おまけ。

□嘘つきと好き嫌い。
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ある日の昼下がり、積りにつもった書類の山を何とか片づけた俺は広間で茶でも飲んで休憩をすることにした。


から、と障子をあけるとばったり薫と出くわす。


「あ、副長。お仕事終わったんですか?そうでなくてもよろしければお茶をお入れしますけど」


あまり愛想のない表情で尋ねてくる薫に一瞬驚いて、頼む、と短く答える。


「にしても、丁度よかったな。やっと終わったもんで茶でも飲もうと思ってったんだ」

「…顔に出てましたし、副長の事くらいお見通しです」


ふわりと薫は小さく笑う。


「…っ」


こいつのこういうところに勝てないんだと思う。


一見こいつは少し小柄ながらもしっかりとした男に見えるが、本当は女だ。


諸事情があって男装なんぞしているが、細やかな気配りや儚げな笑顔は女そのもの。


そんなこいつに人知れず、俺は好意を寄せていたりする。


勿論、立場上も明かすことはできないのだが。


「…どうかしました?」

「いや、何でもねえ。そんじゃ、広間に持ってきてくれるか」


こく、と頷いて、薫は踵を返し台所へと歩いて行った。


「……」


俺もその背中を見届けてから、広間へと足を運んだ。




「あ、土方さん!」

「!平助、それにお前ら…。なんで揃いも揃って広間でたむろしてやがんだ」

「そういう土方さんこそ、いっつも仕事が終わると広間にふらっとやってくるじゃないですか」

「うるせえ総司」


広間に行くと、なぜだか幹部連中が大集合。


茶菓子を摘まんでいたり、胡坐をかいて談笑していたりと、どうやら暇を持て余している様子。


「副長、お疲れ様です」

「おう、斎藤も平隊士達に稽古つけてきたんだろ?お互い様だな」

「おっと、俺たちだってちゃんと使いやってきたんだぜ」

「ほー、お前らが?珍しい事もあるもんだな」


まあ、各々それなりに仕事は果たしたようで安堵していると、ぱたぱたと足音が聞こえる。


「お待たせしました」

「お茶です!」

「雪村もか?」


薫に茶を頼んだ覚えはあるが、雪村が一緒に、しかも2人の持つ盆にはここに居る
全員分のがあるから驚きだ。


「台所に言ったらちょうど千鶴に会って」

「沖田さん達に頼まれていたお茶をついでたら薫ちゃんも来たので、一緒に持ってきたんです」


頬笑みを浮かべながらお茶を配る2人。


そんな薫をみてから俺を見る総司は口を開く。


「へー、土方さんも薫にお茶を頼んだんですか」

「…なんだそのテメェのにやけた面は」

「べっつにー」


いかにも意味ありげな含みのある表情でそっぽを向く総司に俺は苦い顔をするばかりだった。

















「皆、仕事が終わったんだ。沖田とかも珍しいね」


薫は総司の湯呑みに茶を注いでから、総司の茶髪の髪を撫でる。


気持ちよさそうな猫のように目を細めてから、苦笑いをする総司。


「褒めてくれてありがと。でも、珍しいってどういうイミ?」

「そのままの意味。斎藤とかはいつも仕事が早いし。副長も、いつも助かるって言ってた」


総司の元から立ち上がって斎藤を見る薫。

斎藤も静かに茶をすする。


「副長や局長、山南さんの役に立つのが俺の務めだ」

「あいっかわらず一くんは従順だよなー。なんでそんなカタブツなんだよ」

「堅物などでは無い。お前が砕けすぎなのだ平助」

「そんなことねぇよ!な、薫」

「そうやって同意を求められたら、応としか答えられないだろ」

「なんだよそれー!」


同意を求めた薫の曖昧な言葉に口を尖らせる平助に、原田がぐしゃぐしゃと前髪をかく。


「そりゃ、そのまんまの意味、ってやつだろ」

「ホントは平助が砕けすぎって言いてえんじゃねえのか?」

「んな訳ねぇって!」

「藤堂君、昼間から騒ぐのもどうかと思いますよ。ただでさえ夜は毎晩お酒を飲んではどんちゃん騒ぎなんですから」

「うっ…!それを言われるとキツイんだけど…」
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