英雄伝説

□五話
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俺が鳥に会ったあの日よりも大分……いや、会話が成立するようになったある日、エスタが昼飯を食い終わり寛いでいる俺にこう言った。
「常識講習第一回開始!」
「……じょーしき?」
「そうだ。オマェも大分言葉を理解しているから、これからはこの世界の常識を教えよう」
知らないと恥ずかしいからな、とエスタは言う。
「まず、この世界には魔法使いとそうでない者に分けられる」
「まほう……つかい」
(それ、あのこえがいってた……)
確かマグル……とかも言ってたな。
「あぁ、魔法使いだ。魔法使いとは魔法が使える。魔法は……」
そこまで言ってエスタはポリポリと頭をかく。
「んー…魔法使いに会ったら嫌でも見るからな。そん時に教えてやる」
エスタはそんで、と話しを続ける。
「魔法が使えない者……俺やオマェの事をマグルと言うんだ」
まぁ、あいつらがそう呼んでいるだけだかな、とエスタは眉を潜め嫌そうな顔をしながら言う。
「魔法界の事は詳しくは知らんが……知っている分を教えてやる」
知らないよりはマシだろ、とエスタは吐き捨てる。
「魔法界はどうやらトップに偉い家があるらしい。んでその次に魔法使いを管理している魔法省があるんだそうだ」
そう言った後にエスタはため息をついた。
「だが、風の便りだとどうやらそのトップも形式的なだけで魔法省が一番偉いらしい」
「…………じゃあ、えらいのは?」
「魔法省だ」
エスタは迷わず言い放った。
「後は……奴隷がいるとも聞いたな」
だが、とエスタは眉を寄せて続ける。
「多分、嘘だろう。黒人なら分かるが同じ白人を奴隷にするなんて考えられん」
エスタはそう言って眉を潜めたまま黙り込む。
(…………どれい?)
奴隷とは何だ?
奴隷が何かを知るために俺はエスタに質問をする。
「えすた、どれいって?」
「………………」
しかしエスタは余程考え混んでいるのか返事をしない。
「え〜す〜たー!」
俺は気づかせる為にペチペチとエスタの足を叩きながら名前を呼んだ。
「ん?あ……どうした?」
やっと俺に気づいたエスタが慌てて問い直す。
「どれいってなに?」
「あー…奴隷はな自由がない人の事だ」
「じゆう?」
「あぁ。何も出来ないんだよ。一人で遊ぶ事も、昼寝をする事も、好きな時に物を食べる事も出来ない」
何で、だろう?昼寝をしたいのならばすればいいし、食べたいのならば食べればいい。
自由が効かない理由が分からない俺はエスタに問う。
「なんで?」
「あー…きっびしぃー奴らが居るからだな。もし勝手に昼寝なんかしたら蹴られたり殴られたり……飯は確実に無いし、場合によっては大人の世界を無理矢理って事もある」
「……おとなのせかい?」
「…………それはまだ知らなくていい。いや、知るな」
エスタはポンと俺の頭に手を乗せながら言った。
「後は……ああ、この土地の事も知っとかないといけないな」
エスタはスゥと一息し、話し出す。
「此処は“荒れ果てた荒野”と呼ばれている。この荒れ果てた荒野は……そうだな」
エスタはうーん……としばらく唸った後に口を開いた。
「皆、身寄りが居ない。一人だ」
オマェみたいに捨てられたり、職が無くなり離縁されたり、犯罪者とかな、とエスタは眉を潜めながら言う。
「そういう奴らが居るから当然治安も良くない。殺し合いなんて毎日だ」
オマェは嫌でもそんな毎日になる、とエスタは言う。
「ま、俺が死なない程度には鍛えてやる」
そう言ってエスタは頭に乗せていた手を離した。
「ラク、常識講習第一回はこれで終わりだ」
今からはと言いながらエスタは距離を空ける。
「“喧嘩”の時間だ!」
エスタはそう言って走って来る。
「っ…………」
いきなり始まった“喧嘩”に驚きながらも俺は何時でも動けるように体勢を低くする。
俺の元へと近づいて来たエスタはビュッと右手で殴りに来る。
俺は少し右に動き、エスタの殴りを避けてからエスタの足元を狙い蹴る。
しかしエスタは俺の足に気づき僅かに飛んで交わす。
そしてエスタはニヤリと笑いながら着地し、俺を目掛けて腕を振り落とした。
「ぐっ……」
蹴り終えた体勢のままでいた俺はもろにその攻撃を受ける。
「まだまだだな。一撃目を喰らわなくはなったが、攻撃し、交わされてからの二撃目が甘い」
だが成長としては速い方だ、とエスタは言う。
「次、行くぞ」
さっさと立ち上がれとエスタは言って俺から距離をとった。





「むぅ…………」
“喧嘩”が終わった時にはエスタは何事もないのに対し、俺はボロボロなのがいつもだった。
「まだまだ甘い」
そう言いながらエスタはクシャクシャと俺の頭を撫でる。
「さ、飯を取りに行くぞ」
そう言いながらもエスタは俺を見ながら笑っていた。
(…………ぜったい)
ぜったい、いっぱつなぐってやる!
俺はいつの間にか先に歩いているエスタに向かって駆け出した。

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