短編(書く方)

□はやとちり
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はやとちり



この気持ちは
捨ててしまいたくて
でも、出来なくて。




最近ヒロがウキウキしてる。
毎日が楽しくてしょうがないみたいな感じ。

そうかと思えば昨日なんかは酷く暗くて、死に神を背負ってんじゃねぇかって思った。

何が原因かってチャマに聞けば、恋だっていう。
しかも相手はみょうじさん。

俺が先に好きになったんだからな!
…なんていうのは心の中で思ってるだけで。

"俺の方がずっと前から好きなんだから"と下らない暗示をかける。

ヒロの恋が実ったらそれはすごく嬉しいし、自分のことの様に喜ぶけど、相手がみょうじさんならそう簡単にはいかない。し、いかせない。

ついでに言うと最近2人の距離が近付いてるようでそれが1番気に食わない。

「おはよう」
「あ、おはよう」

靴箱でみょうじさんに会ってヒロが挨拶をする。
それに応えるみょうじさんはヒロしか見てなくて俺なんて視界の端に追いやられてしまっているんだろう。

「藤原君も。おはよう」
「え?…あ、あぁ。おはよう」

前言撤回。

みょうじさんはみんなに優しいんだ。

朝からあんなに可愛い笑顔を見たならどんな1日でも頑張れる。

「おいヒロ」

ふと見れば嬉しそうににやけちゃったりなんかしてて。
心がザワつく。
この感情なんだっけ。
すごく嫌な感じ。

「…お先に」
「え!?待って待って。なんか怒ってる!?」

理不尽にイラつく自分も嫌な感じだ。

休憩時間でも放課後でもとりあえずみょうじさんとヒロが仲良くしている所を見るのが辛い。

しかもヒロとみょうじさんは席が隣り同士で、俺は2人より後ろの席だから嫌でも目に入る。

授業中、こっそり話してる様子なんて見れたもんじゃない。

そういう時、真っ黒な感情が心の中に渦巻いてそんな自分が嫌になる。
でも、真っ白な気持ちで"お互い頑張ろうぜ"なんて言えるほど俺は出来た人間じゃない。

ヒロのように接せられたならどんなに楽だろう。
現状が苦しい。
みょうじさんを諦めれば楽になる?
それはきっともっと苦しい。


「藤君」
「あ、何?」

考え込んでたら授業は終わっていて、ヒロが目の前に立っていた。

「ちょっと、屋上に」

真面目な顔をしたヒロは噛み癖さえ見せない。

「おう」
「で?」
「俺さ、その…みょうじさんのこと、なんだけど」

俺は黙って何も言わない。
ヒロは叱られている子供の様に目を合わせない。

「いいなって思っててさ」

返事を待っていた様だけれど返ってこないのを見越してかそのまま続ける。

「藤君もさ、好きだよね。みょうじさんのこと」
「みんな好きなんじゃねぇの?」

口を開けば、ヒロに素直になれない自分がいる。

ほら、また真っ黒な感情がざわめいてる。

「優しいし、可愛いし、真面目だし。
嫌いな奴なんていないんじゃねぇの?」

相手を追い込んで自分の気持ちを落ち着かせようとする。
俺の一番悪い所。

「そうじゃなくってさ」

小さく溜め息をついて更に追い込む。

「それ聞いてどうすんの。
ライバル宣言?牽制?予約済みって?」

その時初めて視線がぶつかった。

力強い目に驚いた。

「藤君にはかなわないかもだけどさ、昔から口喧嘩は負けてばっかだし。
だけどみょうじさんが好きってのは負けないから」
「…」
「後ろめたかったから。藤君も好きだって知って。それだけ」

沈黙が訪れてチャイムが鳴った。

ためらいがちに屋上を後にしたヒロを見送って寝転ぶ。

「あいつ、全然草食系じゃないじゃん」

さて。
俺はどう出ようか。

昼休み。

「最近ヒロと藤君話さないよね?」
「お前、気付かねぇの?」
「え、何何々!?」
「あのほら、みょうじさんの件で」
「マジで?え、喧嘩なの?」
「喧嘩じゃないと思うけど」
「ふーん。ま、俺達は暖かく、見守ろうぜっ」
「お前絶対首突っ込むなよ」
「秀ちゃん、俺はそんなに無粋じゃないんだよ?」

何気なく会話を聞いてしまった俺はドアを開ける事が出来なくて、引き返そうとした。

そうしたら下からやってくるヒロと目があってどうにも身動きが取れなくなってしまった。

「何してんの?」
「別に」

ヒロに続いて屋上に出て何気ない風を装う。


昼休み。ヒロは委員会でもうこの場には居ない。
食事中はチャマが必死で面白い話をして秀ちゃんが冷静に相づちを打っていた。

誰かを好きになるっていうのは思っているより個人的な問題だけでは済まないらしい。

ヒロが俺に宣戦布告してからはさらにみょうじさんと仲が良くなった気がする。

「藤君はこれでいいの!?」
「チャマはどっちの味方なんだよ。ヒロにも同じ事言ってたじゃん」
「バッカ、俺はね2人ともに頑張って欲しいの」
「良く分かんねぇけど。要はみょうじさんの気持ちなわけでさ」

冷静を装っているけれどホントはかなり焦ってる。

みょうじさんが好きなのはきっとヒロだ。

ヒロは委員会、チャマはバイト、秀ちゃんは塾で4人全員がバラバラで帰宅する日がやってきた。

こんなに用事が被るのは珍しい。
ヒロと2人っきりというのも気まずかったからどことなくホッとしている。
俺ちょっと運が良いかも、位の。

だけどそんな日に限って午後から雨が降り出して、傘を忘れた俺はバス停まで走る事にした。

結構本格的な雨で、体はすぐにびしょ濡れになる。

こんなに制服を濡らしたなら帰って怒られるのは目に見えてる。
憂鬱だ。

ようやく停留所の屋根が見えたと思ったら同時にみょうじさんが目に入った。

嬉しいけれど、気まずい。

頼むから気付かないでくれと思いながらベンチに座ろうとした。
だけどそんな努力も虚しくあっさり気付かれてしまう。

「藤原君大丈夫!?」

びしょ濡れの俺を見てみょうじさんは慌てて鞄からタオル生地のハンカチを取り出すと濡れた制服や鞄を拭いてくれはじめた。

「あの自分で、」

「あ、ごめん…これ使う?」

「ごめん。」

会話は止まってしまった。
みょうじさんはカーディガンの裾を引っ張ったりして、俺はひたすらタオルで拭いてなんとか空白を埋めようとする。

しばらくその状態が続いたけれど、不意にみょうじさんの手が頬に触れた。

「寒そう。」

ほぼ反射的にその手に自分の手を重ねていた。

雨で冷えた頬と手にみょうじさんの温もりが伝わる。

みょうじさんに触れられて今まで隠してきた感情が溢れ出してきた。

「藤原君?…わっ」

次の瞬間みょうじさんを抱き締めた。

「ヒロなんかと仲良くしないで」


***
藤原君の声が耳元で木霊した。

「みょうじさんがヒロと仲良くしてるとこ見るの辛いんだ」
「えっと」
「みょうじさんが好きなんだ」

低めの柔らかい声。
こんな声を耳元で聴いたら泣きたくなってしまう。

藤原君との間に距離が出来て初めて間近で藤原君の瞳を見た。
長い前髪で気付かなかったけれど、隠すのは勿体ない綺麗な瞳だ。

「えいっ」

藤原君の前髪を衝動的にかき上げた。

「みょうじさん…?真面目な話してるんだけど…」

「隠すの勿体ないよ。すごく綺麗な瞳なのに」

涙が零れそうになって藤原君に抱き付く。

見た目よりもっとずっと細くて、しかも雨で冷たくて。
だけど藤原君自身は暖かい。

藤原君の掌が頭に触れて涙が零れた。

「…私」

本音を打ち明けてしまってそれを自覚したらすごく恥ずかしくなった。

***

みょうじさんから手を放して距離を取ると急に視界が明るくなった。

みょうじさんに前髪をかき上げられてしまったのだ。


「みょうじさん…?真面目な話してるんだけど…」
「隠すの勿体ないよ。すごく綺麗な瞳なのに」

そう言って今度はみょうじさんが抱き付いてきた。

みょうじさんは背が低く頭1つ分は優に違っていて、上から見下ろすとすごく可愛い。

手持ちぶさたの右手をみょうじさんの頭に乗せてぽんぽんと柔らかくたたいてみる。

「…私も藤原君の事好き」
「あれ!?ヒロじゃなかったの?」

否定する様に頭を横に振る。
表情は分からない。
小さな子供が泣きじゃくっているみたいだ。
愛しくなってぎゅっと抱き締め返す。

「増川君は、相談にのってくれてたの」
「え、そうなの!?俺てっきり…」

じゃああの宣戦布告は嘘だった?

「藤原君が好きって言って断ったら、応援してくれるって」
ということは、あの一番暗かった日ヒロはフられていた?
ヒロの方が何倍も大人だったことになる。
なんか悔しいな。

「アイツ策士だなぁ…」
「ごめんなさい。増川君と仲良くして」
「…じゃあなんかお詫びちょうだい?」
「お、詫び?」
「そ。ずっと無駄なヤキモチ妬いてたの。
苦しかったんだよ?」

「えーと…、」

見上げてみょうじさんは言った。

「キス、ぐらいなら…いい、かも」


***

「何それ!のろけじゃん!!」
「俺のみょうじさんがぁぁぁ」
「ヒロはフられたんだろ?」

当然の様に風邪を引いた俺は学校を休み、放課後ヒロ達が見舞いに来てくれていた。

とりあえず差し障りのない程度に(特に後半の方は俺だけの秘密だ)昨日の事を話したら真相を知らないチャマは戦線布告したヒロは勇者だと絶賛した。

「それじゃ俺塾あるから帰るわ」
「秀ちゃん帰んの?じゃあ俺も一緒に帰る。お大事にぃ」
「だから塾だって。原付の後ろ、乗っけねえからな」
「ヒロは?」
「俺?あ、うん。帰る。じゃあまた学校で」
「おぉ。わざわざありがとな」
「ヒロ!」

部屋を出かけたヒロを呼び止める。

「えーと、その…」

ヒロはニッと笑った。

「早く良くなんないと俺が取っちゃうよ?」

「え!?それはダメだって!!絶対手ぇ出すなよ!?」

ひらひらと手を振って帰ってしまった。


その日俺はすごく幸せな夢を見た。
内容は忘れてしまったけれど起きた時なんだか楽しかった。

「基央、電話。女の子から。みょうじさんって子」

早く会いたい。

早急に良くなろう。

「今行く」

とりあえず挨拶をしよう。
ヒロみたいに。


―――――――――――――LINER*NOTES
片道乗車券様よりリクエストしていただいた「嫉妬夢」を加筆修正いたしました。
こうしてみるといきなり視点が変わったり、場面が分かりにくかったり、拙いですね...(それは今も変わりないですが笑)
基本的にはそのままです。
加筆修正は誤字訂正だとか、場面の区切りだとか、改行だとか、そんなのです笑

それにしても、皆んなギラギラしてますね。若い。
めっせーじ


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