立海大附属


□リナリア
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第1話 『違和感』



中2の秋、ずっと好きだった同じクラスの幸村が突然入院した。


そして今、夏が近づいてきたある日。
幸村が戻ってきた。

あたしは『退院おめでとう』って言いたくて、幸村のそばへ行った……んだけど、




「幸村くん、退院おめでとう!」
「元気になってよかった〜」
「退院おめでと!!」

「ありがとう。」

「ちょっ…とおし…ぐはっ!!」



周りに女子が群がってて近くに行けない!
くぅ…っ 人気があるのはわかってるけども!



「…なまえ、諦めなよ。同じクラスなんだし明日も会えるでしょ。」

「うっ で、でもやっぱ今日言いたいし…!!」

「じゃあ私は教室戻る。」

「ちょっとー!?」



一緒にいてくれたヤナがついに痺れを切らして帰ってしまった。

もう一度幸村のほうを見たけど、女子の数は全く減ってない…というか増えてたから、あたしも諦めて変えることにした。



「……はぁ………っつつ!!」



不意に左腕に痛みを感じた。
カッターシャツを少し捲り上げるとミミズバレができていた。

…さっきどこかで引っ掻いたのかな。

あたしは教室に向けていた足を止めてトイレに入った。
一応冷やしとこう、傷残ったら嫌だもん。









「…ヤナ、絆創膏持ってないかな〜…」



用意のいいヤナのことだし、持ってそうだな。


そんなことを考えながら、ミミズバレをなぞっていたあたしは、トイレからでてすぐ誰かにぶつかった。

そしてぶつかった拍子に指を思いっきりミミズバレに刺してしまった。



「っっったーー!!?」

「ん?」

「…ぅぅぅ…って、あ。」



聞き覚えのある声に顔をあげると、そこには可愛く首を傾げている幸村がいた。



「…………あ、の」

「?…あ、何それケガしたの?」

「う、うん。」

「うわぁミミズバレだ。」



幸村はあたしの腕をとると、まじまじと眺めだした。
え、やだ恥ずかしいっ!

…てゆーか これチャンスじゃない?
『退院おめでとう』っていうチャンスだよ!



「幸村、たいいったーー!?

「鯛炒った? は、お前何言ってんの?」

「いたいいたいたいたいたいたいっ!! 幸村が何してんの!?」

「え? お前のミミズバレを刺してる?」

「いや聞いてんのこっちだから! ちょっやめ…いたいたいたいたいっ!!」



廊下中に響き渡るほどの大声をだすと、幸村は手を離した。



「うるさいなぁ。」

「うるさくない!! っつ〜…」



本気で痛かった…もう、幸村何してくれんの…………………………………ん?

……………幸村ってこんなのだっけ?
あれ、あたしの知ってる幸村は優しくて、いつも笑顔で、それでその笑顔は花が綻ぶみたいで…


でも今目の前にいるのは、いじわる(S)で、眉間にシワ寄せて、バカにしたような目で見てくる幸村だ。
……ああ、



「わかったよ。」

「…は?」

「仁王でしょ!!」



全くペテン師は…!

仁王は昨年同じクラスだったときにいろいろ協力してもらったから、あたしが幸村のことを好きなのを知ってる。

だからってからかうなよっ!
あたしはびしいっと幸村(仁王)の顔を指差していた手を、ほっぺたへ移動させた。



「ほら、早くこのイリュージュン止めてーっ!!」

「……ひょい、」

「やめないと離さなーいっ!」

「………ひーはれんにひろひょ。」

「んん? 何言って…ぎゃーーーっ!!?



ギリギリ、と音をたてながら幸村は爪を立てて手首を握ってきた。

思わずほっぺたの手を離して、幸村を突き飛ばした。



「ミっミミズバレだけじゃなくて、手首まで!? ひっどいよ仁王! 仁王ってそんな人だっけ!?」

「俺がなんじゃ?」

「だからー…って仁王?」

「プリッ」



後ろを振り向くと、仁王が舌をだして笑っていた。



「あ……れ? 仁王が2人?」

「何を言っとるんじゃお前さんは…そこにおるのは幸村じゃろ。」

「ええ!? まさかー…あっわかった!柳生くんだ!」



これが噂のペテン師と紳士のコンビか…!
侮ってた!



「おや、仁王くんに幸村くんに…みょうじさん?」

ジェントルマン!?

「おーやぎゅー」

「ど、どーゆーこと?!」

「だから言ったとおりじゃ。だーれもなーんも変わっとらん。」



仁王はそう言うと、柳生くんと幸村の肩を抱いて並んだ。

……プリメガネゴッドか…結構迫力あるなぁ…うん。


特に右端にいる幸村の黒いオーラがハンパない。



「……っアデュー!

「おいみょうじ…」

「みょうじさん! 廊下を走ってはいけませんよ!」

「ごめんなさいっムリです!!




後ろを振り向かずにあたしは教室まで全力疾走した。


あ…あれが本物の幸村だったなんて……っ!
女子にあるまじき悲鳴出しちゃったよ…

てゆーか友達にするような話し方しちゃった…ううっ 幸村の前では大人しめな女子でいたかったのにっ!



とりあえずヤナに相談しようと決めた。














「……なんじゃ幸村、アイツに本性バラしとらんかったんか?」

「…本性とか言わないでくれる?」

「事実じゃろ?」

「…………」



幸村は ちっ と舌打ちをすると、そっぽを向いた。

仁王はそれを見て楽しそうに くっくっ と喉を鳴らす。



「どーして急に言おうとしたんじゃろなー」

「…その答えは昨年言っただろ。」

「その答えとあと…怒り、じゃろ?」

「……っさい」

「くくっ………不器用な2人じゃの。」

「は?何か言った?」

「なーんも言っとらん。」



仁王はさらりと幸村の質問をかわすと、さっきから不思議そうな顔をしている柳生のところへと走った。



「どうかしたのですか?」

「青春じゃ、せいしゅーん。」



後ろから幸村の視線が刺さってくるのを感じながら、仁王はニヤリと笑った。















((ガラッ バアアアアアアアアン!!))
((ヤナーっ!! あたしどうしよう…!?))
((……とりあえずドア直しなよ))
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