雑食短編
□私とミーハーでホストパロ
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夜中にもかかわらず暗さを感じさせない繁華街。
その一角に、私達は居る。
私達――――クラブ・立海は。
「やあ、お嬢様。今日はどんな逢い引きをご希望かな?」
ナンバー1、ユキ。
人によっては気持ち悪い発言も、彼が紡げば甘い言葉にしかならない。
「すまない。俺は喋るのが苦手なんだ。代わりに貴女の事を聞かせてくれないか?」
ナンバー2、ゲン。
それホストとして致命的じゃね?と思いきやその初な態度が新鮮というよく分からない理由で客を呼び寄せる。
「君が来る確率は80%だった。俺を指名してくれてありがとう」
ナンバー3、レンジ。
何かと確率やら数式に託つけるが、それが知的に見えるらしく、また優しい物腰が人気を博している。
「最近来てくれんくて寂しかったなり。今日は朝まで飲み明かしたいぜよ」
ハル。
妖しい笑みで老若男女(流石に男はないか…)を虜にするものの、本人のやる気があまり無いためランキング外である。
「辛いことがあったんですか?夜は長いですから、付き合いますよ。さあ、飲んで忘れましょう?」
ヒロシ。
紳士的な態度に隠れているがあれやこれやと色々理由をつけて金を搾り取るある意味一番ホストに向いている男。
「俺、あれ飲みてえんだけど。お願い!入れてくんない?」
ブン太。
可愛らしい容姿と図々しい態度が何でか母性本能を擽るらしく、高めの年齢層に人気。
「分かるぜ、その気持ち。無理して高い酒買わなくてもいいぜ?安くても二人で飲めば旨いってもんだろ?」
ジャッカル。
何かとお客さんに同情したりしてあまり売り上げは伸びないものの、その優しさにリピーターが後を絶えない。一番顧客が安定している愛すべき苦労人。
「ねえお姉さん!俺今日ブン太先輩に売り上げ勝ちたいんスよ!だからあれ入れてください!」
アカヤ。
売り上げトップ層の中では最年少ではあるが、己の使いどころを理解しており、率直な物言いにも関わらず客を翻弄させる。
そしてここのオーナーである私だ。
大学卒業後、幼馴染みのユキとゲンを引き連れてオープンしたこのホストクラブは、今や全国のホスト業界でもナンバー1の売り上げを博している。
ホストは沢山居るが、やはり前述した奴等の売り上げの足元にも及ばない。それはそれであんまりよくないんだけどね…。
さて、今月の売り上げは如何だろうか。なんて資料を見ていると、オーナー室の扉が開いた。
「よーっす」
「あー、丸井君。今日はアフター無かったの?」
「おー」
「そう。お疲れさん」
素っ気なく声をかければ、丸井君はおどおどと話しかけてくる。
「…まだ、怒ってんの?」
「…何が」
「俺が、女と問題になったの」
そう。
この下半身ゆるゆる男はすぐに好みの客に手を出す。
お陰でクラブ・立海の評判は駄々下がりだ。最近は東京のクラブ・氷帝やクラブ・青春。それに大阪のクラブ・四天宝寺と売り上げが競っているというのに!
このヤリチンのせいで!
「…こいつ首にできねえかなあ」
「うわああああ!もう本当にすまん!」
枕営業なんかしたらこのクラブの品が下がんだよ。
「こいつ首にすると、売り上げは格段に下がるからのう」
「…仁王」
「そーなんだよなあ…。こんな節操なしもうちの看板ホストなんだよなあ」
入ってきた仁王君の言葉に頷く。
こいつを残す信用性に関わるリスクとこいつ失って顧客の多くを無くすリスクを天秤にかけると、結局こいつを首にできないんだよなあ…。
「仁王君は意外と手出さないよね」
「こういう所に来る女の飢えた目が嫌いなんじゃ」
「あ、それめっちゃわかるッス。なんか目が血走ってて怖いんスよねー」
赤也君も話に入ってくる。いつの間に居たんだこいつら。
「私は嫌いじゃありません
よ。欲望に忠実な姿は見ていて滑稽ですから」
「…柳生君のは違うと思うけど」
あの人怖いんですけど。
「まあ、飢えてない人間はそもそもホストクラブに来ないだろうからな」
「おー、柳。あんたもアフター無しな訳?」
「俺はそもそもアフターはあまりしないからな」
「あんたも女とのスキャンダル聞かないねー」
「俺に隙はない」
「…あ、そ」
それ聞きようによってはバレない程度にちょっとやっちゃってる、って聞こえなくもないけど。
まあ、別にこいつらが女とにゃんにゃんする事自体は駄目じゃないしね。問題にならなきゃ何しても構わないし。
「ジャッカル君は…」
「俺はそういうのはしてないぞ!?」
「うん、いや、まあ知ってるんだけどさ」
ジャッカル君は確かにそういう事はしない。
だけど、たまにお客さんにマジ惚れする。そして、大体その客は嫌な女であるから救いようがない。
可哀想過ぎていっそ許せる。
「真田もねえ」
「…な、なんだ」
「別にぃ?」
こいつもジャッカル君と同類だ。まあ、ジャッカル君ほど惚れやすくはないけど。ナンバー2がそんなんだと下への示しがつかないんだよなあ。
「ま、今月の売り上げトップもやっぱり『ユキ』だったね」
「俺が何?」
「うえっ」
今月の収益を見ながらそう言えばユキ―――もとい私の幼馴染みのゆっきーが私にのし掛かってくる。…いつの間に居たんだ。
「いやあ。ゆっきーは頼りになるなって話」
「当然だろ?」
さいですか。
「一応聞くけど、アフターは?」
「まあ、誘いはあるけどね。断るに決まってるだろう?」
ゆっきーはアフターを絶対に受けない。
一度客がオーナーである私に直接交渉してきた時は、提示してきた金額に「引き受けろよ!」とゆっきーに訴えてしまった。
0の数が半端ない事になってるんですけど!
だけどゆっきーは頑なに首を縦には振らないからその話はおじゃんになった。…勿体無かったなあ。
まあ、ゆっきーの拘りがあるんなら仕方ないけどね。
「ブン太の問題もあるし、今アフターとかしちゃうと逆に不味くない?」
「うちのアフターは健全を志してますけどねえ」
「だって実際問題不健全な奴がいるわけだし」
「俺?俺の事?幸村君」
「ああああ、もう。こういう問題誰が何とかすると思ってる訳?私だよ私。全部オーナーのせいなんだよ」
「ああああああ!もう本当すんません!いい加減許してくれよぃ!」
「いっそ去勢しようかしら」
「ぎゃあああああっ!」
近くに置いてあった鋏を手の中で弄びながらぼそりと言うと、丸井君は股間を押さえて私から5メートルほど遠退いた。冗談だよ。
だけど、ふと周りを見ていたら赤也君や仁王君、真田やジャッカル君までもが股間を押さえて顔を青ざめさせていた。え、何でよ。
柳や柳生君は一見動じていなさそうだが、心なしか内股気味だ。
意味が分からずゆっきーに訊ねると、彼は少し苦笑した。
「それは冗談と分かってても怖いんだよ」
「なんでさ」
「想像するだけで痛い」
「はあ…」
イマイチ分からなくて曖昧に頷くと、サイドから「お前はわかっちょらん!」やら「男の第2の命ッスよ!」だの野次が飛んでくる。
痛いとは聞くがそれほどか。
「はいはい、じゃ、去勢されたくなかったらじゃんじゃん稼ぎなさい!ほら、散った散った!」
そんなこんなで、今日も夜が更けていく。