英雄伝説

□四話
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いくつもの朝と夜が経ったある日、俺は地べたに顔をくっつけていた。
(……?)
俺は目の前にあるギザギザな葉っぱを根っこから取り、トタトタとエスタの元へ向かった。
「えすた!」
「んあ?……どした?」
「これ」
俺は引き抜いた草をエスタに見せる。
「あー……そりゃ毒のある草だ」
俺が分からずにキョトンとしているとエスタはニヤリと笑い、言った。
「食ってみれば分かる」
(……たべる?)
俺はしばらく手に持っている草を見つめ、それからパクリと食べた。
「本当に食うか?」
エスタは呆れ気味に言う。
「う゛ぇぇ〜」
(まずい……)
草を食べてから舌がピリピリとし、何だか体が動きにくい。
「それは毒草だ。毒草っても舌がピリピリし、体が少し痺れるくらいの軽いもんだがな」
「むぅー」
「体の痺れがとれたら薬草探してこいよー」
エスタはゴロン、とまた寝転がる。
(むぅ〜〜…)
絶対エスタが驚くようなのを取ってきてやる!
トタトタと俺は“家”から離れた。
(なにかあるかな?)
キョロキョロと注意深く周囲を見ながら俺は歩いていく。
(あれはちがったし……)
この辺りは全て終わったか?
(ほかのくさは……)
遠出しないとないかな?
俺は更に奥に行くために駆け出した。
何で俺がこんな遠い所までウロウロとしているかと言うとエスタが一言……
「腹痛いから薬草取って来い」
から始まった。
それで俺は片っ端から目についた草を抜いてはエスタに届けたのだが……見事に全て違った。
この辺の草は全て渡したので俺は今遠くの森へと向かっているのだ。
(うわぁぁ……)
森はまた荒れ地とは違う植物で溢れていた。
(このどれかに、あるかな?)
俺はキョロキョロと周りを見渡しながらガサガサと進んで行く。
『クゥゥゥ……』
「……え?」
今にも消えそうな動物だろう鳴き声。
俺はピタリと動くのを止める。
『クゥ……』
(こっ……ち……?)
俺は声の主がいるだろう場所へと足を向けた。
ガサガサと草を分けていくと不意に少し開けた場所に着いた。
(ひろ…………)
キョロキョロと周りを見回すと開けた場所のちょうど真ん中くらいにこの世にはいないだろう、と思うほどの不思議な色をした鳥が血まみれで倒れていた。
俺はパタパタと駆け寄って行く。
(えー…と?)
とりあえず赤い液体をどうにかしなければ、と思った俺はその近くにあった草を沢山抜いていきそれらを地面に引く。
そしてそっと鳥を抱え引いた草の上にゆっくり乗せる。
(んー……?)
しばらく考え、思い出した。
エスタが同じように赤い液体を流していた俺に深い緑色をした葉っぱをギュッと握ってポタポタと出てきた汁を塗ると血が止まった気がする。いや、痛みが引いただけだったか?
(どっちかはわからないけど……)
やってみるか。
そう思った俺は怪我をした鳥から離れ、あの深い緑色の草を探した。
「…………あ」
あの鳥から大分離れてしまったが、俺は湖の中にある深い緑色の薬草を見つけた。当然、その薬草が生えている場所が水の中なので取るには潜らなくてはならないが。
「…………」
俺はポチャンと先に足を入れ、スルリと水の中へ入る。
スゥ……と息を入れ、止めてからバシャと潜る。
水の中は澄んでいてヒョロリとしていたり、プクッと膨れていたり、大きいものから小さいものまで見たことのない生物がそこには住んでいた。
俺は見知らぬものばかりでキョロキョロと周りを見ていたがそうするとあまり息が持たなくなり、何回か浮上するということが続いた。
だが、やがて学習しキョロキョロと周りを見ることをせずに探していた薬草を探しはじめる。
(あった!)
一生懸命に手を伸ばし、プツリと薬草を抜いた。
俺は薬草を握りしめながら浮上する。
「ぷはっ……はぁ、はっ」
少しだけ息を整えてから陸に上がる。
(いそがないと……)
俺は陸に上がってからあの鳥の元へ走り出した。
(……いた)
俺が鳥を見つけた場所へ着くとそこには俺が見つけた時と何一つ変わらないままで弱っている鳥がいた。
(こうしてっと……)
俺は取ってきた薬草を搾り、出てきた少ない液体を鳥にかける。
(…………えーと)
この先どうするんだっけ?
俺がどうするか分からずにうろうろとしていると鳥がクゥ……と今だ弱々しくではあるが初めよりかは力強く羽をばたつかせながら鳴いた。
「……どうしよう」
これをとめないと、と俺は流れ出る血を見ながら言う。
『いや、大丈夫だよ』
鳥のクチバシが動き、幼い子供のような声でそう答えた。
「………………え?」
『君が取ってきた薬草は血止めの効果があるやつだ。だから少し時間が経てばこの血は止まるよ』
(とり…………と……り……)
「う…………」
『う?』
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
俺は悲鳴を上げながらズザザァと急いで鳥との距離をあける。
そんな俺に不思議そうに鳥は聞いてきた。
『おいおい、どうした?』
「……はなしてる」
えすたがどうぶつははなさないっていってた、と俺は付け加える。
『ああ……成る程』
納得したように首を縦に振りながら鳥は言った。
『確かに動物は話さない。だが、全てが動物とは限らないんだよ』
「…………?」
『うーん……そうだねぇ』
キョトンと話している事が分からずに首を傾げると鳥はうーんと唸りだす。
やがて鳥は唸り声を出さなくなり、クチバシを開いた。
『似ている姿をしているからって同じ種族ではないって事だよ』
「…………?」
『…………うん。あれだ……皆には秘密だけれども中には会話が出来る優秀な動物がいるんだよ』
「ほかにもいるのっ?」
勢いよく聞いた俺に鳥はスッパリと言った。
『さぁ?』
「………………」
(……なに、こいつ?)
俺は不信の目で鳥を見る。
『……そんな目で見ないでくれる?』
「…………うそつき」
『え?何処が?』
「いるっていったのにいないっていう」
『僕が見たことが無いって言っただけだろ!』
「えすたはみたこと、かんじたことをしんじろっていってた」
“喧嘩”をした時にエスタはよく言ってる。
『ぐぅ…………仕方ないなぁ』
不確かな事を言ったのは僕だし……と鳥は呟いてからバサリと羽を広げる。
『うん、飛べなくはないね。…………さて』
そう言いながらバサリと鳥は羽を動かし空に浮く。
『君に……そうだな、贈り物でもしよう』
「……おくりもの?」
(おくりものってなんだ?)
後でエスタに聞こう。
『そう、贈り物。でも今すぐじゃないよ』
君が一番必要な時に必要だと思った物をあげる、と鳥は告げる。
『手当てをありがとう。僕は行くよ』
またね、と言ってバサリと羽ばたいたかと思うと鳥は消えた。
(あ……れ?)
「いない…………」
キョロキョロと辺りを見回すが地面に血が残っている程度で鳥がいた気配はもう無かった。
「…………?」
俺は風が吹き抜ける中ただ呆然としていた。

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