■Missing Twin −ZERO−
□発端
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季節は熱波が連続で続いていた夏が例年より遅く過ぎ、街が銀世界へと変わってきていた。
ブーツに雪解けの水分が浸透してゆく。
男は軽く舌打ちをしながら、近くのレストランへと足を踏み入れた。
「ついてなかったね、今日はクリスマスなのに」
店内に飾られたイルミネーション……不思議と今まで自分が行ってきた悪行の数々を許してくれるような錯覚に陥っていた。
無論、クリスマスにそんな都合のいい許し等、あるわけがないのは知っている。 しかし自分のしてきた行動に後悔などあるはずもなかった。
コートを脱ぎ、予約していた席に座った。
「こんなに冷えて……ごめんね、まさか車のバッテリーがあがってるなんて。 本当、自分が情けないよ」
彼女の手を触れると比喩でもなく、氷のように冷たくなっていた。 男は彼女の手を丹念に擦り、暖をとった。
何人目の彼女がだろうか……今までの人生を振り返ってもこんなに彼女だけを考え、彼女を信じ、心奪われたことはない。
愛してる……これ以上の言葉があるのならば教えて欲しかった。
注文していた料理がテーブルに並ぶ。 前菜のトマトチーズサラダを一口。
「うん、美味しいけど、やっぱり君の作ってくれる物の方が僕は好きだな。 ……いやいや、お世辞じゃなくて本当さ」
前菜一つにしても彼女との会話は楽しい。 なんのスパイスもかかっていないサラダさえも男の舌には彼女の愛のこもった料理として鮮明に記憶に残っている。
「僕がお世辞が苦手なのは君が一番よく知ってるだろう? そのせいで何度か喧嘩したこともあったけどね……ああ、分かってる。 悪いのは全部僕さ」
頬を膨らませている彼女を安易に想像出来た。 男はそれすらも愛おしく感じていた。
出会いは三年前……男の猛烈なアタックにより成就し、同棲を始めたのが一ヶ月前。
幸せだった――幸せすぎた。
「あはは、そうむくれてないで君も食べなよ。 今日はクリスマスなんだよ?」
氷の手を再び握った。 頬を赤く染める彼女……小さく頷く彼女を想像し、男も自然と笑顔になった。
「食事が終わったらさ……近くのホテルに部屋をとってあるんだ。 いいだろ?」
心臓が外に出てしまいそうなぐらい高鳴っていた。 まだ彼女とそういう関係にはなれていなかったからだ。
そういう行為は罪深い自分には眩しすぎた――けれど、今日ぐらいなら……神様も笑って許してくれる。 そんな都合のいい事を考えていると
「そうか、いいんだね? ……ありがとう、僕も愛してるよ」
ポケットの中に居る彼女の手を強く握り、男は再びサラダを口に運んだ。