短編(書く方)

□飴玉
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飴玉



少しの欠落に、涙。



些細な事でケンカをした。
どうしてケンカになったのか考えてみても小さすぎて見逃すほどだ。
でも私にはどうしようもなくおおきかった。
彼はライブ前でピリピリしてたし、私は私で寝不足だったし、不本意な事態には違いなかった。

『もう知らない!』
『なんで、そんな怒んの。』
『私の気持ち、ひとっつも分かって無いよ!!』
『紅、』
『…今日はもう行かない。』
『そ。好きにすれば?』

彼の呆れた溜め息と、突き放された言葉が今もループしている。
あぁもぅホントに何やってんだ私。
机の上にあるBUMPのライブチケットを恨めしそうに眺める。
あの時は勢いで行かないなんて言ったけど、行きたいに決まってる。

時計を見る。
あぁ今ごろみんな並んで期待に胸を膨らませてるんだろうな。
グッズのタオルを肩にかけちゃったりしてさ。
…。




「あれ、紅ちゃん!もうライブ終わっちゃうよ!?」
「あ、こんばんは……まぁちょっと色々ありまして…いやでも会えてよかったです。今からじゃもう入れませんか…?」
「大丈夫大丈夫。…藤と何かあった?」
「え、…いゃまぁ…」
「藤ね、寂しそうにしてたよ。舞台袖だけどいい?」

大の男が寂しそうに?笑っちゃうね。…なんてホントは今私泣きそうだ。

「こっち」

案内してもらった舞台袖から彼を見つけた。
アンコールの曲を歌おうとしているとこみたいだった。

相変わらず細いな。
少し口許が緩む。

「飴玉の唄」

静かにイントロが流れ出す。
一瞬にして空気が変わったのが分かる。
客席の時が止まった。
私の時も止まってしまった。

『僕は君を 信じたけど
君が消えたらどうしよう
考えると 止まらないよ
何も分からなくなる
いつか君と 離れるなら
いっそ忘れる事にしよう
出来るのかな 無理だろうな
離れたくないな』

ホント、そうなの。
私の気持ちしっかり唄ってんじゃん。
バカ。

『僕は君と 僕の事を
ずっと思い出すことはない
だって忘れられないなら
思い出に出来ないでしょ
ねぇ怖いよ
止まらないよ
上手に話せやしないよ
君は僕を 信じてるの
離れたくないな』

今日はどうしてそんななの。
駄々をこねる子供の様な唄い方に胸が締め付けられる。
信じてるよ。
だから私だって譲れないんじゃん。
そんな泣きそうなほど壊れそうなほどの声で唄わないでよ。
今すぐ抱き締めてあげたくなる。

『見えなければ 知らなければ
だけどそんなの君じゃないよ
僕は嫌だよ 君がいいよ
離れたくないな

飴玉食べた 君が笑う』

ごめん、笑えないよ。
私はしゃがみ込んだ。




「紅…」

声が降って来た。
肩で息をしながら私の前にいる。
滴り落ちる汗が見えた。

「ごめん…」
「紅、」
「信じてるよ。
信じてたから怖かったんだよ。
重荷にはなりたくないの。
離れたくないよ。
大好きだよ。どうしようもなく好きだよ。
だけどね、だからね、」

涙が私の言葉を邪魔する。

「紅、俺こそごめん。
俺だって紅がいいよ。」

続いていた歓声が止んだ。

「いくらでも待ってるし、何時だって会いに行くし。
だから、やりたい事やっておいで。
俺はしつこいから覚悟しとけよ。」
「ふふふ。」

涙が止まらない。
あーあ。せっかくのメイクが台無しだ。
横隔膜が痙攣するほど泣きじゃくりながら、彼の言葉が嬉しくて笑った。
なんて間抜けなんだろう。

彼に抱き締められてあやされる私はまだまだ子供だ。

彼の鼓動に目を閉じた。



―――――――――――――LINER*NOTES
スーパーライブの飴玉の唄が一番好きです。
藤原さんのホントに駄々をこねる子供の様な唄い方が胸に迫って来て泣きたくなります。
『思い出に出来ないでしょ』『僕は嫌だよ』の辺りが最高に好きです。
ライブの唄い方は感情が溢れ切ってて大好きです。
藤原さんの思いはCDに閉じ込められるようなもんじゃないと思います。
CDはCDで耳元で聴こえるから好きなんですけどね。

飴玉の唄、2作品目です。
ケンカの内容はどんなだったんでしょう(笑)
些細な事が欠落すると、意外と泣きたくなるもんなんですよね。

音斗葉 紅

めっせーじ/##ENQ1##


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