短編(書く方)

□飛べない翼
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飛べない翼



時が過ぎ
全ては思い出になる

ライブ終わりに夜空を見上げる。
手には1枚のアンケート用紙。
「藤くーん。帰るよー。」
「おぅ。」
俺は藤原基央になる。
今日は良い日だ。

*******

「あれ、藤原じゃん。」
偶然会ったクラスメイト。
「路上ライブ?」
「あ、あぁ。」
特別仲が良いわけじゃない。
「なんか歌ってよ」
音斗葉はそう言って、俺の前に座り込んだ。
甘い香りがした。母さんがよく付ける香水の匂いだ。

音斗葉の持つ大きなスーツケースが気になった。
「旅行?」
「アハハ、藤原って面白いこと言うねー。」
音斗葉は俺の目を見据えて不敵に笑った。
「現実逃避だよ。」

「家出ってこと?」
「うーん…惜しいな、夜逃げだ。」
「一緒じゃねぇか。家、帰れよ。」
「違うな。夜逃げの方が色っぽい。」

軽くあしらわれた気がする。
屈託無く笑うその顔は嫌いじゃない。
よく見れば綺麗な顔立ちで、白い肌に薄化粧が良く似合っている。
「藤原さぁアタシの事嫌いだろ。」
「…なんで?」
「素直だねぇ。藤原は清楚な子が好きそうだもんな。」

沈黙が流れた。
先に口を開いたのは音斗葉だった。

「アタシの噂聞いてる?」
「いや…」
そういやクラスの女子が何か噂してたな、とか頭の隅で思いだす。
「あ、駆け落ち。」
「なんだもう知ってたのか。そうだよ。」
「学校は?」
「行かないよ。馬鹿で短絡的だろ。」
「え、と…」
「ホントに素直だねぇ。藤原にもさ、いつか分かるよ。アタシは音斗葉紅になる為にここを去る。藤原も頑張りなよ。」


たしかたった1曲だけ歌った気がする。
その後ひらひらと手を振って、音斗葉は去って行った。

あの後ろ姿を俺は忘れない。

俺が音斗葉の事を嫌いだって?
それこそ短絡的な思考だ。
音斗葉の生き方は賛成は出来ないけどかっこよかった。

*******

「ねーねー藤くーん。」
「あ?」
「これなんだろうね?」

チャマに手渡されたアンケート用紙にはただ"アタシは私になった"と清楚な字で書かれてあった。
懐かしい甘い匂いがした気がした。


―――――――――――――LINER*NOTES
駆け落ちしていったクラスメイトがライブハウスでの演奏を聴きに来ていたと言うまぁそんなお話しです。
めっせーじ/##ENQ1##


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