短編

□見えないわけじゃなくて、
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「…やってしまった。」


左目に宛がわれた眼帯は生まれつきじゃない。


任務で失敗した。


いや、片付いたが怪我をしたと言った方が正しい。


失明じゃないだけ良いものの、しばらくは見えないらしい。


「…」


ドアの前で止まった。


報告をしなければならない。


だけど、無理。


こんな、ドス黒いオーラを放つ扉をどうやって開ければ良いのか私にはわからない。


「…ぼ、ボス…怒ってます…?」


扉越しに話し掛ければ、声は聞こえなかったものの、何かが割れる音がした。


ビクリ、と体が揺れる。


マジギレだよ、こりゃ…


つい最近も怪我をして怒られた…


「ご、ごめんなさい…」


「入れ。」


声が聞こえた。


低い冷たい声。


いつもはもっと優しい。


怖いけど、ボスに捨てられる方がもっと怖いから、ドアを開けた。


「来い。」


すべてが命令。


それに逆らえないのは私だけじゃない。


スクアーロもベルも、みんな一緒。


その命令通り私はボスの前に立つ。


「…何か言うことはねぇか。」


ボスはそう言って私を睨む。


本来ならば、私はここに立たされる事を許されない程弱い。


だけど、ここに立たされている事を許されている。


その理由は私とボスが恋仲であるから。


「ご、めんなさい…」


「怪我はするなと言ったハズだ。」


「…はい…」


段々とボスの顔を見れなくて俯き気味になる。


「顔を上げろ。」


そう言われて半ば強制的に顎を持たれて顔をあげさせられる。


ボスの目は鋭く私を見ていて、怖くて泣きそうになった。


「ごめ、んなさいっ…」


いや、もう泣いてしまった。


ボスに嫌われるのが怖くて、


無力な自分が許せなかった。


「嫌いに、ならない、でくださいっ…」


「…」


「次はっ…がんば、るからっ…」


「うるせぇ。」


そう言われて、抱き締められる。


一瞬、びっくりして息が止まった。


「…治んのか。」


「う、ん…」


耳元で聞こえるボスの声に私の体が反応する。


トクン、トクン、と心臓が鳴る。


「…次はねェ。」


「う、んっ…」


ボスの唇が私の唇に重なった。



(隠れた左目には何も映らない。)
(だけど開いた右目だけでもボスは見れる。)
(だからボス、)
(そんな悲しそうな顔しないで。)
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