なにこれ理不尽過ぎるよ。

□白衣に潜む変態…的な?
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 白衣の男を見て連想するのは、やはり医者だろう。大多数が、そういった思考に至るんだろうと思う。

 だからこそ、これはフラグであると、私は思うわけだ。皆が医者だろうと思う格好をしているこの男が、実は全く別の職業で「な、なんだってー!」という漫画特有の現象の起こる為の布石だ。そうに違いない。

「つまり貴方は、人体実験とか怪しい研究で成果を上げている研究員ですね」

「いや、医者だけど」

 あ、普通に医者かよ。超つまらん。

 最近バーテン服着た取り立て屋さんとか、いつも同じパーカー来た情報屋さんとか、首が無い運び屋さんとか、なんだか現実味の無いような職業の人達ばっかり周りに居るから、なんとなくこの人もそんな感じなのかな、と思ったが…。まあ、現実と漫画は違うし、今までが偶然変な人とのエンカウント率が高かっただけかもしれないしね。

「まあ、強ち嘘でもない上闇医者なんだけど」

「やっぱりこのパターンか」

 なんとなく分かっていたんだけどね。…別に期待なんかしてないよ。大体いつもこんなんだよ私。

 渡された名刺を見やる。

「で、えーと、アララさん?」

「新羅ね」

「新羅さん。何か用ですか」

 そう。何故急に私が闇医者なんていう如何にも胡散臭い人種とこうして喫茶店で珈琲啜りながら向かい合っているかというと。

『あ、ちょっと君!』

『…?あ、人違いです』

『まだ何も言ってないのに!?そうじゃなくて、今ちょっと時間ある?』

『…えーと、怪しい勧誘?』

『ストレートな上に何で一番浮かびそうなナンパっていう発想がないの!?』

『ナンパなんですか?』

『違うけどね』

 …というやり取りの後、まあ何か胡散臭いけどいいかな、なんて思い近くの喫茶店に入り、今に至るわけだ。

 シホにナンパするなんてB専(不細工専門)かオラウータン位でしょ、と親友のさっちゃんに言われた事がある。泣いた。

「うん、まあ簡潔に言うとさ、君この間私の家に来たよね」

 …………。

「無いですよ」

「キッパリ言うね」

 いやいやいや、マジで何言ってるのか分からん。

「やっぱり人違いじゃないですか?私は貴方の愛する奈緒子じゃないですよ」

「いや、別に僕奈緒子愛してないよ!?ていうか奈緒子って誰!?」

 一体この人は何の話をしているんだろう。あれか、私と瓜二つの人間がこの人と親しいとかなのか。ドッペルゲンガーって確か会うと死ぬんだよね。大丈夫かな私。

「顔隠せば何とかなりますかね」

「うん、何の話かな」

「え、何の話でしたっけ」

「だから、俺の家に来たよね、って話」

 どうでもいいけどなんでこの人一人称いちいち違うんだろう。統一しろよ分かりにくい。

「私達初対面ですよね」

「うん」

 よかった。私のドッペルゲンガーさんとご対面はしていない様だ。人違い、でもなさそう。

「…別に盗みとか、私しませんし」

「そもそも疑ってもないしね」

 じゃあなんなんだ。

「僕の同居人が、世話になったみたいだね」

 …同居人。最近行った家。

「ああ、セルティさんの家の方ですか」

 私がそう言うと、新羅さんは驚いた表情を見せた。

「え、セルティの名前知ってるのかい?」

「?ええ、友達ですからね」

 私がよく分からないまま頷けば、新羅さんが何か困った様に「えーと」と言葉を濁した。

「あの、それじゃあ、…セルティのヘルメットの下って」

「ああ、無いってことですか?」

 無論知っていますと言えば新羅さんはまた驚いた表情を見せた。

 それにしても、と思う。

 セルティさんは同居人の事をしきりに「変態だ」だの「いつも怪しい事をしている」だとか言っていたからどんなキモオタなんだろうか、と思っていたんだが、中々どうしてイケメンではないか。

 私の中で一番イケメンはやっぱ臨也さんだ。あの人は凄く綺麗だ。外見は。

 二番目は、…まあ、平和島さんかなあ。あの人、怪力だし短気だけど、顔は良い。中々私的にも好みだ。

 彼はまあ、三番目位なんじゃないだろうか。クラスに居たら格好良いとか囁かれた事だろう。ただ、まあ私好みじゃないけど。

 セルティさんも性格可愛いし、スタイルもいい。中々どうしてお似合いじゃないか。片方人外だけどね。

「どこまで聞いたの?」

「どこまでって言われても。セルティさんが黒バイクで、本当はどっかの妖精さんだって事くらいですね」

 あとはまあ、…ノロケみたいなのかな。

 どうやらセルティさんは新羅さんの事好きみたいで。『あいつはいつも好きだの言って抱き締めてくる!』なんて言いながら何だかんだ嬉しそうだ。この間家に行ったら結局最初にちょっとセルティさんについて聞いた後はずっと同居人への文句(という名のノロケ)を聞いていた。

 そこまできて、私は前から気になっていた事を訊ねる。

「新羅さんとセルティさんって付き合ってるんですか?」

 そう言うと、急に目の前の新羅さんの雰囲気が変わって、「あれ、地雷踏んだ?」とか思いながらちょっと身構える。

「そう思うかい!?」

「え、あ、まあ、同居してるみたいですし」

「同居!?否!我々がしているのは同棲!間違えないで頂きたい!」

「(セルティさんから同居って聞いたんだけど)はあ、すみません」

「まあ、君の着眼点は非常によろしい!名前、なんだっけ?」

「桂里です」

「桂里ちゃん!非常にいい!そう!セルティと僕は正に愛に向かって逃避行中なんだ!」

「………はあ」

 どうやらまだ恋人ではないみたいだ。

 ただ、反応から見るに相思相愛ではあるらしい。

「まあ、セルティさんは可愛いし、優しい人ですからね」

 照れ屋で親切なナイスバディなお姉さんなんて惚れるしかないよね。

 なんて軽い気持ちで言ってみたら新羅さんに肩をガシッ、と捕まれた。思わずビクッと身体を縮こめる。

「そう!分かってくれるかい桂里ちゃん!」

 それから新羅さんは、セルティさんがいかに素敵であるか、というのを永遠と語り、颯爽と去っていった。

 …セルティさんとお似合いだよ、本当。

 喫茶店を出て、私は我慢していた溜め息を漸く吐けた。

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