堀鐔の日常。

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「ぎゃーーー!!!」

時計の針は8時を差す。

私以外は誰もいない我が家で、叫び声が木霊す。

寝ぼけていた目がすっかり覚めて、パジャマを部屋に脱ぎ捨て制服に着替える。

リボンは走りながらでいっか。

まだ高校1年生になったばかりだというのに、遅刻なんて自尊心が許さない。


パンを銜えていってきまーす、なんてベタな事にはならない。

残念ながら私は朝はご飯派なので、今日は朝ご飯は抜きだ。

弁当も作れなかったので、お昼を食べるための愛用財布もちゃんともって、

「いってきます!!」

いつも微笑んでいる母さんの写真に、返事の来ない挨拶をして家を出た。

まだ冷たい風が、優しく私の頬を撫でた。











――――――――――
――――――――――――――――



「到着っ!!」

と言いながら自分の席に着き、鞄を下ろした瞬間、

キーンコーンカーンコーン

朝のHRの始まりを告げるチャイムが鳴る。

まだ先生は来ていないのが救いで、とりあえず教材全部机に突っ込んで鞄をロッカーに仕舞った。

そして席に戻ったところで、一息をついた。

「間にあったぁ!」

「おはようなまえ」

「あ、おはよサクラ」

声を掛けてきたのはサクラ。

太陽より眩しい笑顔で挨拶してくれる、中等部からの友達。

最近には珍しい、全く邪の無い女の子だ。

「今日は珍しく遅刻ギリギリだったけど、大丈夫?」

「あはは…、ちょっとゲームやり過ぎて寝坊しちゃってね…」

私もサクラも苦笑いを零す。

「あ、次は科学じゃない?」

「ファイ先生かぁ。今日も黒鋼先生をからかってるのかな」

「かもね。黒鋼先生はなんとなく苦労人だしね」

黒鋼先生やファイ先生とは高等部の入学式に初めて会って、
彼らの事はよくは知らないのだが、
彼らがじゃれあっている(?)のは日常茶飯事らしい。


他愛もない事で談笑をしていると、教室のドアががらりと開いた。

いち早く気づいた号令係が号令をかける。

「起立、礼」

「「「「「おはようございます」」」」」

「おっはよー」

「着席」


ファイ先生は年年歳歳変わることなくといった感じの、へにゃりとした笑顔でやわらかく挨拶をした。

「今日は一時限目もオレの授業だから、ちゃんと用意しておいてねー。
あ、あと今日は特別時程で五時限目までで職員会議があるから、
部活は再登校で、時間は各顧問から聞くようにね☆」

相変わらず表情は変わらないまま今日の連絡事項を話す。

先生、部活の顧問はファイ先生と黒鋼先生しかいません。


「じゃあ解散ー」

今度は礼はなし。

フレンドリーなファイ先生は、こういうときは号令をかけなくていいと言っていた。

お喋りが大好きという女の性のせいで、私はまた周りの友達と雑談を広げた。
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