短編(書く方)

□真夜中逃避行
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真夜中逃避行


それは真夜中の事
月明りに照らされた王子様は私を連れ出した


―カツン
何かが当たる音。
夏だし、虫が窓ガラスにぶつかっちゃったんだろう。
そう思って私は読んでいる小説に目を落とした。

―カツン、…カツン

不定期に何かが当たる音。
こんなに音がするなんて変。ベッドに寝転がったまま窓を見つめる。
右側の窓だけ網戸にしているのでカーテンが夜風に揺らされ、月は綺麗な光を床に写し出している。

―カツン

また音がした。
窓に近付いてみたけれど虫が近付いている様子はない。
下を見ると、隣接した道に誰かがいた。
左手には何かを持っているようで、右手でそれを投げようとしていた。

あのシルエットには見覚えがある。
愛しい愛しい私の王子様。


「藤…君?」
「あ、ようやく出て来てくれた。」
藤君はふわりと笑った。
「どうしたの?」
「なまえに急に会いたくなってさ。今いける?」
「大丈夫だけど、私部屋着だし…」
「なまえはどんな格好でもかわいいよ。」
藤君は私が藤君の笑顔に弱いのを知ってか、返事に悩む頼みごとにはいつもすごく可愛らしい笑顔で恥ずかしいセリフを言う。
ちょっとズルイなぁと思いつつもやっぱり負けてしまうのが常だった。
「待ってて。今行くね。」
ほら。今日だって笑顔に負けてしまって、薄いロングカーディガンを羽織って部屋を飛び出してる。

「藤君!」
「海に行かない?」
「海?」
「そう。真夜中ドライブ。」
不意にヘルメットを渡され、戸惑っていると藤君は傍らにあったバイクに跨がった。
慌ててヘルメットを被り藤君の後ろに乗った。
どこに掴まろうか悩んでいると、藤君が腰に手を回してと言ってくれた。

海は割と近くて、部屋の窓からも見えている。
風を受けながら海岸沿いを走り抜ける。
頭の中で『耳をすませば』とか『タイヨウのウタ』とかのシーンを思い出してみる。
二人乗りは青春の証だなぁなんて思ったり。

無意識に藤君に抱き付いていた。
背中に頬をあて目を閉じる。暖かい体温が伝わる。
夜風が心地よい。

「着いたよ?」
少しウトウトしてたみたいだ。
人気のない海岸は海の静かな小波の音だけが響いている。

「んー!!気持ちいいね!」
「来て良かったっしょ?」
「うん。」
藤君が自販機にジュースを買いに行くとかで私も着いて行った。

「何がいい?」
「ホットミルク…はないからミルクセーキかな。」
「すごい甘そう。」
「あれ?甘いの嫌いだったっけ?でもこれ飲んだらぐっすり寝れるんだよ。」
「へぇ。俺はバイクがあるからファンタにしよっかな。」
硬貨投入口に100円玉を入れようとしたら、引っ掛かったのか5円玉が落ちた。
それを見て昔流行ったおまじないを思い出した。

「藤君藤君」
「ん?」
「こうやってね、5円玉を空に翳してね」
「うん。」
「ほら、月が綺麗に穴の中から見えるでしょ?」
「あ、ホントだ。」
藤君は私より背が高いから少しかがんで覗き込んだ。
「これを二人で見たらずっと一緒にいられるんだって!」
藤君はにっこり笑って「やったね」と呟いた。



二人でジュースを飲んでからまた藤君のバイクで家まで送ってもらった。

「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。今日はありがとう。」
「すごく楽しかった。また行こうね。」

私は藤君の姿が見えなくなるまで見送ってから家に入った。

すごく幸せな気分でベッドに潜り込むといつの間にか眠っていた。
その日の夢はすごく幸せなもので、朝起きてからもまだ幸せな気分だった。


-----------------------------------LINER*NOTES
一人暮らしでお洒落な3階建てぐらいのアパート(?)に住んでるイメージです。

ホットミルクはホントに眠れない時に飲むと良いらしいですよv
トリプトファン…だったかな?物質名はちょっと忘れちゃいました…(苦笑)

めっせーじ/##ENQ1##


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