短編(書く方)

□NOT SIMPLE
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NOT SIMPLE



きっかけは
複雑なのよ
いつだって


「あ、なまえちゃん!こっちこっち!わざわざごめんね〜なんか今日は張り切っちゃったみたいでさ、」
「いえいえ!無事連れ帰りますので!」
「しかし、あれだね、女子大生にお迎え来てもらえるとか幸せもんだな!このこの!」
「もう院生なんでお局、てかんじですけどね。」
「はははっそいじゃよろしくね!」

深夜に藤原さんから電話だなんて、と思ったら下戸なのに一気してぐてんぐてんになったらしい。
とりあえず彼女の私に、とチャマさんが連絡をくれて迎えに来た、…なう。

「もー、なんでこんな頑張っちゃったんですか〜」
「ごめんね、ほんっっとごめん」
「構いませんよ〜まっかせてください!」

そういえば、昔もこんなに酔っぱらった藤原さんを見た事がある気がする。
そう、確か数年前、私が居酒屋でバイトしてた頃だ。

***

「いらっしゃいませー!3名様ですね、こちらへどうぞー!」
「すいませーん!生2つー!」
「生ですねー!かしこまりましたー!」

タバコとアルコールと笑い声に騒ぎ声。
私のバイト先。
全国的にも展開している居酒屋チェーン店。
ほんとはこんなところ苦手だけど、時間的にもシフト的にも学校との両立を考えてもここが一番だった。

騒がしいのは我慢できるとして最近の悩みは美味しすぎる賄いが私の体に着々と積み重なっていっている事と、

「ねーお姉さんさーいくつー?だいがくせー?」
「あ、えっと、」
「バイトでしょー?何時まで?終わったらあそびいこーよ」
「き、今日は帰ったらすることがあるんで。失礼します!」
「え〜?」

酔っぱらったお客さんの対応、というかナンパだった。
ナンパされるだけ私も結構いけるのかなとも思ったりするけれど、声をかけてくるのは苦手なタイプばかりで辟易する。
先輩のようにうまくあしらえるようになりたいものだ。

「あ、すいません!」
「っはい!」
「えーと、この鉄板焼きとーこれとー…」
「藤くん大丈夫?」
「おう!いけるぜ!」
「いやいや、それやばいって。どしたの今日は?」
「いや、呑める気がするんだよね!今日!」

この人達は常連さんだった。
向こうは私のことなんていちいち覚えてないだろうけど。
注文をしている人の向かい側の人はどうやら下戸のようでこんなに呑んでるのを見た事はない。
フラれちゃったのかな。
いつも前髪が長くて顔がよくわかんないけど口元のきれいな人だ。

「じゃあこれで!」
「はい、かしこまりました。」

たまに聞こえる話から彼らは幼なじみのようで、それを少し羨ましく思う。
若く見えるけど何してる人なんだろう?

そんなことを思いながら厨房に注文を伝え、テーブルを片付け、また注文を受けに行く。

休憩に入ろうかという時だった。
お手洗いに人が籠りっぱなしだと言う。
また酔っぱらったお客さんが寝てるのか、と思ったけどふとさっきのお客さんの事を思い出した。
そういえばいつになく呑んでたし、もしかしてつぶれてるんじゃないか、と。
私は急いでお手洗いに向かい、ドアをせわしく叩いた。

「お客様!いらっしゃった、ら?!」

ふいにドアが開いて出て来たのはさっきナンパされた人だった。

「は?!」

口元を押さえられて叫ぶ事もできない。
ここのお手洗いは奥まっているし、席からはここの様子なんて見えないだろう。

「つーかまえた!ここにいたら心配して来てくれるんじゃないかと思ってさー」

抵抗を試みるも力ではやはり適わない。
やばい、このままじゃ個室トイレに連れ込まれる、そんな時だった。

「あのー、そこ2人で入るのはキツいと思いますよ」
「あ?うるせえな、お前なんなんだよ?」
そんなひょろい体で、とナンパ野郎が悪態をついた瞬間。
手首を掴んだかと思うとそれを捻り上げた。

「って…!!」
「嫌がってんじゃん。それに俺こうみえても重いモンとか持ってっしそれなりに力あるよ?」

いつも温和そうに笑ってる彼に凄みがある。
…といってもやっぱり目は分かんないんだけど。

「お客様!どうかしましたか?!」
「あ、チーフ…」
「…いや。俺が飲み過ぎちゃって具合が悪かったのを2人が心配してくれたんですよ。すいません、ご迷惑を…」
「え?」
「そうでしたか、大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで。」

その後ナンパ野郎はバツが悪そうに席へ戻っていった。

「どうしてあんな事、」
「ん?だってここで騒いだら、ねぇ。でもごめんね、あんなことされて、仕返ししてやりたかったよね」
不適に笑ってそんなことをいうもんだから怖かった気持ちも薄らいで吹き出してしまった。
「あはは、そうですね、一発仕返ししてやれば良かった。」
「ふふっ………………」
「?、どうしたんですか?」
「きもちわるい…」
「えぇっ?!呑めないのにあんなに呑むからですよ!!」

***

俺、全然かっこついてないじゃんね。と弱々しく笑ったあの顔にきゅんときたのは今でも覚えている。

「着きましたよ〜」

私は助手席側に回ってドアを開ける。

「起きて下さい、着きましたよ〜」
「ん…いえ?」
「はい、歩けますか?」

心配だから肩を貸してあげながらやっと部屋に着く。
本能なのか靴を綺麗に脱ぎ揃えてソファにダイブするとすぐに寝息をたて始めた。

お酒くさいけど酔っぱらった藤原さんはふわふわしてて好きだ。
あとなんかいつも以上にあったかい気がする。
(髪の毛もふわふわだ…)
猫や犬にもふもふするようにすり寄ってみる。

「あの時藤原さんが酔ってなかったら私たち付き合ったりしなかったんですかねー…わっ!」

一瞬の隙にホールドされてしまった。
顔が、近い…

「俺ずっとさ、なまえちゃんのこと見てたんだよ。一生懸命ですげー可愛いなぁ、って。だから、あの時姿が見えないなって不安になってさ。」
「ストーカーみたい」
「でもおかげで助かったでしょ?ふふっ」

ひとつ、キスが落ちる。

「あとさ、そろそろさん付けはやめない?」

もうひとつ。

「く、くすぐったいですよぅ…」
「言ってくれるまでやめない。」

額にひとつ。

「わ、わかりました!えっと、えっと、基・・・」
「んー?」

ほっぺにひとつ。

「……基、くん?」
「ごうかくっ」

唇に…あれ?

「…え、嘘、寝たんですか?え?!」

残念だった、なんて言ったらまたからかわれそうだから黙っとこう、うん。




小刻みにひびく心地よいリズムといい匂い。
「はらへった…」
「あー、基くん起きた?気分はどう?」
「へ?」
「ほら、顔洗ってきて、美味しい朝ご飯できてるよ!」
「今さ、」
「何ー?ほらほら、急いだ急いだ!」

強引にバスルームに追いやって一息つく。

(めっっっっっっっちゃ恥ずかしい!!)
パパママからお父さんお母さん呼びになった時よりもっと恥ずかしい。



「昨日迎えに来てくれたの?」
「うん、チャマさんに連絡もらったの」
「ほんっと、ご迷惑をお掛けしました。」
「いえいえ。」
「でさ、さっきさ、」
「なななななに?!」

そこは軽くスルーしてくれ!と願ったのに、つっこんできた。

「もとくんt「だって、そう呼べって、呼ばなきゃ、き、きすやめないって、」」
「えっ?!俺そんな事言ったの?!」
「覚えてないの?!」
「はっず…」

基くんも顔真っ赤にしてるけど、私だって恥ずかしい!
しかも覚えてなかったのね…

「何で覚えて無いんだ…勿体ねぇ、超勿体ねぇ…なまえ、もっかい、言って?」
「う、うぇええ、…基くん。」

ふふっと綺麗な口元に弧を描いたのが見えたと思ったら抱きつかれてキスされていた。

「今度は敬語やめよ?」

あぁ、本当にずるい人だ。
これが惚れた弱みってやつなのだ。

キスの嵐は止まない。


―――――――――――――LINER*NOTES
想歩様(と呼ばせて下さい)本当に遅くなって申し訳ありませんでした!!!
私から相互記念しましょう!なんていっておいて、本当に何ヶ月かかってしまったのでしょう…
会わせる顔が無い…
学生ヒロイン×社会人藤くんの甘めで、とリクエスト頂いたのですが、つまらない性格故、辻褄とかめちゃくちゃ考えちゃうんですよね。
いやいや、これは流石にありえんだろ、と。
はじめ高校生設定で考えてたのが大学生になり、糖分が少なくてすいません…

ときめき、お届け出来ましたでしょうか?


めっせーじ/##ENQ1##


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