ドライヤー女と感情玩具

□04.
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▼寿司屋店内

がすがすがすがす。

普通にカウンターを指で突く音。

いくら臨也さんが隣だからって、静雄さんがやるとここまで鈍い音になるとは。

カウンターが壊れそうだ。




「あのー、他のお客様にご迷惑が…、その……」

曖昧に静雄さんに指摘してみる。

「あ゛あ!?」

「すいませんっしたァァァ!!」




恐いよ!

そして負けた私情けねえ!!




「……ああ店員か…悪いな、気をつける」

「は、はあ…」

私を怒鳴りつけ正気に返ったのかすかさず謝ってくれた。

うーん、いい人。

「…あの、あちらに席替わりますか?」

「…そうさせてもらうわ」

がた、と静雄さんが席を立つ。

カウンターからかなり離れた座席に直行だ。

…そこまで仲が悪いとは。

なんせ静雄さん、額に青筋立ちっぱなしだし。




「ねえ、キミ」

「はい?」

静雄さんが席についたのを見届けると、カウンター側の臨也さんが私に声をかける。

「あの怪物が恐くないの?」

「え、超がつくほど恐いですが」

恐いに決まってるじゃないですか。

私の即答にきょとんとなる臨也さん。

…なんて美形。

と、そんな美形さんがいきなり爆笑しだした。

「あははははは!!初めてだなあ、キミみたいな『恐い』は!!」

「?」




え、何で。

恐いくらい、誰だって言うって。




「くっ、ふふ…、恐いのに会話を交わすのかい?」

まだまだ笑い足りない、そんな風に臨也さんは言う。

「時にはそうしないと。それに、私みたいなのをわざわざ殴らないと思います」

私も当然のように返してみた。

正直臨也さんの真意が分からない。

私みたいな小娘に聞いて、『人間』の理解に近づくとは思えないんだけど。




「くっ、ふふ…傑作だな」

ぼそりと呟いて、臨也さんは席を立った。

「もうお帰りに?」

「ああ、昼はもう食べてるしさ」

はやっ。

まだ12時になってないぞ。

「えと…、またお越しください」

私がそう言うと、臨也さんは振り向かず私にひらひらと手を振る。

ふむ、カッコイイ。




臨也さんが帰ったので、静雄さんが一気に静まった。

さっきまでめっちゃガン飛ばしてたし。

超恐かったよ。

「あー、おい」

「はいぃ!!」

静雄さんの呼びかけにあからさまにビクついてしまった。

心なしか静雄さんが寂しそうに見える。




…初対面の奴にビクつかれたら、傷つくもんだよなあ……反省。




出来るだけ明るく応じた。

「なんでしょう?」

「いや、水…」

「はい、すぐお持ちしますね!」

大丈夫大丈夫。

静雄さんがわざわざ私を殴る理由がない。

大丈夫だ。

「…ありがとな」






笑った




「(うわあああ何この人素敵すぎる!!)」

ぎくしゃくなりながら、なんとかカウンターに戻る私。

やっとの思いで水を汲み、静雄さんに差し出す。

「ど、うぞっ」

あああ声が裏返る、上擦る!

無駄に緊張するよこのイケメンは!!

ぐいいと一気飲みする静雄さん。

うおお男前だ。

「…お前よお」

「え、私ですか?」

「ああ…蚤虫に何か言われてないか?」

のみむし。

臨也さんのことだろうなあ…。

「いえ、特には…」

「…そうか」

安心したような表情。

やっぱり静雄さんはいい人だ。

「いや、あいつは信用すんなよ」

散々な言われよう。

ドンマイ臨也さん。

「さて、俺も腹減ってねえし行くわ」

「あ、はい、またお越しください!」

席を立った静雄さんに頭をくしゃくしゃと撫でられる。

うわ、幸せ。

生きててよかった。

「お前、いい奴だな。名前は?」

「へ!?あ、皐月です、日野村皐月!」

「皐月か…また来るぜ」

「は、はいっ!!またいつでもどうぞ!!」

名前を呼ばれて死ぬほど嬉しい…!

テンションMAXで応じてしまう。




そんな私をまた撫でて、静雄さんは店を出てしまった。

「じゃあな、皐月」

どいつもこいつもイケメンだ。
 
 

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