おまけ。
□sigh
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夕暮れの中、近所にある公園の慣れ親しんだブランコに腰を下ろす。
その間でさえ、溜息がやまない止まない。
如何して私はこうなったのだろう。
ここ最近ずっと、私の口から溜息ばかりが零れていくんだ。
クラスや学年の違う千鶴ちゃんや斎藤くんにだって、大丈夫かと心配されてしまう程。
「…こんなの、無駄だよね」
分かっているんだ、とまた溜息をついてしまう。
ごめんなさい、と心配してくれている人たちに届く訳もないけど呟いてみる。
まだまだ溜息はやまない。
「ほんと、どうしてこーなっちゃうかな…」
つくだけ無駄なんて分かっていても零れる零れる。
「幸せと交換してよ…もう……」
秋という季節の所為か、はたまた儚く憂う夕陽の所為か私はずっと溜息ばかり。
この間のテストだって点数は悪くないし、体育祭でだって学年一位になった。
最早癖ともよべるこのため息は、一体いつからなんだろう。
楽しい訳なんてないし、むしろ気持ちはしけってしまうだけなのに。
私はただただ意味もなく、夕陽の中で溜息の種を探していた。
■ ■ ■
落ち葉が増え哀愁漂うこの帰り道を辿ったある日、突然光が目前に広がる。
「え、っうわ!眩し…!!」
その眩しさに目の前に手をかざして光をさえぎる。
その先に居たのは、誰かにとてもよく似た顔をして小柄な体に合わず大きな羽をはばたかせる少年。
「こんにちは、薫」
「こ、こんにちは……。っていうか、名前…」
「細かい事は気にしないの。小じわが増えるよ」
「……まるで中年のおばさんを相手にするような言い方は止めてくれるかな…?」
少し口を聞けばちょっと生意気で、でもとても温かく眩しい笑顔で笑っていた。
道行く人たちは彼が視えないらしく、空中に向かって話しかけている痛々しい人になる訳にもいかないので、
私の行きつけとなったあの公園へと場所を変える。
「で、君は天使なんだね?」
「それ以外の何かに見えるっていうの?」
「…ほんと、生意気……」
ブランコに腰かけて、私の前に浮いたままの彼に正体を訪ねれば、やはりいらっとくる言葉で返される。
にこにこ笑ったままの彼は、私にこう話しかけた。
「君のため息、頂戴?幸せと換えてあげるからさ」
「え…」
幸せと換えてくれ、なんて前に独りごちたばありで、こう都合よくいくものなのだろうか。
「天使詐欺?」
「……っほんっと、疑い深いところは変わらないね、君」
「…え」
まるで私を知っているかのような口ぶりで話す彼に、私は首を傾げる。
なんでもない、と彼は首を横に振り、
「どうする?」
と笑う。
彼を見上げたままの私の口から、はぁ、とお願いが零れた。
「じゃ、もらうね」
「え、あ、うん………って、わあ!!」
そう言った途端、私の手をとった彼から周りの景色が変わっていった。
周りは黒ばかりの空間だけどちゃんと姿は見えるし、透き通るような光がどこからかさしている。
驚いて形を消したブランコから立ち上がる私の足元には、瞬く間に綺麗な花畑が広がっていく。
「キレイ……!」
「でしょ?これ、僕のお気に入りなんだよね」
「私も、こういうの好き!」
空中を舞うオレンジの花びらも美しく、私は子供のようにはしゃぐ。
それを、彼は見た目と似つかぬ大人っぽい優しい目で見つめていた。
彼は白い指をパチンと鳴らすと、可愛いクマのぬいぐるみが現れる。
「わっ!」
地面に落ちてしまう前に私がそれを拾う。
「これ、すっごく可愛い!」
可愛いモノ好きの私はそれに目が無くなって、胸にぎゅっと抱きしめる。
「あげるよ」
「え、いいの!?」
僕が持ってても仕方ないし、と笑う彼に、私はただやったぁ!と感謝する。
私のため息を、彼は幸せに変える。
それはクマのぬいぐるみのプレゼントだったり、綺麗な花畑を見せてくれたり。
それははよくある些細な幸せばかり。
「ほら」
彼が閉じていた手を大きく開くと、まるでマジシャンのように、そこから白い鳩が羽ばたく。
「わ、すごい!」
「これだけじゃないよ」
そういって、彼は鳩が止まっている方とは違うもう一方の手でぱちんと指を鳴らす。
すると、白かった鳩はみるみるうちに頭から青くなっていき、青から白のグラデーションを
そのままはりつけたようなきれいな鳩になった。
「どうやってやったの!?」
「内緒。そのほうが面白いでしょ」
そう笑う彼と首を傾げる綺麗な鳩が可愛くて、溜息は笑顔に埋もれていった。