Missing Twin
□失われた過去
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――仕方なかったんだ……何度も話し合った結果だろう?
――分かってる、分かってるけどそんなに簡単に割り切れないよ……
テーブルに置いてある料理は1時間前からそのままの状態だ。
毎年、決まってこの日がくるのが嫌だった。
両親の間に張り巡らされる重苦しい空気、母親の涙、父親の疲れ切った表情――理由を聞いても教えてくれず、まるでのけ者にされた気分だった。
――あれから何年経ってると思ってるんだ。 忘れろとは言わない……けど、あの子の事も考えてやれ。
――考えてるわよ! 貴方が仕事で忙しい時だって私はちゃんとあの子の面倒を見てきてる! あの子が熱を出した時も、病気で視力が弱くなった時もずっと、ずっと見てきたわ! それなのに貴方は仕事仕事で!
――今はそんな話をしているんじゃないだろ!
毎年同じような台詞、同じようなタイミングで喧嘩になる。
耐えられなかった。 いつも自分の前では天使のように優しく微笑んでくれる母親が今は鬼の形相で父親を睨んでいる。
自分は母親に迷惑をかけているんじゃないか……邪魔な存在なのではないか……毎年この日は同じように考え込む。
答えは出て来ない――違う。 恐くて出せなかった。
――私のせいなのよ。 この体が、もう少し丈夫だったら……
――もうよせ、それ以上自分を苦しめてなんになる。 僕達二人で決めた事なんだ……どうして君だけが苦しまないといけないんだ。
自分は生まれてきてはいけない存在だったのだろうか……
幼い顔にブカブカの眼鏡――ぼやけた風景を当たり前に見るには大人用の眼鏡をかけるしかなかった。
それほど自身の視力は奪われていた。
けれど、両親が少しでもおかしくないようにと半日かけて選んでくれた物だ……両親の想いを受け取る形でかけている。
――さあ、ご飯を食べよう。 すっかり冷えてしまったな。
――ごめんなさい……いつも私……
――いいさ、ただあの子の前でこの話をするのはもう少し大人になってからにしような。
――そうね。 分かってくれるかしら。
――その時は分かってくれるまで説明するさ。
結局、両親の話は聞けず仕舞いで今日に至った。
原因不明だが両親の乗った車が事故を起こし、即死――あの時の事は未だ、思い出す。
泣いている母親の顔と疲れ切った父親の表情……自分の知らない過去。
何度と見たこの夢は今日も謎となって私を覚醒させてゆく。