英雄伝説

□一話
1ページ/1ページ

暗闇からゆっくりと浮き上がる感覚で意識が戻り俺は目を開いた。
(……ここは?)
此処はどこなのだろう?
目の前には荒れた大地とかさかさな草、葉っぱがついていない木々、そしてとても遠いが人がいる。
(……こ、こは)
頭に浮かんでは消える何か。それは此処が〈“荒れ果てた荒野”〉だと教えてくれた。そしてさらに何かは続いていく。
〈“荒れ果てた荒野”には職を失った無職の人や親に捨てられた子供が暮らす場所。無法地帯だ〉
(しょく?ことも?むほーちたい?)
しかし頭にはそれらについては浮かばなかった。浮かんだのは別の事。
〈今、世界には魔法使いとマグル、スクイプがいる〉
(まくる?まほーつかい?すくいふ?)
〈マグルとは魔法使いでない者の事。魔法使いとは魔法を使う者だ……スクイプとは魔法使いの元に生まれたが魔法が使えない者の事だ〉
(まほう?)
しかし俺の疑問には答えずに淡々と教える。
〈今魔法界は身分制になっている。
一番上が三家……スリザリン家、ハッフルパフ家、レイブンクロー家、だ。
次に偉いのは魔法大臣。その次が魔法省……役人だ。
それからは色々複雑に入り組んでいる〉
(????)
俺は何が何だか分からなかった。
〈だが人……マグルや普通に働いている魔法使いより身分が下がある。まずマグルや魔法使いより上から没落した家だ。その下が孤児……親に捨てられた子供や無職な人々。そして魔法生物だ〉
(まほー…せいふつ?)
〈……その魔法生物より下がある。人として見られていない、奴隷だ。奴隷には三段階ある〉
(…………)
〈一般型奴隷、戦闘奴隷、実験中の暗殺戦闘奴隷だ。奴隷の中では上の一般型奴隷は……そうだな。人にこき使われる、とでも言おう。真ん中の戦闘奴隷はそれに戦闘……金持ちの娯楽の為の奴隷同士の喧嘩が入る。最後、下の暗殺戦闘奴隷は……戦闘奴隷にもっとも罪が重い“殺し”が入る〉
(こ…れし?)
〈殺し、だ〉
俺は何一つ分からないまま浮かび上がっていた何かは消えていった。
教えてくれた内容は何一つ分からないが忘れることは出来ずに、漠然と周りの荒れた大地を見渡す。
(……おれは?)
不意に湧き出てきた感情。
「おれはたれ?」
「だぁぁれだろな?」
周りを見ていた俺の後ろから野太い声が聞こえた。
俺は後ろへ振り返る。
「……たれ?」
そこには真ん丸な頭に傷がついた顔の男が立っていた。
男はニヤリと笑う。
「捨てられたガキか。オマェにゃ悪いが……」
男は腕を上げる。
「死んでもらう」
男は腕を振り下ろした。
俺はまるで当たり前のように前……男の方へと走った。
「あ゛ぁ?」
俺は男の足元までつくとおもいっきりジャンプをした。
「ぐぅあ……」
俺の頭が男の急所に当たり男は急所を押さえながらゴロゴロとのたうちまわっている。
男は涙目になりながら立ち上がり話す。
「オマェ、やるじゃーねぇか……」
俺はそう言った男に聞いた。
「なんてころころしているの?」
男は目を丸め、口をこれでもかと開き、驚いていた。やがてゆっくりと言う。
「無意識かよ……」
男は唖然と言った。
「めいしき?」
「……む・い・し・き・だ」
「むめしき!」
男は額に手を当てた。そしてしゃがみ、俺の目の前でハッキリと言った。
「む・い・し・き・だ、ガキ。遠くなってるぞ」
「むしき」
「ねぇワザと?ワザだよな?ガキ」
俺はキョトンと傾げる。
「わさと?」
男はガクリと肩を落とした。
「誰だ……こんな言葉もろくに話せないガキを捨てたのは」
「す……てた?」
男は俺を見る。
「……はぁ。このまま置いておくのはな……ガキ、名は?」
「な?」
「……ないのか。俺はエスタージオだ。エスタージオ・ニーランド。エスタージオって言ってみろ」
「え……えすた」
男はゆっくり大きく言った。
「エスタージオ」
「えすたすを」
「……エスタだ」
「えすた!」
「……ああ。それでいい」
何やらエスタは涙目だ。
エスタは立ち上がり手を差し出した。
「おら」
「…………?」
「ったく」
エスタは俺の手を取り繋いだ。
「今から俺が使っている家へと行くぞ」
「えー!」
「……妙なのを拾ったな」
「?」
「何でもねぇ」
エスタは俺をグイグイと引っ張って何処か検討もつかない場所へと連れて行った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ