暁の夢

□04 裏切りの夜
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虫の鳴き声さえ聞こえない夜が、
クラン村を包んでいた。

空は月さえ見えない、黒い雲
におおわれてまるで天から
見放されているようだった。






そんな静まった村を、
一つの影が息を潜めて
駆けていく。



フードを深くかぶり
とあるところにやってきた。





静まった村とは逆に、いくつもの明るい灯火に照らされて、酒に酔い笑い狂う男共の声が響きわたる。


時折、それはお腹にまで衝撃が伝わるような大きなのものもあった。







影は門の前までくると、そこに立ちはだかった。

それに気づいた門番の数人の男たちは顔をしかめる。







「おぃ、てめぇ...こんなところで何してやがる」
「村人はもう出歩いていい時間じゃねーぜ?」






近くにあったナイフを構えて、そのフードを深くかぶった相手に問いかける。

次の瞬間、彼女はフードをはぎ
その顔を見た男たちはギョッとした。







「げっ、、おま...」
「ギジュンに合わせなさい。
今すぐに」











ーーー










「よおっシンアlove...。何年ぶりだ?」






賊のあじとである、小さな小城
の奥の部屋にギジュンはかまえていた。深く椅子に腰掛けて、両手に
若い女を連れながら鼻の下にある黒いヒゲをなでた。






「久しぶりねっ」
「会わねえうちにいい女に
なったもんだ」






じとりとシンアloveの全身を舐めずり回すように見るなり舌をぺろりとさせ、不快な笑みを浮かべる。

そして、椅子から立ち上がると
シンアloveの前までいき、彼女の首をぐいとあげた。








「...なにしにきた。」
「そうねっ...」







耳元から首筋にギジュンの顔がきたときだった。
隠し持っていた短剣をぬき、
目の前の彼へと振りおろした。







「あんたを殺すためよ!!」





ガキン





「ぅ っ!...ア゙ツ」






しかし、短剣は宙を舞いシンアloveは
首を掴まれてジリジリと持ち上げられた。








「久しぶりの挨拶にしたぁ、品がなさすぎる...なぁ?シンアloveよう」
「ぅぅ...っ」







ギリギリと力のこもる手を振り解こうと、暴れてもびくともしない。


宿で村を苦しめ続けていると知ったシンアloveはギジュンの暗殺をこころみた。しかし、女でひとりでは限界がある。






「あんた...さえいなくなれば...
あん...た...さえ...」
「おいおい勘違いはよくねーぜ?
この村を一番苦しめ続けたのはだれだ?」
「...っ...」
「シンアloveてめぇだろ!!
お前は一生この村の命を背負って生きてかなきゃなんねーんだ!
逃げることなんてできねーんだよ!」






図太い笑いをあげながら
ギジュンはシンアloveをほおり投げた。






「赤髪の女...」
「っ!...」
「そいつをつれてこい。
あいつは金になりそうだ...
金目のものとその女をここにつれてこい。村人を殺されたくなかったらな。」







そうかっ...あいつが...
昼間あったあいつらが、ギジュンに話したのか...

私は...一生この呪縛からのがれることはできない...

そう...一生..."嘘つき少女"を
演じなければならない...



私は嘘つきなんだから...














ーーー











規則正しい寝息だけが聞こえる部屋。久しぶりのちゃんとした寝床に、長旅の疲れを癒すヨナたち。







「〜っ!!?」





そっとヨナに近寄り、布を口にあてて首に短剣を押し付けるシンアlove。
突然のことにヨナは声にならない悲鳴をあげた。





「何者だ!」
「姫様を離せ!!」






異変に気づいたハクとキジャが飛び起き、部屋の明かりをつけそれぞれ大刀と龍の手構える。







「っ...お前...何してる。」
「シンアloveっ!...」


「...ぷはっ、シンアloveどうしたのよ!?」






あぁ、またこの顔だ...
驚愕した瞳で私を見る
そのまま憎悪して、刃をむけて...
それが一番らく...
そうすれば、ヨナたちが傷つかなくてすむ。

そう憎んで、
でも...どうしてかな...
胸がチクチク痛む。
馬鹿だな、自由になんてなれるはずないのに...

裏切るのは...憎まれるのは
なれっこなはずなのに...







シンアloveはヨナを抱えて、二人の隙を突いて窓から脱出した。


「っ!まて!!」



それをおってキジャとハクも外にでる。




そして、騒ぎに気づいたジェハたちもハクたちのもとに駆けつけた。





「なんの騒ぎ!?って、なんでシンアloveがヨナに剣をむけて捕らえてるわけ!?」
「知らねぇ...、俺も起きたら
こうなってたんだ。」
「シンアlove...そなた、どうしたというのだ。」
「近寄らないで!!」




ヨナの首にある剣をくい込ませると全員神経を痺れさせたように固まった。







「...ピーーーーーツ」





シンアloveの指笛のあいずで、隠れていた賊たちが次々に現れた。
そして、村のあちこちの家を襲い、金目のものを奪う。
逆らうものには暴力をふるった。


静かな夜は一瞬にして、地獄へと変わってしまった。







ハクたちにも賊たちが襲いかかり、
激しい抗争となった。



「はぁあっ!
ちっ、姫さん!!」

「ハクーー!」





屋根の上に回避した、シンアloveは
暴れるヨナを押さえつけた。





「リム!離して!!
どうして!?」
「.........ごめんね...」







ドスッ

ヨナに聞こえないくらいの、悲痛にみちた小さな声とともシンアloveはヨナの後頭部を殴った。


そしてヨナはぐったりとシンアloveの腕の中で気を失った。







「っ!!姫さん!!
...て...めえ!!!」
「っ!」






周りの賊を振り切ってシンアloveのところまできたハクはシンアloveに斬りかかった。
しかし、ハクの刃をシンアloveは片手でヨナを抱えつつ右手の小太刀で打て止めてかわす







「ハク!これじゃあきりがないよ!」
「数が多すぎるわっ!」
「せいやぁ!!...姫様!!」







下で賊たちと戦闘を続けている
ジェハとジェハloveとキジャ、そしてシンア。
しかし、あまりの数の多さに手を焼いていた。




「倒しても倒してもきりがない、」
息をあげて疲れ始めるジェハlove。




「どうしちゃったのさシンアlove!
ねぇってば!!
聞こえてるでしょ!?」




屋根の上にいるシンアloveに必死で声をかけるユン。


しかし、シンアloveは聞く耳をもたず
ハクと抗争を続けていた。






「っ...ちっ」
「っ!」





ハクの刃とシンアloveの刃が互の頬を切りつけて、そこで踏み込んで互いに距離をとる。






くっそ...ここまでつええとは...
厄介だな。
姫さんを抱えている以上
下手に手出しはできねぇ



心の中でハクは焦りを感じていた。









このまま戦っても...村の人や
ハクたちをきづつけてしまう...
目的は果たしたんだから、、、





「撤退する!!
ただちに必要なものだけもって撤退せよ!」






シンアloveの声に賊たちは撤退していき、
ヨナを抱えてシンアloveも去ろうとした。





「シンアlove!!」






ふとかかったユンの声に立ち止まって振り向く。
じっとこちらを見つめるユン、
その後ろにはシンアの姿もあった。






「っ...」
「っ!シンアlove!」





しかしシンアloveはそのまま闇へと姿を消していった。











「...シンアlove、だ...」






静寂を破ったのは一人の村人の声だった。




「...帰ってきていたのか...。」





「おい、そりゃぁどういうことだ。」
「ひぃ!」





その男の胸ぐらを掴んで問いつめようとしたハクの手を、ジェハが優しく握って首をふった。






「ヨナちゃんを攫われて気がたってるのはわかる。だけど、そんなんじゃ聞き出すことはできないよ、
その手を話して...」






ジェハに静止されて、ハクはその手を話した。





「ジェハの言う通りだよ!
動揺してるのはみんな一緒!
今は状況を理解することが最善策だよ。」





ユンは腰に手をあてて言う。





「ゼノもそ〜思う!」
「私も賛成」




「すまぬが話を聞かせてもらえぬか?わたし達も状況が理解できていないゆえ、すこしでも情報が知りたい。」




キジャがそっときくと、緊張が
とけたのか男はしゃべり出した。







「はぃ...私はここの村長です
そして、シンアloveは...ここの村人でした。...」





そして村長は語り出した。
ここで生まれたシンアloveは、その生まれつきの"天の耳"の力で恐れられていた。
両親は自決し、村人から迫害を受けて育ったと。

その能力で真実を口にしていたが、
信じてもらえず着いた名が
"嘘つき少女"



そんなある日、ギジュンのひきいる賊が襲ってきてこの村を占領した。





「しかし、彼女は教えてくれたのです。我々に迫害されながら、村を守ろうと賊がくることを知らせてくれたのです。


しかし、我々は信じることができず...また残虐な行為を彼女にしてしまいました...」





「...傷...。」
「どうした?シンア。
言いたいことがあるなら申すといい。」
「...シンアloveの背中に...大きな...傷があった。」
「ん?ちょっとまってシンアくん。
なんでシンアloveちゃんの背中に傷があるって知ってるの?」
「...?(首傾げ
...見た、から...」
「えぇ!?」
「ジェハ!今はそんなこと関係ないでしょ!」





話がそれそうだったのでジェハloveが
突っ込みをいれる。





「その傷は我々の迫害のときに残ってしまった傷でしょう...



本当に、どれだけ悔やんでも...
悔やみきれない...」





そういって村長や、周りの村人たちは俯いてしまった。






「だから、せめて彼女を...ギジュンの
呪縛から解放してあげたいのです。

ですから、どうか...彼女を...
シンアloveを助けて頂けませんか」



「言われるまでもねーよ」
「そうだよ!俺たちは仲間を見捨てるような集まりじゃないからねっ」
「ゼノたちが娘さんもシンアloveも絶対助けるよ!」
「そうだね!」
「か弱い女の子が困ってるときは
助けるのが僕の美学だからね✨」

「ご安心を、責任をもって二人を
つれて帰ってまいります」





キジャが軽く村人達に一礼をした。







「ありがとうございます...



ギジュンのいる賊たちのアジトは
西に向かって小さな森を抜けると
古い小城があります。
そこにきっといるはずです」







そして、村長の指さした
方角にハクたちは歩き出した。







ーー

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