月と星の恋

□2 崩れた壁
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彼女達がツキノ寮に来て1週間。
荷物の片付けも終わり、生活にとけこんでいると
思われていた‥‥が‥‥。

藍媛は表向き仲良く話しているが
誰とも一線を引いて近づけない距離を作っていた。苺愛は感情が全部表に出るためあきらかに
びくびくとしていた。

今のところ彼女達とそれとなく話せるのは
葵、新だけだった。


そんなある日ツキノ寮にマネージャー二人が
訪ねてきた。
今日は仕事で恋と駆、陽と夜がいないため
その他のメンバーでグラビの共同スペースに
あつまった。


「おやぁ?始、藍媛がいないみたいだけど?」
「隼の階に住んでる苺愛もいないみたいだが?」
「それなら心配いらないよ
新と葵くんが呼びに行ってくれてるから」


プロセラの住む3階の一室にいる苺愛と、
グラビの住む二階の一室にいる藍媛を、
ふたりが迎えに行っているよと春がみんなに説明したあと、すぐにその二人はあらわれた。


「奏!」
『大にぃーーーーーーーーー!!!』
「わあっ」
「うおっ」


ものすごい勢いでふたりが抱きついてくるため
バランスを崩しかけた黒月と月城。

「会いたかったァ」
『大にいー大にぃーっ』


藍媛も苺愛も幸せそうな笑顔をしていた。
彼らははじめて彼女達の笑う顔を見たのだ。
ツキノ寮にきて、まだほんとに楽しそうにしてる
ふたりを見たことがなかったからだ。


「はいはい
いい子にしてた?」にこっ
「わかったから落ち着け(汗」


よしよしとあやしたあと
本題の話に入った。


「えーっと今日は三日後にある、プロセラとグラビが同時出演する生放送の歌番組についてお話があってきたんだけど、」
「藍媛と苺愛にはその生放送の撮影現場に同行してもらう。ま、ようは初仕事だな。」
「は、はつしごと‥‥」
『‥‥なにするの?』
「そんなに不安がらなくてもいいよ
初仕事っていってもこれからしてく仕事を教える
見学みたいなものだから」
「で、これがスタッフ証と名刺な
なくすなよ」


そういって渡されたものに不思議と
胸がざわついた。
そこには自分たちの名前が入っており
自分たちがそれぞれの付き人である証のもの。

はたしてこれを私達が持っていいのだろうか‥‥



ーーー



そして撮影当日はすぐやってきた。
夕方のお仕事だったため学校があった苺愛と藍媛は急いで大阪から東京に直行した。

現場につくと彼らが使うであろう楽屋に
案内された。
そこには月城と黒月がいて、
さっそく仕事を頼まれた。


「ごめんね、グラビとプロセラの人数分の飲み物と夕ご飯の買出しをお願いできるかな?」
「必要なものはこのメモとお金はここの封筒に入ってるからな。あとこれ地図。気をつけていけよ。」


そういって忙しそうに行ってしまった月城と黒月。ぽつんと見知らぬ場所においていかれた
ふたりはデジャヴを感じた。


「‥‥忙しそうやったね
奏たち。」
『はじめてみた‥‥
なんか、‥‥私達役に立てない‥‥かな、』
「そうやね
二人の役にたちたい。」

今までだったら怖くて泣いてしまっていたであろうこの状況。
彼女たちは少しずつ変わり出していることにまだきづいていなかった。


ーーー


目的のコンビニまで歩いて向かっている
藍媛と苺愛。


『そーいえばさ、藍媛ちゃん』
「んー?」
『なんで目が見えないのに私のうった文字が
理解できるの?』
「‥‥‥‥‥‥、なんでやろ?」
『私は喋れないけど見ることはできるし
藍媛ちゃんの目になってあげられるでしょ?
で、私が大変なとき代弁してくれるのは藍媛ちゃんで‥‥』


珍しく長文を真剣にうつ苺愛。
うちなれていても指が釣りそうになる。
その手をスッととめて藍媛はこうつづけた。


「なんか、わかるんよ
苺愛がいおうとしてること。
ずっと二人でいたもんね」
『そっか。でもずっと二人だけど
大兄と奏くんも一緒だよ?』
「そーやねっ」


そんな会話をしてるとあっという間に目的地につき、必要なものを買って来た道を戻っていった。



ーーー



「遅れてすみません!」
「いっくん、お疲れ様っ」


部活で遅れた郁が到着して楽屋には
ProcellarumとSix Gravityのメンバー全員が
揃った。

すると郁があることにきづく。


「あれ、これ俺が前から飲みたかったジュース」
「そーなんだよ!俺の欲しかった弁当も
準備されててさ!」


すかさず恋もきづき、みんなも
自分たちがほしかったものがあるといった。

海は黒月さんたちが準備してくるたのか
といったが、ここに来る途中に言わたことを思い出した。スタジオについて顔を合わした時、

「楽屋にみんなの飲み物と夕飯用意してくれたから食べるんだぞ」

と黒月に言われたのだ。
してくれたってことは‥‥黒月さんたちじゃない?

「‥‥ねぇ、これって」

すると夜が袋の中にある小さな紙に気づいた。
どうした?と陽がそばにくる。
紙に書いてある文字を読みあげる夜。


「生放送の歌番組‥‥頑張ってください
私達が思いを込めて作った曲と歌詞が
どんなふうに歌われてステージになるのか、
楽しみにしています‥‥藍媛、苺愛より
だって!」
「藍媛ちゃんと苺愛ちゃんからの差し入れってことか!?」


あの怖がりなふたりが協力して人数分の
ご飯と飲み物を用意した。
全員理解して、まるで子供がはじめてのおつかいを成功したときの親の気持ちになった。


「よぉぉっし!頑張りましょー!
ガンガン張り切っていきますよー!」
「はい!駆さん!俺も全力でいきます!」
「駆も恋も、燃えてる」
「涙!俺達もがんばろーな!」
「いっくん、うん‥‥がんばる」
「二人に頑張って言われちゃーね
隼さんお仕事頑張っちゃおうかな」
「明日は雨か、隼が仕事にやる気を出すなんて」
「おや海失礼だなぁ
始もがんばるよね」
「当たり前だ、なぁ春」
「うんっ俺も頑張っちゃう」メガネくいっ
「苺愛のやつも成長したんだなー
今度お兄さんがよしよししてあげよう」
「ははっ新は苺愛ちゃんがお気に入りだね」
「葵も藍媛お気に入りだろ?」
「え?あーうーんー、えへへっ」照れ笑い
「よっし、じゃぁ二人の愛情が逃げないうちに
食うか!」
「あ、陽それ俺のお弁当!」


そしてみんなでおいしくいただいたのだった。


ーーー


眩しい光と大きく響く音楽。
沢山のカメラに囲まれながら生放送歌番組は
はじまった。


すみでスタッフ証を握りしめながら
収録現場を見つめる藍媛と苺愛。
その様子は緊張しているようだった。

目の前にはキラキラした芸能人たちがたくさん。
その中にきらびやかな衣装をまとうグラビとプロセラのメンバーたち。黒色に輝くグラビと白色に輝くプロセラ。

日常生活とはまた違った彼らに目が奪われた。

そしてSix Gravityの歌のばんがやってきた。
曲はGRAVITY!。スタジオには苺愛が作曲した音色が流れはじめて彼らの綺麗な歌声で藍媛の歌詞がつむぎはじめる。

シンセの音がお腹に響き、いきのあった歌声が
体の芯までしみこんでくる。


そして大きな歓声に包まれた後
あっという間にProcellarumの番。
曲はONE CHANCE!
ギターとベース、ドラムの音が鳴り響く。
元気のいいかけ声、綺麗なハモリ。
一人ひとりが歌う事にその色を変える音色が
とても綺麗だった。
特にサビの6人で別れた綺麗なハモリは
耳をとかされそうだった。

Six GravityもProcellarumもそんな中で
身軽に華麗なダンスを披露していた。


彼らが踊る姿を、彼らのステージが見たい。
何かを見たいなんて思ったことなんてなかった、
‥‥綺麗、自分の考えた歌詞がこんなにも
素敵に歌ってもらえるなんて夢のよう‥‥
アイドルとして輝くみんなからとってもあたたかいものを受け取った感じがする。


叫びたい、こんなこと思ったのはじめて。
この湧き上がる感動を歓声というもので吐き出したい。自分が作った曲をこんな素敵に歌って踊ってもらえるなんて、熱いものがこみあげて涙がこぼれた。
大丈夫、藍媛ちゃんのぶんまでしっかりこの目にやきつけたよ。


そんな思いを込めてとなりの藍媛の手を握り締める苺愛。それに藍媛も応えて手を握り返す。


「苺愛?‥‥かっこよかったね
Six GravityのみんなもProcellarumみんなも」
『うんっ!うんっ!私、
ちゃんと話せるようになりたい。話せるようになってみんなと仲良くお話がしたい。』
「ウチもみんなの笑顔をこの目で見たい。
輝くところを見たいねん。」


もう1度決意を固めるかのように
お互い手を握りしめた。
そして手に持っていた付き人としての証拠、
スタッフ証を幸せそうに首にかけるのだった。


そのようすを遠目で見ていたマネズふたりは
嬉しそうに目を合わせているのだった。





ーーー

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