全燃焼!!ほんと、国木田の話はつまんないわねー!あっちでお仕置きだわね。」



与謝野に連れて行かれた国木田は、罰だと言って焼酎を散々飲まされダウンしていた。



「ねえ、太宰くん。」

「なんです?」


乱歩さんは普段はあまり他人に干渉しない。
それに大抵その人の考えやら行動を見抜いてしまう節があるため、あえて他人のすることに関心を持たないのだ。
その乱歩さんが、珍しい。



「君さぁ、舞姫ちゃんのことどうなの?結構気になってるようだけど。」

「そう見えますか?」

「まあ、ね。」



乱歩さんが、真剣な顔になっている。
彼もまた、彼女の兄的存在で、数ヶ月しか経っていない同僚という立場で、もう完全なる理解者だ。




「誤解ですよ。
ただ、芥川くんと幸田っていう子、いやマフィアの人間と彼女じゃあ、合わないと思いますけどね。」


「ふうーん。太宰くんはてっきり、彼女に『わざと』意地悪しているのかと思ったんだけどね。」


「まさか。
そんな気は毛頭ありませんよ。」



どうして皆、私が彼女に意地悪をしているというように云うのだろうか。


太宰は、空になった徳利をひっくり返して見ると、仕方なく近くにあった焼酎に手を出した。
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