堀鐔の日常。

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■四月一日視点


「はー、今日も授業終わったー」

5時間目の授業が終わり、チャイムが響く中でおれは伸びをしながら窓の外を眺める。

「しっかし、毎日あっついなぁ…」

「六月の終わりだからな。涼しい方がおかしいだろ」

「んだとテメェっ!」

独り言を喋っていると、いつの間にか近くに来ていた百目鬼に真面目に返される。

正論なのだけど、なんかこうムカっときたので怒鳴っておく。

そんなおれ達を、席が近い小狼は苦笑しながら見ていた。

「でも、確かにすごいね。日本の夏は」

その言葉に、ふとおれは思い出す。

「そっか、小狼は日本で夏過ごすの初めてだっけ」

「うん」

頷く小狼に、もうっと暑い国へ行ったことがあるだろ、と百目鬼が言う。

「でも、これだけ湿気がある国はなかったよ。あ、そうだ、明日なんだけど…」

小狼が何か言いかけたところで、がらがらと教室のドアが開いた。

「四月一日君」 「君尋!」

女子特有の可愛らしい声でひょっこりと現れたのは、C組のサクラちゃんとなまえ。

「あ、サクラちゃん!それになまえ」

「…私はついでかい」

言い方が少し悪かったようで黒いオーラを放つなまえに軽くごめんと謝る。

苦笑してみていたサクラちゃんは少し申し訳なさそうにしながら話し始めた。

「お話しの邪魔してごめんね、小狼君、百目鬼君」

「いや」  「大丈夫だよ」

二人とも気にしない様子(百目鬼の場合それくらいで怒る程繊細では無い)で首をふる。

「申請書、準備できた?」

「うん!」

元気良く返事するサクラちゃんに、自分も企画書を書き終わった事を伝える。

「じゃあ、提出に行こうか」

「夏休み前にある堀鐔祭の?」

首を傾げた小狼に、なまえとサクラちゃんが声をそろえて肯定する。

「この前アンケート取ってたやつだ。うちのB組とC組、合同でやるんだったな」

「小狼くんは初めての学園祭だし、ぱーっとやるよ!」

両手を広げていうなまえは、梅雨だと言うのにテンションが高いことに羨ましい程だ。

「あ、ありがとう。それで、何するか決まった?」

「うん」

おれはなまえと同じく小狼に楽しんでもらえるように準備していたので、胸を張って答える。

「公平に、両方のクラスのアンケートで1位のにした」

すると即座にモコナたちが、

「1位なにー?」  「1位何だったー?」

と聞いてくる。

「モコちゃん達!」

両手にのるモコナたちに、ふわっと顔をほころばせるサクラちゃん。

「それは……」



■なまえ 視点



「メイドカフェ!?」

「め、冥土……!?」

「神威、字が違う字が」

先程までメイド服のデザインを練っていた私は、サクラ達の気遣いにより、廊下で休憩中。

そこで、クラスの違う幼馴染に学祭の事を話すとこうなった。

「冥土って…。神威、もうすぐお盆だけど、違うからね」

「なら冥途か」

「それも怖いって。バ神威」

「お前だけには言われたくない」

どうやら神威君の辞書にご奉仕してくれる方の「メイド(made)」という単語はないらしい。

「要するにコスプレして喫茶店やるの。B、C合同でね」

さっき買ってきたB●SS(ボス電欲しいの)で喉を潤しながら言う。

「阿保」

「いや、これ皆のアンケート結果だからね?」

私が提案したように言うなとチョップしようとしたら、防がれた挙句頭を叩かれた。

頭を撫でてくれる昴流の優しさに涙が出ちゃいそうです。

「で、なまえもメイド服着るの?」

昴流の当然の疑問に私も当然のようにうんと頷く。

「ただね、さっき聞いたんだけどさ」

ここからは少し居づらいので一度区切ると、二人は顔を見合わせて首を傾げる。

私はぐっと固唾をのんで続けた。

「男子もメイド服だって……」

「「ぶふッ!!」」

「ひぎゃっ!」

予想はしていたのだけれど、二人は飲んでいた午後テ●ィーを噴水のように勢いよくリバースした。

「はい、ハンカチ!気持ちは分からなくはないけど早く引きな!」

そのままごほごほと噎せながら二枚差し出したハンカチで口元を押さえる。

しばらくして噎せが収まった二人がハンカチを返してくれる。

「でも、ファイ先生とかがやるんなら見てみたいよね。ファイ先生美人だし、髪伸ばしたら女の人になれるって」

「……それは男として嬉しくないと思うよ…」

「そもそもメイド服が似合ってしまう時点でどうかと思うが…」

「二人も似合うから大丈夫!」

「「大丈夫じゃない」」

苦い顔をしていた二人も、自分のこととなると本気で嫌そうな顔をした。

本当に似合いそうなのに。
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