英雄伝説

□七話
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「……ん?」
俺がエスタと暮らし始めてからかなりの時間を共にしたある日、エスタは目を細めながら言う。
「エスタ?」
俺はもう、綺麗に話せるようにもなったし、獲物を取る事も、最近は人を殺せるようにもなった。
「……いや、何だか今日は人が多いなと思ってな」
「……人が多い?」
俺は眉を潜めながらエスタが見ている方向に顔を向ける。
(百……近くは人がいるかな?)
“荒れ果てた荒野”に人が来ないわけではない。しかしそれは此処に住むことになる奴らしか居ないので一月に一、二人くらいしか居ない。
(あんな人数で来るなんて……)
まるで何かを駆除するみたいだ。
「まだ、遠いが……」
ポツリとエスタは言った。
(…………あれ?)
よく見れば全員が緑やら青やら赤やら色んな色を纏っていてズキズキと鋭く感じるのもあればユラユラとしたのもある。
(…………?)
これは……何なんだろう?
「おい、ラク。行くぞ」
俺の思考を遮るように不意にエスタが声をかけた。
「行く?」
「今は遠いがこっちに来るかもしれん」
そうなればあの人数に殺られるだけだ、とエスタは言う。
「オマェも強くはなったが……二人ではダメだ」
だから逃げるぞとエスタは言う。
「少し北に行く。あそこなら人が僅かに居る」
それに奴らがそこまで来ないだろう、とエスタは言い立ち上がる。
「分かった」
俺は立ち上がり、すでに先を歩いていたエスタの元へと駆け出した。





「此処なら大丈夫だろ」
エスタはそう言って立ち止まる。
「さて……ラク、今日の食料はオマェに任せる」
俺は薪やなんか燃えそうな物を取ってくる、とエスタは付け加えて言う。
「陽が暮れる前には此処に集合だ」
そう言ってエスタは地面に大きく丸の印しを書いた。
「ほらっ」
そしてエスタはポイッと剣を投げて寄越した。
「…………っと」
俺はそれをガシャンと両手で受け止める。
「じゃ、またな」
そう言ってエスタは駆け出して行った。
(……今日は何にしよう?)
兎か鳥か……魚でも良いし、人間を捌いてもいい。
(出会ったものでいいや!)
俺はエスタとは逆の方向へと駆け出した。





(んー……)
ガサガサと音を立てながら俺は森の中を歩く。
(……動物がいない)
いつもならよく見かける動物が今日はパッタリと見かけない。
(……人でも良いんだけどなー)
動物とは違い、殺すさいに煩く喚き場所が見つかりやすくなるがこの際それでもいい。
(…………あれ?)
チラリと僅かに人影が見える。
俺は目をこらしそれを見てからニヤリと笑った。
(一人だ!)
一人ならば楽に殺れる。
俺は足音と気配を消ながらユックリと獲物に近づいていく。
「何なんだ?あいつらは……」
近くにつれ、獲物が息を切らし苦しそうな表情で言う男性だと分かった。
(男……)
俺は僅かに眉を潜める。
(男の肉って固いんだよね……)
でも、お腹はいっぱいになるけど。
俺は隠れられる草むらで足を止め息を最低限にまで殺し、獲物が近づいて来るのを待つ。
「信じられねぇ……何であんな事を……」
こっちの上は何をしているんだ、と男はボヤキながら隠れている俺の近くへと来る。
「あれじゃ、まるで―」
(今だ!)
俺はガサリと草むらから出て首を撥ねられるように剣を構える。
「俺達を―…うわぁ!」
男は草むらから出た音でこちらに気づいたのか驚いた表情をする。
しかしすぐさま警戒し、体勢を整えた。
俺はそんな男の懐へと向かうふりをし、男へと突っ込むが直前でクルリと回転し男の真横を通り抜ける。
だが、俺は通り抜けるさいに体重をかけ男の足を踏む。
「って……」
男は眉を潜めそう呟いた。
俺はその隙を見逃さず、すぐさま心臓へ向けて突く。
「ぐっ……」
それは見事にグショリと心臓を貫いた。
俺はズルリと剣を抜く。
男は支えていた剣を抜いたからかドサリと地面に崩れた。
(確認しないと……)
俺は男に近づき首に手を当てる。
(…………うん)
ドクン、ドクンと脈が動いている様子は無い。
(殺れたね!)
俺は首から手を離し、スルリと方に男の手を俺の肩に回す。
「捌くのは……エスタに頼もう」
ズルズルと引きずりながら俺は歩き始める。
「重い……」
人は死ぬと体重が増えるのかな?
「むぅ〜…」
あまりの重さに俺は肩から俺の手を下ろし、腕を掴む。
「よし!」
そしてそのまま俺は引きずって集合場所まで歩いた。

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