Love at first sight.


□冷たい雨が降った日に
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・柳視点



3限目の休み時間。

俺は窓際で、精市と一年生の今日の練習メニューを決めていた。




「これでどうだ?」

「うん、充分だよ。ありがとう。」

「お安いご用だ。」

「全く…この雨は嫌になるね。早く止まないかな。」

「梅雨だから仕方がないだろう。」

「まあね。……ねぇ柳?」

「……………なんだ?」

「平田さんって今日学校来ないのかな?」

…17回目だぞ。

「別に何回聞いてもいいじゃないか。」

「それはそうだが…」



今日は朝から平田がいなかった。
そのお陰で精市がうるさい。

…このままだと部活にも影響が出そうだ。


俺は窓際の一番前の席に座っている秋原のところへ向かった。



「秋原。」

「…ああ、なに?」

「平田はまだ来ないのか?」

…17回目だよ。



仕方がないだろう。
精市が俺に聞いてくる度に聞いているのだからな。



「柳ってしつこいねー」

「それは精市に言ってくれ。」

「…幸村、しつこい。」

愛があるんだから仕方ないだろ?

「……言うんじゃなかった…」



そう言うと秋原はそっぽを向いた。



「秋原、何か心当たりはないのか?」

「心当たり…ねぇ。そーいえばこの前『学校休んで柳くんの誕生日ケーキ作ろっかな〜』って言ってたかな。」

やめてくれ。

「いや、さすがに止めたから。」

「……プレゼントはもらったはずだが?」

「抹茶のこと? なんか納得してないみたいだよ。」

「納得させておいてくれ。でないと俺は…」

へぇ…柳のために学校休んでるのか…

今日中に死ぬ。

「あ、うん。…わかったから開眼やめて。」



そのとき後ろからドスッと何かで突かれた。
…できれば振り向きたくなかったが、攻撃の手が止まないので振り向いた。

そこにはラケット2本(俺のテニスバックから盗ったのだろう)とボールを持った精市がいた。



「柳、テニスコートに行こうか。」

「…外は雨だぞ。」

「だからいいんじゃないか。きっとキレイに流してくれるよ。

俺から何を流す気だ。

「ふふ…もちろん、身体中を流れるその…



ガラッ


精市の言葉を遮るように教室のドアが開くと、そこにはすべての元凶である平田が立っていた。



「…あ、おはよ。」

「伊吹!」
「平田さん!」



秋原と精市が駆け寄っていく。
それに続いて俺も歩き出した。



「なに、寝坊?」

「……ん、」



小さく声をあげて、苦笑いをした。
秋原はそれを返事ととったらしく、「珍しいね。」と笑っている。


…返事、だったのだろうか。


精市はこういうことに敏感だ。
何か考えているだろうか…と顔を見てみたが、にこにこと笑っているだけだった。

よほど平田に会えたのが嬉しいのだろう…
駄目だ。使えそうにないな。



「でも風邪とかじゃなくてよかっ…」



キーンコーンカーンコーン


…またもや精市の言葉を遮るようにチャイムが鳴った。
タイミングが悪いな。



「あ、戻らないと…平田さん コレあげるよ。」

待て精市。それは俺のラケットだ。



何を思ったのか、精市はラケットを平田に渡すとC組に戻っていった。



「…ふはっ、何でラケット?」

「………平田、」

「あ、はいはい。返すね。」



顔に当てていたタオルを離して、笑いながら俺にラケットを…………ん?



「…………」

「…え? なに?」

「……何かあったのか?」

「……………なんで?」

「いつもより目が少し赤いぞ。…泣いたのか?」



さっきまでタオルで隠されていて気がつかなかったが、平田の目は少し充血していて、腫れていた。



「………やっぱ、柳くんはすごいよ。」

「平田、質問に答え…」

「とりあえず、席行こ。もうすぐ先生くるよ。」

「…ああ。」



秋原はいつの間にか自分の席へと戻っていた。












席についてすぐ、国語の教師が入ってきて授業が始まった。

…みんな昼前で眠いのか、頭が下がっている。
遠くの秋原を見ると、すでに机に突っ伏して寝ていた。



「…柳くん、」



と抑えた声が聞こえた。
横を見ると平田がメモを差し出している。

…これに書いてあるのだろうか。



「…………」



黙って受けとると、平田は少し笑って机に突っ伏した。


充分寝たはずだが…まだ寝るのか?
疑問に思いながらメモを開けると、

『質問には答えるね。泣きました。』

………と書かれていた。



「…おい、平田……」



声をかけてみるが、こちらを向こうとしない。

……何があったのか、全く見当がつかなかった。















国語の授業が終わると同時に、平田は立ち上がって秋原の側まで行った。



「今から剣道部のミーティングだから、お弁当食べといて。」

「えー…伊吹はどこで食べんの?」

「ミーティングのとこで食べるよ。」

「ちぇっ、じゃーね。」

「うん。」



俺は秋原に手を降って、教室から出ようとしている平田を引き止めた。



「………平田、」

「…質問には答えたよ?」

「それはそうだが…」

「今からミーティングだから…じゃあね!」

「おいっ…」



俺の制止の声を聞かずに、平田は廊下に飛び出して、そのまま走っていった。



「…………」

「柳ーお弁当…ってあれ? 平田さんは?」

「今からミーティングがあるらしい。」

「………剣道部の?」

「?そうだが?」

「ふぅん…俺ちょっと行ってくるね。」

「おい、ミーティングも出るつもりか?」



妬きすぎだろう。



「そうだね。本当にミーティングがあるならね。」

「…どういう意味だ?」

「『今からミーティングだから』…ならなんで山口は呑気に弁当食べてるのかな?」

「!!」

「へ?呼んだ?」

「山口、今日は剣道部のミーティングがあるのかい?」

「なにそれ? 初耳だぜ?」

「ほらね。」

「ふっ…平田のことなら、この俺よりもわかるんだな。」

「当然だろ? だって……」






『好きなんだから。』






そう言うと、精市は廊下を走っていった。
多分平田がどこに行ったかも、大体わかっているのだろう。



「全く…データの上を行く男だな。」






まさかこの俺が、テニス以外でも負けることがあったとはな。

ふむ、いいデータが取れた。
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