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□愛情込めて
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 何年も前から、お互いの誕生日とその真ん中の日は毎年祝うようになっていた。どこか遠くに行く時もあるし、それこそ家でケーキを食べるだけの時もあるけれど……それでもお互い幸せだから、それでいいと思える。
 今年はイタリアの地中海沿いのホテルにいる。最上階の角部屋、「二人だけで泊まるのに、こんなに部屋が必要なのか」と、数年前のオレなら盛大にツッコミを入れていたであろう、高そうなスイートルーム。
「うん、もう慣れたね。高級ホテルで一泊っていうのも」
「それは良かったです」
 微笑む彼を見て、オレは照れる。日に日にかっこよくなっていく彼に対する耐性は、出逢って5年以上経っても出来てはいない。

 その日の夕飯は部屋で食べた。目の前でホテルのシェフがステーキを焼いてくれるなんて、今でも珍しく思うけれどそれでもかつてよりは緊張していない(と思いたい)フルコースでお腹が一杯になって、一息ついてから別々にシャワーを浴びた。オレが先で、彼が後。お互いにバスローブ姿で寛いでいるところに、部屋のドアがノックされた。応対した彼によると、どうやらエステティシャンのようで。綺麗なイタリア人女性の隣で彼は言う。
「日々のお疲れを少しでも癒していただければ、と思って今日頼んでおいたんです」
 何とも彼らしいことを考えるもんだ。今まで体験したことがないからどうすればいいかなんて全くわからないけれど、そこは専門家に任せることにした。エステ初体験という事実に少し胸を弾ませて、オレは彼女について隣の部屋に移る。バラか何かだろうか。ふわりと甘い香りがオレの鼻をくすぐった。

† † †

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