舞姫

□E. 油燈(ラムプ)
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舞姫 side


太宰さんにもらったネックレスに発信機が付いているとは、気がつかなかった。
不思議と嫌な気持ちはなく、なんとなく安心感を感じたし、あれから特に危ない目にもあっていない。



しかし、この週末バレンタインデー直前に、銀ちゃんに付き合ってもらって買い物に来たら、とんでもないことに巻き込まれた。







「あれ?銀ちゃん?」


さっきまで隣を歩いていた銀ちゃんがいない。
もしかしてはぐれたのか・・でも、そんなにものすごい人ごみではない。一体どこへ行ってしまったのだろうか。

キョロキョロと見回していると、遠くに見えるモニュメントあたりで大きな爆発音がした。






「あ、ぎ、銀ちゃん・・!」





もしかして、銀ちゃんが巻き込まれたりしていないかと、考える前に走り出していた。
だって、なんとなくそういうところにはいつも芥川さんがいるんだって、銀ちゃんが言ってたことがあった。
もしそうなら、銀ちゃんもきっとそういうところにいるんじゃないかと思ったからだ。


近くまで行くと、黒煙と油臭い匂いがあたりを立ち込めていた。まだ警察も消防も来ておらず、人々は逃げ惑うばかり。人の波を逆流して走った。
どうやら酷いけが人はいないようだった。


黒焦げのゴミ箱が転がっているところを見ると、おそらく爆発したのはこのゴミ箱なのだろうか。






「銀ちゃんー!銀ちゃーん」



大きな声で呼んでも、返事はない。


いつもそばから急にいなくなるなんてことはなかったのに。
きっと何かあったんだ。
この爆発といい、銀ちゃんがいなくなったことといい。


どうしたらいいんだろう、こういうとき『太宰さん』なら・・




きっと、何か手がかりを探すだろう。
あたりに何か・・・




そう思って見回すと、遠くの木の陰に変わった格好をした男の人が見えた。
あの人はなぜこんなところにいるのだろうか。

そう思った瞬間、その人が誰かと一緒にいる。決して仲の良さそうな雰囲気ではない。会話などは全く聞こえなかったが、緊迫した空気がそれを物語っていた。あの人たちが、爆発に関わっているのかもしれない。



そうだ、今は銀ちゃんを・・


そう思った瞬間、二人の男性の横にある大きな木の上から、一人の人間が飛び降りてきたと思ったら、あっという間に一人の男性の首を掻き切った。


それは一瞬の出来事で、男性は抵抗する暇もなく血しぶきをあげてその場に倒れこんだ。その男性と話をしていたもう一人の男性は、フードを被っていて表情は伺えないがさほど驚いているようには見えない。




目の前のあまりの惨状に、
目をそらすこともできず、動くこともしなかった。いや、できなかったのだと思う。

それが、次の瞬間、
フードの男性がこちらを振り返ったときまで。






「あ・・・」



「舞姫・・さま!」


「!」





木の上から落ちてきて首を掻き切った人も振り向いた。
髪を束ねてマスクをしていたけれど、それが自分のよく知っている人間だということは、すぐにわかった。
そして、フードの男性も。




「・・幸田、くん・・銀ちゃ・・」



「舞姫さまっ・・!!」


体が勝手に、逆方向へ向かって走り始めた。
全てなかったことにしたいと思ったのかもしれない。見ていなかったことにしたいと思ったのかも。



これが以前、聞いたことがあるポートマフィアの構成員である幸田くんと、暗殺者である銀ちゃんの真の顔なのだろうか。


全力で走ったが、数十メートル走ったところで二人に捕まった。
幸田くんが左腕を掴んで、引っ張った。
見たくない、見たくないのに・・



「見てしまわれたんですね。舞姫さま。」


銀ちゃんも目の前にいた。
さっきまで一緒だった格好とまったく違う、細身のパンツ姿に高い場所で縛った髪。マスクで顔半分が隠れているが、その目はいつもそばで見ている大好きな友人のそのものだった。





「あなたを狙っている者がおりました。
それ故、幸田に連絡をしそのものを捕獲したまで。ここら一帯を巻き込んだ自爆をしようとしたため、殺したまでです。」



「あ・・・」


「あなたが近くへ来ていたのは知っていました。
だから銀は、あなたを巻き込む爆発を避けるために・・」


「・・ごめんなさい・・また、私のために・・」



どうしても、私を守ろうとしてくれるその二人に、人を殺させた。私が動けば、周りの人が私を守ろうとする。
そしてそれが、家族を持っているかもしれないたくさんの人を殺すことになる。

なぜだろう。


二人とも、私のために、

どうしてここまでしてくれるんだろう。






私は、目の前で言葉を発することのできないでいる二人を、両腕で抱きしめた。
強く、強く抱きしめて、涙を流した。

これからは、


私が二人を守れるように。


二人が私のために人を殺さなくてもいいように。


強くなるから。




「私・・・ちゃんと強く、なるからっ・・」



「舞姫さま・・」













強く、なるからね。














*・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・*






「え?いま、なんて言った?」



探偵社事務所で、国木田の声が響いた。
その声につられて、乱歩さん与謝野さん敦さん谷崎さんらが振り向いた。



「お願いです。どんなことでもやります。
だからっ・・」



「ちょ、ちょっと待て、どうしてそういうことになっているんだ。ちゃんと説明してみろ。」



国木田さんに諭されて、ちょっと焦っていた自分に気がつき、反省した。
促されて応接室のソファに座ると、そこで最近あった色々な出来事と自分の思ったこと、周りのみんなに守られなくても済むように強くなりたいと思ったことを話した。



「なるほど。
お前の考えていることはだいたいわかった。道理も得ている。
だが、お前には無理だ。」


「何故ですか!?私は絶対に強くなりたいんです!
どんなことでも、耐える覚悟もできています!」



「駄目だ!
お前には無理だ。ここにいる全員、それぞれ異能や特技を持っている。
事務員は多くの資料を短時間で集め、異能力者たちはそれぞれの能力を最大限生かしてそれを発揮する。そのために必要だと思う技術や能力は、皆違うし各自が考えて鍛えて来た。

お前はお前にできることを考えてやれ。
そもそも、お前にはお前の異能があるだろう。それに、体術などはお前には向いていない。」




国木田さんが言っていることは、正しい。
そう思ったけど、私に考える暇はないし、向いているかどうかなんてどうでもよかった。
只々、
もうこれ以上、周りの人たちに人を殺させたくない。傷つけさせたくない。






「わかりました・・」


周りの社員たちが、聞き耳を立てて衝立ての向こう側から伺っている。なんとなく静まり返っている社内で、私は次の可能性を考えていた。


「わかったなら、いい・・俺も何かお前が身を守れるよう考えておこ・・



「私、芥川さんに頼んでみます!」


「「「え”・・・」」」


「待て!舞姫、何故芥川がそこで出てくる!」




社長に頼んでみたら、国木田さんと同様反対された。そして同じように国木田さんに反対され、探偵社の方には教えてもらうのは無理かもしれないと思った。
その次に、頭に浮かんだのは芥川さんだった。




「芥川さんは、前に言っていました。私には身を守る術が必要だと。だからきっと・・」


「わかった、わかった」



ハアと大きなため息をついた国木田さんは、立ち上がると仕方ないと言ったように私を見下ろして言った。



「体術は俺が時間がある時に教える。
異能については、太宰に協力してもらう。それでいいか?」



「は、はい!!ありがとうございます!」





周りにいた探偵社の社員たちは、ホッと胸をなでおろしたのはいうまでもなく・・
只、マフィアのメンバーに教えてもらうのを避けられたのは、全員が良かったと思った。










・・・🌼・・・🌼・・・





「ところでさ、舞姫ちゃんてさぁ。
探偵社に入社したというのに、ちっとも異能をコントロールができるようにならないよねぇ。」



乱歩がぽりぽりとお菓子をかじりながら言うと、
そういえばそうだとそこにいた皆が考えた。




「もしかしてさ、

彼女、入社試験に合格してないんじゃないの?」




太宰が一言、発すると、
皆が真剣な面持ちになった。



「僕もそう思っていました。
僕でさえ虎の異能を扱えるようになってきたのは、割と早い時期でした。なのに舞姫ちゃんがなかなか異能をコントロールできないのが、不思議だったんです。」




「じゃあ、あの入社試験は・・?」


「おそらく、
偽物の試験、と言うことになるのだろう。」




全員が乱歩さんをみた。
まさか、社長にそんなことは聞けない。
それに舞姫本人が知っているはずもなく、あの時、入社試験を計画した一人である乱歩なら、何か知っているかもしれないと言う社員たちの眼差しだった。





「僕は何も知らないよー?ただ探偵社の試験的には、ちょっと甘いかなーとは思っていたけどね。
社長だったら知ってるんじゃない?まあだいたい想像はできるけどね。」



「そうですね。」



太宰が答えると、社長と舞姫がいると思われる社長室を全員が眺めた。
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