短編

□ありえない!
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「もう、ホントありえない!」


顔を真っ赤にして首筋辺りを抑える或斗。


その後ろにお菓子を持って歩く長身の男、紫原 敦。


「或斗ちーん、お菓子あげるから機嫌なおしてよ〜」


「ふざけんじゃないわよっ!!
 アンタ、何したかわかってんの!?」


自分より40p以上高い紫原の胸倉を左手だけで掴む或斗。


相当ご立腹のようだ。


右側の首筋を押さえている腕から覗く赤。


事の発端は少し前に遡る。


〜〜〜〜


「或斗ちん、なんか甘い匂いするー」


「え?あたし?」


「うん。」


授業が終わると同時に、敦があたしに近寄る。


スンッと小さく鼻の音を鳴らしてあたしのにおいを嗅ぐ。


なんか、無性に恥ずかしくて、敦から逃げる。


「逃げないでよー」


「ちょ、あたしに触るな!近寄るな!」


「えー?」


心底嬉しそうに追い掛ける敦。


それが更に怖い。


「ちょっと味見するだけだからさぁ〜」


「あじっ…はぁ!?」


衝撃的なことを言う敦にあたしはドン引きした。


え、なに?


今、何て言ったの?


「え?味見。」


「ひっ、人の心を読むな!
 …って、うわっ」


余所見をしてると、机の足に引っ掛かって前のめりにこけた。


「捕まえたぁ」


「ひっ…」


急に肩をつかまれて、変な声が出る。


「或斗ちんさぁ、大人しくしてないとどうなっても知らないよ?」


「どういうっ…!?」


リップ音が響き、すぐに敦の顔が満足げな表情をした。


キス。


すぐにわかった。


「んー…やっぱ、いいにおい」


首筋のにおいを嗅いでいる敦。


敦の髪が、頬や耳に当たる。


ものすごい恥ずかしい。


「敦っ、もう良いでしょ!?」


敦の背中を叩くものの反応は薄い。


「あつs」


敦の名前を呼ぼうとしたとき、首筋に何かネットリとしたものがまとわりついた。


それは何か濡れていて生暖かい。


敦の舌だとわかるのに随分時間が掛かった。


「ひぅっ…」


恥ずかしい声が響いた。


いや、やめろ!


あたしの声じゃないッッ…


「…食べて、良いよね?」


「ちょ、ま…」


ガリッ…


首に激痛が走ったと共に、あたしは叫び声をあげた。

〜〜〜


「なに!?あたしは新種のお菓子か!?
 あたしは何だ!!」


「或斗ちん」


「食い物じゃないんだぞ!?」


「甘い匂いしたんだもん」


悪気も無さそうに本日なん袋目かのお菓子を開ける。


「もんってなんだ!!もんって付ければ全てがかわいく見えるとでも!?可愛いけどさッッ!!!」


「…もう、うるさいって。」


少し怒った顔をする敦。


ちょっと不味かったかもと今更ながらに後悔。


「ご、ごめん…」


「或斗ちんさぁ、オレによく言うよね?
 “食べ残しは良くない”って。」


「え?うん。」


「じゃあさ、最後まで食べなきゃだよね?」


「え?」


「或斗ちん。」


「…」


あたしにはどうやら日本語が理解できないようだ。


「じゃあ、食べようかな?」


「…いやぁぁぁぁッッ!!!」


その後、二人がどうなったかなんて…知らないッッ!!!
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