なにこれ理不尽過ぎるよ。

□こういう展開は望んでないのに!
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 街でバッタリ平和島さんと出会った。

「あ」

「げ」

 会って早々「げ」って何さ。私が何をしたっていうんだ。…あ、出会い頭にボール投げたわ。

「あははー…。お久しぶりです、平和島さん」

「…ああ」

 …なにこれ気まずい。お互い無視できないから挨拶はしたものの、どうすればいいのか分からない、という状態だ。逃げたい。激しく180度回転からのダッシュしたい。

「静雄ー、飯食いに行くべー、…って、誰だ?その子」

 お互い一歩動けず硬直していると、それを壊すように誰かが平和島さんに声をかけた。

 救い!と思い声の主を見ると、ドレッドヘアーのお兄さんでした。…なん、だと。

「あ、トムさん…。こいつは、その…」

「ボールを通して絆を育んだ仲です」

「なんだぁ?キャッチボールでもしたのか?」

 正確に言うと私しか投げてない上に平和島さんはキャッチしてないから、一方通行なキャッチボールだけど。

「バッテリーか!変な誤解招く言い方すんな!…あー、あれですよ。この間話した」

「ああ、あの野球ボールをお前の後頭部にぶん投げたっつー子か」

 ぎゃー!黒歴史ほじくり返さないでー!

「命知らずも居るもんだと思ったね。いやー、俺もお嬢ちゃんに会ってみたかったんだよ」

「はあ…。私の名前は桂里です」

「桂里ちゃんかー。いいねえ、女子高生」

 何かノリ軽いなこの人。多分悪い人じゃないけど。ただ反応に困る。

「つーかトムさん。早く飯食いに行きましょうよ」

 平和島さんがさりげなく促してくれたので、私は無事に別れることが。

「いやいや。ここで会ったのも何かの縁だべ。俺が奢るから、桂里ちゃんも一緒に食おうぜ」

 できる訳がなかった。

 なんか最近このパターン多くないか。ねえ、私が何をしたっていうのさ。フラグがどこかで立ってたんですか。トムさんあんた気を使ったつもりかもしれないが、平和島さんの顔見てみ、絶望で塗られてるから。





――――――――






 私と平和島さんとトムさん(何故か苗字は平凡)はマックに来ていた。

「マックとか久々です」

「女子高生ってマックよく行くべ」

「俺もそうゆうイメージあるけど」

「友達は行きますよ。ただ私はあんまり行く機会がないというか…、ていうか、さっきからトムさん私のこと女子高生女子高生言いますけど、私まだ中学生ですよ」

 何気なく言うと、トムさんも平和島さんも驚いていた。

「中学3年生です」

「まじかー、女子高生だと思い込んでたわ。悪いな」

「中3って…。今受験の時期じゃねーか」

 お店にあったカレンダーを見ながら平和島さんが慌てて言った。

「まあ、そうですね」

「こんな所で油売ってて平気なんか?」

「大丈夫ですよ。私が受ける高校、別に学力的には問題ないですし、ちゃんと勉強してますから」

 そこはちゃんとね。落ちたら多分さっちゃんからお叱りを受ける。その日が私の最後になる。一応前期で受かるつもりだ。

「何処受けるんだ?」

「来良学園ってところですね」

 知ってるかなあ、と思いながら尋ねると、「あれ?」とトムさんが声をあげた。

「来良っていやあ、静雄先輩じゃねえか?」

「…まあ、一応そうっすね。俺の居たときは名前来神だったんすけど」

「あ、そうなんですか!良い所でしたか?」

「………」

 …あ、あれ?普通の質問だと思ったんだけど。なんで黙りこんじゃったんだろう?触れちゃいけないデリケートゾーンだったの?

「え、あの…、答えたくなかったらいいんですけど」

「あ、いや…、そういうんじゃなくて。俺はあんまり高校時代に良い思い出がねえから、答えようがねえんだよ」

 平和島さんは困ったように頭をかきながら頼んだハンバーガ(L)を貪った。

「なんですか。虐めとかですか?」

「虐めっつーか…。いや、あれはある意味虐めなのかもしれねえけど…」

「?」

 なんだ、このイマイチ要領を得ない感じ。あれか。平和島さんは国語できないタイプか。

「…なんか、ノミ蟲…仲良くない奴がいたんだよ。で、毎日の様に喧嘩してたから、高校を楽しんだ記憶がねえんだ」

「はあ…」

 毎日喧嘩って…。

「平和島さんは不良なんですか?」

「あ?…まあ、善良な一般市民ではねえよ」

「仕事が取り立て屋だしな!」

「えー、それって笑える話なんですか?」

「本人からしたら笑うしかないべ」

 ていうか平和島さんって取り立て屋だったんだなあ。似合うけど。バーテンダーかと思った。服装的に。

「まあ、悪い場所じゃねえよ」

「そうですか。よかった」

 そこで店内の時計を見て、「あ」と思わず声をあげた。

「なんだ」

「もう帰らないと」

「用事でもあんのか?」

「あー…、ご飯作らないといけなくて」

「マック食べたろ」

「いえ、さっちゃんのです」

「またさっちゃんかよ!」

 トムさんはさっちゃんを知らない為、「さっちゃん?」と頭を傾げている。

「さっちゃん短気なんで、お腹空くとすぐ私にコブラツイスト仕掛けてくるんですよ」

「さっちゃん過激だな!」

「前も言ったけど、さっちゃんと友達止めろよ」

 そういうわけにも。まあ、とにかく帰ろう。

「じゃあトムさん、御馳走様です」

「おう、気を付けろよ」

「はい、平和島さんもさよなら」

「ああ」

 私は二人に手を振ってその場を去った。





―――――――――





 マックを出て暫くして、電話がかかってきた。

「はーい」

『俺俺ー』

「俺俺詐欺は他をあたって下さい」

『ごめんごめん。俺だよ、臨也』

「なんですか臨也さん」

 私はため息をついて答える。

『今日一緒にご飯食べない?』

「あー…、すみません。今日は食べてきちゃったんですよ。さっちゃんのご飯も作らないとですし」

 臨也さんとは、『硫酸ぶっかけ事件(私命名)』以来、よく連絡を取り合うようになった。ていうか、相手から一方的にくる連絡に答えるだけなんだけど。でも、何回かご飯食べに行ったし、映画とかも観に行ったから、大分新密度は高くなった気がする。…まあ、臨也さんの事だから、なんか企んでるんだろうけど。

「…君が外食?珍しいね」

 臨也さんが訝しげに尋ねてくるのに、私は「ああ」と答える。

「ちょっと知り合いに会いまして、誘われたんですよ」

「…知り合い、ね」

 ふーん、と納得いかない様な返事をする臨也さんに「どうかしましたか?」と尋ねる。

「いや?残念。じゃあ、また次の機会を期待するさ」

「ああ、すみません」

「はは、気にしなくていいよ。さっちゃんによろしく」

 …よくわからない人だなあ。

 私は、池袋の街の端で、ひっそりと首を傾げた。

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