短編(書く方)

□四月馬鹿。
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四月馬鹿。



叶えたくない嘘を



テレビから美人キャスターのしっかりした滑舌で、今日から4月ですね、という声がする。
それに答える男性司会者が、エイプリルフールでもありますね、などと毎年お馴染みの返しをしている。
俺はエイプリルフールか、と独りごちる。
昔は皆を驚かせてやろうと前の日からあれこれ考えていた気がするが、30も過ぎるとそんなことに労力を割けなくなってしまった。
どちらかというと、あの時のあの嘘は酷かったよな、と過去の話題を掘り下げる方が多い。

今日は人と会う約束をしていて、そんなエイプリルフールの話題と桜前線の話題をBGMにしながら準備を進め、入社式の話題になったころ、家を出た。

待ち合わせ場所に向けて、てくてくと歩く。
いつも通る道はまだ桜が咲く様子はなく、今は桃が頑張っている。
そういえば、と朝の話題を引きずっていた俺は、今までで一番酷い嘘を思い出した。
もしかしたらそれがきっかけで、嘘を吐くのが嫌になったのではと思うほどのトラウマだ。
実はそれは1回のことではなくて、何年も続くのだが。


1年目は、入学前の説明会で一度学校に召集された日だった。
お友達を作りましょう!か何かの目的で、出身校の違う生徒同士で挨拶をする時間があったのだが、その時に当たった女の子から言われた一言だ。
俺は少し尖り始めていたから、なんだだりぃなという体でいたのには違いない。
しかし、それにしても、会って一言目に
「私、貴方のこと、嫌い。」
と言われたのは頭にきた。
食い気味に「は?!」と声を出していた。
「嫌ね、エイプリルフールなんだから、怒らなくても」
先日までランドセルを背負っていたにしては綺麗で大人びた子だったけれど、心象は最悪だ。
加えてそんな雰囲気の所為で、どこか高飛車に見えて、その1年はその子を見るたびにいらっとした。

2年目は、部活で学校に行ったのだと思う。
部活と行っても補欠で、いつものメンバーで体育倉庫にいた時だったと思う。
またもあの嫌味な女子からの一言だ。
彼女はこれまた嫌味なことに、1年生の頃から女子バスケットボール部のレギュラーになっていた。
そして、部活で使うボールを準備しに来た時に、体育倉庫へとやってきたのだった。
「あ、みょうじさん、やっほ!」
チャマは仲良くやっているらしく、気軽に声をかける。
「何してるの?部活は?」
「俺ら補欠だから!」
ここで自主練、などと冗談めかしていうのにも、ふーんと素っ気なく返すだけだ。
ちょうど、バスケボールの籠の近くにいた俺は、彼女と目を合わせることとなる。
最高に尖ってた俺はどちらかというと睨み上げる。
「嫌い」
それだけ吐き捨てて彼女はボールをさっさと運び出していく。
「え?なにあれ?」
「だから、いったべ。あいつのこと、俺苦手なの」
「えーと、あ、ほら!エイプリルフールじゃない?」
「はぁ?」
まさか、いやでも、確か去年もそんなことを言っていたような。
それにしてもムカつくことに変わりはなかった。

3年目も似たような状況で、流石に我慢ができなくなった。
高校も離れることだし、ここで言わねばと、意を決して反撃にでた。
今まで黙っていただけ褒めて欲しい。
「あのさ、俺に恨みでもあるわけ?」
「無いけど」
「じゃあなに?」
「...エイプリルフールだってば」
また、それか。
幾ら何でも、言っていい嘘といけない嘘がある。
人を傷つける嘘を言って何が楽しいんだろう。
そこではたと気づく。
俺は、傷ついてたのか?
「じゃあなに、嫌いじゃないってこと?」
「そんなことで嘘つくわけないじゃない。もっと考えて。」
「じゃあなに、好きってわけ?」
イラっとして口から吐いて出てしまった。
しまった、と思った時には遅かった。
なんてふざけたことを言ってしまったのだろう。
彼女を見れば、驚いて目を丸くしている。
そりゃそうだ。
しかし、みるみるその顔は紅く染まっていく。
......あれ?
「え?」
「うるさい!」
「は?!」

かくして、数年ののち、彼女が今でいうツンデレ属性だったということに気付き、付き合うことになった。
チャマにこの話をした時には大爆笑を買った。

高校になってからも相変わらずで、彼女はエイプリルフールにかこつけて何かと言いにくいことを伝えてきた。

そして彼女が大学に進学するとき。
わざわざ呼び出されて俺は嘘をつかれることになる。

「いま、なんて?」
「だから、別れようって言ったの。」

いつもなら、はいはい、と流せるのだが、会う回数が減っていたこともあって焦った。
エイプリルフールだということさえ忘れていた。
一人であれこれと考え、引き止める資格ももはやないだろうと決心した時、明るい声で嘘だよーん!と言われた。
数年ぶりに、彼女に対してイラっときた。
普通ならその場で喧嘩して、本当に別れていたにちがいない。
そうならなかったのも、彼女のその後の言葉のおかげかもしれない。
「知ってる?エイプリルフールでついた嘘って実現しないんだって。
嘘ついて、ごめんね」
「お、おう......」
ふふっと笑う彼女に、怒る気力が失せたのにも違いない。

とまぁ、こんな具合で彼女には毎年酷い嘘を吐かれるのである。
おそらく今年もそうだろう、と覚悟して待ち合わせ場所の喫茶店に入る。

「待った?」
「ううん、今来たとこ。何か飲む?」
「あぁ、じゃあ、一緒ので」
すかさずやってきた店員に注文して、彼女の話に耳を傾ける。
大抵は職場の話題だ。
会ったことは一度もないのに、俺だけが一方的に親しみを覚えていてなんだか変な感じだ。

「今日はエイプリルフールですね」
「え?どうしたの?」
「朝、アナウンサーの人が言ってたからさ。
なんか、昔つかれてた嘘思いだしてきた」
なまえはひとしきり笑うと酷い話だね、と他人事のように笑う。
「たまには藤くんが嘘ついてもいいんだよ?」
「俺?俺はいいよ」
「嘘なんてつきたくてつけることないんだよ?」
そう言われても、だ。
しばらく思案する。

「じゃあ」
「お、何々?」
「嫌い、もう一緒に居たくない」
前置きして行ったのになまえは少し泣きそうな顔をしている。
「いや、だから嘘だって!
やっぱ向いてねぇよ」

なまえは手で顔を覆って、目だけを覗かせる。
「嘘、だよね?」
「嘘嘘」

今度はふふっと笑って呟いた。

「私も、嫌い。
一緒にいてあげないっ」

きっとここだけ聞いた人はびっくりしたことだろう。
それにしても、やっぱり俺は、嘘なんかじゃなくて、ちゃんと言いてぇなぁ。
まぁ、なまえがニコニコしてるなら、それでいっか。


―――――――――――――LINER*NOTES
お久しぶりです。

めっせーじ/##ENQ1##


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