ドライヤー女と感情玩具
□03.
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トリップだ。
トリップなんだ。
夢にまで見た、世界なんだ!!
働かせてもらえることになった露西亜寿司で一泊した。
その翌日、私の頭を占めたのはそれだった。
「トリップって、あるもんなのかぁ」
自然と頬が緩む。
直入に言う、私は歓喜にひれ伏しそうだ。
夢にまで見た世界が、夢物語じゃないときたんだから!
幸せに浸っていると、サイモンさんが私を呼びに来た。
私は空き部屋を使わせてもらっている。
まあサイモンさんの足音が目覚まし代わりだ。
「呼ビ込ミスルヨー」
「はい、今行きます!」
もうこの際さぁ、元の世界に帰れるまでこの世界観を満喫しようと思ってます。
まあ帰れる保証はないけど。
作業着に着替え、サイモンさんから仕事の旨を聞く。
「チラシ配ルヨ」
「分かりましたー!!」
元気一杯に声を張り上げる私。
うむ、なんか清々しい!
「全部配ル」
「おわっ、結構あるな…、あの、ほかのとこ行ってもいいんですか?」
「イイヨー、チャント配ッテクルナラ」
「はい、行ってきますねっ」
そういいつつまずは周辺で配ろうと思い、通りの奥へ進む。
サイモンさんが異常なまでに私に手を振っていたのは、うん、見なかったことにしよう。
▼60階通り
「お…おおう…」
トリップしてまだ一日だが、かなりレアな場面に遭遇した。
「いぃぃざぁぁやぁぁ!!」
「今日も見事に怪物だねシズちゃん」
24時間戦争コンビに出くわしたのだ。
私はなんて幸せ者なんだろう…!
「あーあ、相手するの嫌だな…、あ、キミ代わりに殴られちゃって?」
「はいぃぃ!!?」
感動中に臨也さんが、私の後ろに隠れる。
「ちょっ…死ぬ死ぬ死ぬ!!」
「あはは。大丈夫、人間って脆いけど案外丈夫だから」
「じゃあんたが受けろやぁ!!」
怒りで我を忘れている静雄さん。
無遠慮にこちらに向かってくる。
「臨也ぁ…コロス!!」
「ワタクシ無関係!!」
悲痛に嘆いていると、静雄さんの重そうな一発が飛んできた。
おいおい、殴る相手くらいちゃんと見てくれ頼むから。
「うらぁ!!」
「どわぁあっ!!」
とっさに避ける。
…私ってこんなに反射神経あったっけ?
「チッ、避けやがって…」
静雄さんの額にさらに血管が浮き彫りになった。
正直ハンパないくらい恐い。
私もう泣きたい…。
「喧嘩、ダメゼッタイ」
「あ゛!?」
「やば、サイモンっ…、ぐぇっ」
本気で涙腺崩壊というところで、サイモンさんが登場。
静雄さんと臨也さんの襟をひょいと持ち上げている。
いやだから腕力どうなってんだ。
「オー、皐月ココイタカ。寿司食イネェ」
「バイトさんを店に誘うのはどうかと。」
が、半ば強制的に寿司屋に戻されるのだった。