暁の夢

□15 水面の余韻
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件名: 15 水面の余韻












祭火の舞が終わったあと、集落では賑やかな笑いと酒に酔う人達が溢れていた。



その声が静かに聞こえる川付近で、
今宵のメインの一人として注目された歌姫こと四龍の天女が華やかな衣装のまま水面に浮かぶ自分を眺めていた。




しかしその目はここにあらずという感じで何もうつしていなかった。





「…スウちゃん…」





少女は先ほどの舞の前に打ち明けられたスウのことを思い出していたのだ。






ーーー










夕暮れを射す太陽が二人を照らす。
その中で有無がれるスウの言葉にリムは耳を疑うのだった。




「私ね最初、ジェハのこと大嫌いだったの…」











少女が生まれたのはどこかしれず、
もの心ついたころには裏社会の商人のもと様々な商品として扱われてきた。



少女はそれが当たり前だと思って育ってきた。




その当たり前を崩すある日がやってきた。





いつものように人の不幸の蜜とでもいう名の酒に酔う商人たち。
牢獄につないだまだ年を数えるには幼い少女を下から見定めながら言う、






「こいつぁえらい金になる
手放すにゃー勿体ねぇな」
「だなぁ、いくらでも酒やら金を持ってきてくれるいい金ずるだァ」
「せいぜい俺たちに大量の金をもってくるこった」






鎖で繋がれた足を引きずりながら壁へと逃げる。



冷たい石の感触が全身を凍えさせ、
いつもの言葉を口から吐き出させるのだ、






「おうせの…ま、っ!」




彼女がその言葉を口にすることは二度となかった。
再び紡がれようとした言葉を爆音が途切れさせたのだ。



地鳴りが響き、男たちの顔にも焦りの色が見え始める。




「な、なんだ!!なんの騒ぎなんだ!!」
「さ!山賊です!!」
「山賊だぁ!?」





連絡を伝えに来た下っ端と男の言葉に耳を疑った。






「山賊なんかけちらせばいーだろ!!それともこいつを狙ってきたのか…」






治癒の力のある肺をもつ、伝説の巫女…龍を信じるわけではないがやはりこの力を知った男たちは独り占めにしたかった。




そして男はちらりと少女をみる。





そんな時だった。
この部屋への隠れ扉が爆音とともにふっとび、沢山の武装集団が入ってきた。


慌てて交戦するもあまりの人数の差に男たちははがたたず次々に倒れていく。








少女はその姿をただただ眺めていた。


そして、最後の男が目の前で切り捨てられたとき武装集団のトップに君臨するお頭と呼ばれた男と目が合う。




あぁ…次は私番かと思った時だった。



思い牢獄の戸をそのとなりいた女の人が盗んだ鍵であけると、二人が入ってきて彼女のまえに膝をついた。





「もう、大丈夫だ。
安心しなさい。」
「あなたは今から私たちの娘よ」







この日初めて少女に父、母というものができた。










あれからその集団が裏社会から恐れられている山賊であることを知った。


いくつもの密売や、人身売買をとめてその被害者たちを救っていた正義の山賊だ。



そして、その山賊の頭領である人に少女は救われた。
少女はスウという名をもらった。
その頭領夫婦には一人娘がいて、スウの姉妹となった。
その義理妹は親ににて優しく、スウに温もりという温かさを与えたのだった。







そして月日はながれ…
スウは幼い少女から女性と呼べるくらいまでの歳になった。





「スウお姉ちゃん!」
「…ラン、どうしたの?」
「またクウトたちが喧嘩してるの!
もー大変な騒ぎで、スウお姉ちゃんも早く来て!」
「あらあら、わかったわ。
すぐ行く。」





そう言って可愛い妹の頭を撫でてやるとランは嬉しそうに目を細めた。



自分と二つしか変わらない少女はいつも屈託の無い笑顔で家族のような山賊のみんなを癒していた。


そんなランがスウはとても大好きだった。









「だから!!俺はべつに姉さんのこと!!」
「うそつけ!いっつもじろじろ見てんじゃねーか!!」
「ジロジロとか変な言い方すんじゃねぇ!」


「こら!クウトたち、何してるの」
「あ、姉さん!?」





まだ自分より幼いクウトのえりあしを掴んで相手から引き離す。






「な…なんでもないっ…す」
「ほんとに?、もー仲良くて喧嘩するのはいいけど周りに迷惑かけちゃだめよ?」
「………はい。」








ーー









「ふう…」





スウは澄んだ青空の太陽が照らす川辺で洗濯物を洗っていた。
冷たく透明な水が気持ちいい。





「これと、あとはこれかな」





本当ならば他の人がやるのだが、スウは自らやりたくて自主的にやっていた。







目の前の洗濯物を洗っているとふと、何かの気配を感じて下流のほうを見る。





すぐそこの川が開けたところから深くなっており成人男性でも足がつかない深さになっている。


そのあたりをみると人影らしきものが見えた。






…人?、…でもあんなところに
嘘でしょ!?








「大変!!!」





認識すると彼女は駆け出して川に飛び込んだ。
泳げないわけではないが、こうも流れが強いとうまく目的の場所にたどり着けない。




それでもなんとか近づいていくと、その影が成人男性であることがわかった。
なんとか男性の衣類をつかみ腕を巻き付けると岸へと必死にむかって泳いだ。





「ぷはっ…ケホッ、あと…少し…」





ザバッ





なんとか岸にたどり着いて川から男性を引き上げる。





「はぁはぁ…っはぁ」




荒い呼吸をなんとか押し殺すとそっと男性を仰向けにさせて顔にかかった髪をどかす。

すると現れたのは端整な顔立ちだった。



それに一瞬見とれつつも男性の呼吸を確認する。





「…浅い……、っ」





ひと息つくと気道を確保して、
スウは男性の肺に空気を送り込んだ。
何回かそれを繰り返えし、龍おも治癒できる巫女の肺から彼に空気をおくる。





「っ!…」






すると男性が水を吐き出した。
そして、ゆっくり呼吸を始めたのだ。





「よかった…」





ホッとした時だった。




「誰かいるの?」
「っ!」




薬草をつみにふもとまでやってきていたランがやってきたのだ。





「…っ」





うっかり、反射的に隠れてしまった…



岩陰でスウは頭を抱えた。




そしてランが現れたとき、そこには倒れている男性しかいなかった。





「!大変、大丈夫ですか!?」




発見したランが慌てて駆け寄って男性の上半身を抱き起こす、
すると、ゆっくりと男性は目をあけた。





「…よかった。大丈夫ですか?」
「…君が、助けてくれたのかい?」




初めて聞いた男性の声は低くて甘い声だった。





「…いえ、私はそんな、」
「……ありがとう」
「…………」




優しく微笑んだ彼の笑顔と声にランは顔を赤らめて夢中になった。
そして鼓動を高鳴らせるのだった。








「……」




キュッと傷む胸を抑えてスウはその光景を眺めているのだった。








ーーー

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