英雄伝説

□八話
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「……エスタ?」
昨夜は俺の企み通りにエスタに持ち帰った材料を捌かせて食べた。
ちなみに朝食は昨夜の余り物だ。
「…………ラク」
そんな朝食を食べ終わってからエスタはずっと眉を潜めている。
「あそこを見てみろ」
オマェならよく見えるだろう、とそう言いながらエスタは指を指す。
「…………分かった」
俺はエスタの指指した方向を見る。
(あ……れ?)
そこは昨日と同じ様な集団がこちらに向かっていた。
(あの色も同じだ)
纏っている色も感じるのも同じ。
「エスタ、あれ昨日の……」
「……やっぱりか」
そう言ってエスタは俺を見る。
「今からなら間に合うか……」
「エスタ……?」
ポツリと呟いたエスタの言葉に俺は不安が過ぎる。
「ラク、オマェだけでも逃げろ」
「……………………え?」
エスタは、どうするの?
俺がこの言葉を出す前にエスタは告げる。
「俺が此処の奴らと共に時間を稼ぐ。その間にオマェは逃げろ」
「…………やだ」
俺は、一人だけ逃げたくない。逃げるならエスタも一緒だ。
「ダメだ!!」
エスタは眉を潜め、鬼の形相で声を荒げる。
「今ならまだ間に合う!!逃げろ!」
「嫌だ!!」
大きな声で怒鳴るエスタに俺は引かない。
「俺一人逃げるなんてしない!!」
「ちっ……我が儘もいい加減にしろ!」
今は一人でも逃げるのが先だ!とエスタは怒鳴る。
「それに昨日よりもあいつらは上へと上がって来ている。恐らく奴らは一時的な殺しみたいなもんじゃなく、此処にいる俺ら全員を殺す予定だ」
子供だろうが容赦ないだろう、とエスタは言う。
「…………それでも、やだ」
俺は震えながらもハッキリと言う。
(だって……俺が逃げても……)
エスタが言ったように皆殺しに来たならばエスタは死んでしまう。
(それは……嫌だ)
「……震えながらよく言うもんだな。いいから早く――……ちっ」
エスタは急に表情を変え舌打ちをする。
「やけに早いな。もう無理か」
そう言ってエスタは俺をつまみ上げる。
「いいか?もうオマェが逃げる時間もない。逆に逃げてる間に殺される」
エスタは真剣な顔で、話す。
「だからオマェが出来る事は声を出さずに、気配を消すだけだ」
いつもと同じようにしていれば運が良ければ気づかれずに助かるだろう、とエスタは付け加える。
「……いいな?何があっても出てくるな。声を出すな。気配を消せ!」
そう言ってエスタは横の茂みへと俺を投げた。
「ふぎゅ」
ズシャと俺は顔から地面に着地する。
(痛っ……)
涙目になりながらも俺は草影で見つかりにくそうな場所を探す。
(あった!)
その場所へと俺は座り、エスタ達が見えるように草むらを少しだけ分ける。
(エスタ…………)
俺は掻き分けた小さな隙間へと顔を向けた。
「……来たか」
エスタはポツリと呟いた。
「部長、此処で最後ですかね?」
「あぁ。あちらの大臣から聞いた話しではこの集落で最後だ」
全く、何で俺達がこんな事を、とあいつらはエスタ達の存在がまるで無いように話していく。
「ったく……力があるからって仕事を回し過ぎだろ」
「…………力だと?」
力、という単語にエスタの眉が寄せられ不機嫌そうになる。
「ぶーちょ、とりあえず……先にこいつら殺りません?」
エスタ達に気づいたのか先程とは違うやつが部長とやらに聞く。
「…………そうだな。ただし、向こうの要望で一人は残す事だ」
「「「了解」」」
部長、という奴以外が一斉に言った次の瞬間にはあちらこちらに緑の閃光が広がった。
そして緑色が収まったかと思えば周りいた人間はバタリバタリと倒れていった。
「オマェら……魔法使いか!!」
エスタは先程よりも憤怒した真っ赤な顔で叫ぶ。
(魔法……使い)
ならばあれが魔法か?
「死の呪文だ。最も、貴様は向こうからの要望で死の呪文では死なないが。エスタージオ・ニーランド」
部長はそう言って、纏っている薄い緑とは違う薄い青色で円を書いていく。
「貴様には燃やすように言われてる」
最もその前に前座があるがな、と言いながらも円は完成し中に変な模様を書いていく。
「前座?それよりも、何故俺の名を知っている」
エスタは不思議そうな顔をする。
「それ以上は言えないな。向こうからのストップがかかってる」
始めろ、と手を振りながら言う部長の声で奴らは杖を振り下ろしながら一斉に駆け出した。
「っ……何をした」
普段のエスタならヒョイヒョイと避けるなり動くのに今はただ上半身をモゴモゴとしているだけだった。
(…………エスタ?)
「っ……何をしやかった!」
「少し動きを止めただけさ」
逃げられないようにな、と部長は言う。
「魔法陣も完成したし……ちょうど良かったな」
「何が―…」
しかし、エスタが言い終わる前にあいつらはいつの間にか持っていた剣で四方八方から刺した。
「ぐっ……」
エスタはゴポリと血を吐き、周りの地面は赤い血へと染まっていく。
「……ではな、エスタージオ・ニーランド」
そう部長が言った後に書かれていた変な模様は消え、代わりにエスタの足元からゴォォオと炎が現れた。
「ぐ……う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
エスタの、苦しそうな叫び声に俺はビクリと反応をする。
(エスタっ!)
俺は立ち上がろうとし、立ち止まる。
…――何があっても出てくるな。声を出すな。気配を消せ!――…
(エスタは、こう言った)
俺だけでも、生きて欲しくて。
(〜〜〜〜っ)
俺は、涙目になりながらもストンと座る。
「さて……一人だけ残さなくてはいけないんだったな」
残りは殺せ、と言い放たれる。
「「「了解」」」
そしてあいつらは剣を持ったまま、近くにいた奴らを斬っていく。
目の前には見慣れた赤い血が舞い、地面は赤い色で染まっていく。
「うわぁぁぁあ」
そして斬られた時の叫び声が響き渡る。
(エスタは……)
エスタは生きろと言った。ならば俺は気配を、呼吸を殺さなければいけない。
だが俺の思いとは裏腹にカタカタと体は震えていく。
「……これで残り一人、か」
すでに地面は赤黒くなってしまった時に部長が言う。
「お前ら、一人残ったからこれで仕事は終わりだ」
向こうも文句言わないだろう、と部長は疲れた表情で言う。
「よっしゃー!ぶーちょ、今回頑張ったから何か奢ってくれない?」
そう言いながらあいつらはザクザクとこの場所を離れていく。
「俺ん家の箒でいいならやる」
「えー?ぶーちょのところの箒、乗りにくいんだよなぁ」
「貴様……良い度胸だな?」
「わっ……すみません、ぶーちょ」
「大体そのぶーちょってのは止めろ!」
「ぶーちょはぶーちょです」
ギャンギャンと響き渡るくらいな大声で言いながらもあいつは見えないところまで去って行った。
「こんなっ……こんな事を!」
魔法が使えるからって、と生き残っただろう人が言う。
「……許さない。たかがマグルでも、許しはしない」
ザクリと立ち上がる音が聞こえ、やがて殺気を纏いながら去って行く気配が伝わった。
「…………エスタ」
俺はフラフラと、エスタが居た……今はただの黒焦げな何かへと向かう。
そしてその近くでペタリと力無く崩れる。
「魔法使いって……あんな事をするの?」
何も抵抗出来ない俺達に、と震え、涙目になりながらも言い続ける。
「ねぇ……!エスタ、答えてよ!」
もう、生きてない事も分かっている。
だって目の前にある黒焦げな何かはどう見ても人間ではないから。
けれど俺は赤黒い地面へとだらけた手を土を削りながらも握りしめる。
「エスタ…………!」
カラカラになりかけな声で、俺はエスタの名前を呼び続けた。

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