短編(書く方)

□得手不得手
1ページ/1ページ

得手不得手



話すのが苦手な分
書くのは…まぁ、ね。
そういうもんなんだって。




「何の為に生きてるかって思ったんだよ。」
「はぁ…」

ホテルの最上階。
最高級レストラン。
恋人達が夜景に酔い痴れてる様な場所ですらこうだ。

久しぶりにメールが来て『どっか食べに行かないか』だなんて言うもんだから、奢りなら是非是非と承諾したわけだ。

迎えに来てくれた藤くんは取材でもないのにネクタイなんかしちゃって、バッチリキメていた。
慌てて着替え直しましたよ。(だっていつものファミレスだと思ったんだもん…)

まさか、こんな高級ホテルの、しかも最上階を陣取る様な最高級レストランで食事なんて誰が思うだろうか。
もうちょっと文面に気をつけてもいいんでないのかな。

「例えばさ、あのでっけぇ恐竜いるじゃん。
なんとかザウルスとか、なんとかラドンとか。」
「ダイナソーとかジュラシみたいな?」
「そうそう。」

藤くんの話は面白い。
ウィットに富んでるっていうの?
ちょっとインテリな面白さ。
視点が私とは違ってるんだよね。
だけどここまで来たんだからもっとロマンチックな話しようよ。
『アンタ星とか好きなんでしょ?』って言いたくなる。

「でね、アイツらには食う食われるってあるんだよ。
ライオンとシマウマとか、そんなんもだけどさ、恐竜って地球を支配してた訳でしょ。
…してたんだけど、ソイツらの中でも食う食われるって関係があったんだよ。」
「骨肉の争いだね。」

ちょっと期待した私が馬鹿みたいじゃない。
まぁ付き合ってもないんだから無駄な心配だと言われればそうなんだけど。

「で、思ったの。コイツらは強ぇ強ぇって言われてるけど、そん中で食う食われるって関係があって、じゃあ食われるやつは何なんだって。
つまりさ…えっとこれが食うやつでこれが食われるやつね。」

テーブルの端にあった角砂糖の包みを机にならべて真剣に説明を始めた。
料理より大事な話なのだろうか。
私はむしろ料理を楽しみたい。

「でね、こっちの食われる方は食われることを恐れながらも生きてるんだよ。
普通はそんなの自殺とか考えちゃうけどさ、コイツらは生きることだけに全力を注いでんだよ。
潜在的に。」

ナニコレ。
新曲の解説?

「いつか食べられちゃうかも知れないのになんで生きるのかって話?」
「そう!そこなんだよ。コイツら食われる側はなんでいるのかって話。」
「それは需要の問題でしょ?捕食者がいるから。
…なんで捕食者がいるのかとか言わないでよね。」
「あーそれは考えてなかった。とりあえず捕食者ありきの話。
でさ、コイツら何の為に生きてるのかっていったら捕食者の為なんだよ。」
「家畜もそうじゃない?囲われて人間様の為に大切に育てられて、最終的に体で払わされてる。このお肉もそう。」
「露骨だな…。捕食者からの強制的なものは無しの状態で。」
「じゃあちょっと違うね。」
「それで、じゃあ俺は何の為に生きてるのかって思ったんだよ。捕食者がいないのなら何の為なんだって。」
「あぁそう来るのね。で、何て言う答えに行き着いたの?」

「紅といるため。
俺は、紅といたくて生きてると思う。それこそ潜在的に。
紅と生きる為。
それが俺の答え…にしたい、です。」

ビックリしすぎて手が止まっちゃったよ。

「結婚してください。」

差し出された柔らかい輪郭の箱の中に、上品に光る指輪があった。

「ず、ずれてるよ!!絶対ずれてる!!」

私は大きく溜め息をついた。
呆れたんじゃない。
藤くんってこういう人だったなぁって再認識したらなんか気が抜けただけ。

「付き合っても、無いのに?」
「俺の生きる目的だから?」
「なんで疑問系なの。
…こんなの通じるのは私だけだよ。
私は藤くんと生きるのが目的かな。多分。」

そうして私は手を差し出す。

「ね?」

やっぱり藤くんはウィットに富んでるよ。
でもって今日の服装、見た時からドキドキしてた。
最高にカッコいい、です。

***************************

「普通プロポーズに食う食われるだの、存在意義だの言う?
てっきり新曲の解説かと思った。」

「だから話すのは苦手なんだって。
…そういうもんなんだって。」

「星とか使えばいいのに。
好きなんでしょ、星。」

「あ。そっかぁそっちか!!
頭ん中恐竜でいっぱいだった。
それ見て言おうって思ったし…」

「でも嫌いじゃないよ。こういうプロポーズ。」

うーん。とりあえず、この指輪まず誰に見せつけようか。


―――――――――――――LINER*NOTES
プロポーズネタ。
TV観てたら思いついて、即文字起こし
lol
純妄想100%。
めっせーじ/##ENQ1##


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]