なにこれ理不尽過ぎるよ。
□どうしてこうなった。
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親友のさっちゃんが暇だと言うので、ババ抜きをしてみた。
さっちゃんが普通にやってもつまらないと言うから、「じゃあ負けた方が罰ゲームね!」という事になった。
まあ、結果を言うならば、私が負けた。
二人でやるババ抜きなんて、ほとんど運なんだから(ババ抜き自体運のゲームだけど)勝つのも負けるのも確率からすれば2分の1の筈なんだ。なのに、10回やって10負けるってどういうことなの。
しかし、負けは負け。腹を括るしかない。
罰ゲームを提示せよ!と私が意気込めば、
「平和島静雄に何か投げてヒットしてこい」
と言ってきた。
………え、さっちゃん。それを達成することは、すなわち私の死を意味するんだが分かってる?…分かってる。そうかい。死ねってか。
平和島静雄と言えば、池袋に住んでいれば大抵の人は知っている、通称『喧嘩人形』。なんでも、自動販売機だの車だの、なんでも持ち上げられるくらいの力持ちらしい。しかもナイフで刺されても30秒で回復。終いには気に入らない人間を食ってしまうとか(最後の方は盛られてる気もするけど)。
「無理だよ、さっちゃん。それは死んじゃう」
「なら、今日の夕飯卵かけご飯ね」
「やります」
「ええー!!」
ちなみに今居る場所は教室。放課後とは言っても教室には数人の生徒が残っていて、会話を聞いていたクラスメイト達が驚いたように叫んだ。盗み聞きとか、止めましょうよ。
――――――――
平和島静雄を見つけるというのは、割りと容易い。
常に人で賑わう池袋の、人通りの少ない所に大体居る。簡単に言えば彼が人から避けられているから、それを目安にしよう、という話だ。
「あ、居た」
いなけりゃ良かったのに、と一人ごちる。そうすれば私は今から実行する自殺行為もしなくて済むし、夜ご飯に卵をかけなくて済む。…卵嫌いなんだよね。
命と卵かけご飯なら、私は迷わず命を投げ出す。ていうか、卵かけご飯食べたらどっちにしろ私は死ぬ。いや、マジで。
ということで、私は平和島静雄に向かって、硬式の野球ボールを振りかぶった。
―――――――
現在私は、たんこぶを一つこさえて涙目で正座していた。
何故かって?…目の前に平和島静雄が居るからだよ。
さっき、野球ボールを投げたら、クリーンヒットした。頭に。
しかし、化け物と呼ばれる彼ならばきっと硬式野球ボールなど蚊が止まった程度だと認識するだろう。そうに違いない。
『いってー!なんだぁ!?』
効いた…だと。
そしてバレた(まあ、街中でグローブ付けて振りかぶったポーズしてるの私だけだったけど)。
そういう経緯を辿り、今に至るわけだが。
非常に怖い。目の前に佇む平和島静雄が。どうしよう、なんか言うべきだろうか。
「…で」
「………はい」
「いきなり俺に野球ボールを投げつけた理由を聞こうか」
「………話すと長くなりますが」
「手短かに話せ」
「………………はい」
この人あかん。人の話聞いてくれない。
仕方がないので私は野球ボールを投げる経緯を一通り話した。手短かに、と言われたので、大分はしょってしまいましたが。
「罰ゲームなぁ。そんなもんの為に、俺に野球ボールを投げつけた訳か…」
「も、申し訳ありませんでした!」
この目はやばい。『最初に被害にあったの俺だし、別に仕返ししてもいいやー!』的な目をしている。自動販売機を投げ返されるかもしれない。そんな事されたら普通の私は普通に死ぬ。あー、やだー。でも卵かけご飯は本当にダメなんだ。
「ていうか、なんでわざわざ野球ボールなんだよ。ただの罰ゲームなら、もっと攻撃力の低いもん投げろよ」
「…いや、まあ、なんとなくなんですけどね」
「ていうか、よく女子の家に野球ボールなんてあったな。兄貴でも居んのか?」
「え、あぁ、それは私のですよ。ちょっと訳ありの物なんですけどね」
「訳あり?」
これは説明するべきなのだろうか。あまりにもプライベートに関わるからあんまり言いたくないんだが。
「…これを買ったのはそう、小学4年生の夏…」
「なんだいきなり」
「私が仄かに思いを寄せていた野球少年のT君の誕生日に、このボールとグローブをプレゼントしようと、おこづかいを使い果たして買い寄せた一品」
「………」
「しかしT君の誕生日当日、学年のマドンナ・Mちゃんも私と同じ考えを持っており、先を越された挙げ句上手くいってしまった」
「………マジか」
「クラスで祝福されている中、プレゼントなんて渡せる訳もなく、家にこれまで封印しておいた、そんな物なんです」
今思えば、苦い初恋だった。まあ、T君とMちゃんはその2ヶ月後くらいに別れちゃったんだけどね。余談だけど。
「目茶苦茶重い過去を持ったボールをなんで投げたし」
「いい加減処分したかったんですよねー」
「知るかっ!」
ああー。私の人生終わったなー。さようなら、皆。さようなら、さっちゃん。さっちゃんに関しては化けて出てやる。
「うえーん。ごめんなさぁぁい!悪気はないんですうぅぅ!い、命だけはご勘弁をおぉぉ!」
とりあえず命乞いをしておこう。足掻くだけ足掻こうじゃないか。
「……ったく、もうやんなよ」
…お?これは脈ありか?
「いや、私もやりたくなかったんですけどね。さっちゃんが行けと」
「お前もうさっちゃんと友達止めろよ…」
なんだか同情するような視線が向けられた。何故だろう。
結局平和島さんとは微妙な空気のまま別れることになった(ボール投げたのは許してくれた)。
…なんか凄いこれからの展開が嫌な予感しかしないんだけど。まあ、明日の事は明日片付けるということで、今日は帰ろう。
後に、嫌な予感は現実になるんだが、今は知らないでおいた方が幸せだ。