なにこれ理不尽過ぎるよ。

□そんなフラグは立てたくない 前編
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 まあさ、あれだよ。

 彼がトラブルメーカーである事なんて分かりきってたよ。池袋の人間にとって、それは謂わば一般教養だ。明らかに厄介事いつもストックしてますよ☆なオーラ出してるし。

 最近彼とそれなりに仲良かった私は、それを他の人よりも理解している筈だった。いや、実際理解していたんだ。

 ただ、それなりに仲良くなっちゃうと、警戒心もそれなりになってしまうというかなんていうか。

 まあつまり、油断してたんですよ。

「あ」

「あれ、桂里ちゃんじゃないか」

「お久しぶりですね、臨也さん」

 臨也さんはなんていうか、友達なのか微妙なラインだ。

 ある事件以来、私はどうやら気に入られた様で(未だに何で気に入られたのかは謎だけど)、週に2、3回くらい彼からメールとか電話がくる。

 最初怖くてメアド変えたりしたんだけど、次の日には新しいメアドに普通にメールされたりして、逆に怖かったからそれ以来メアドは変えていない。

 臨也さんは情報屋という中々厨2臭い仕事をしているらしいんだけど、案外忙しいらしい。

 何度かご飯食べたり出掛けたりしたけど、ここ2週間はほぼ音沙汰無しで、ああ、いい加減私に飽きたのかな?と思っていた。そんなタイミングで今会ったわけだ。

「暇ならお茶でもどうかな」

「…あー…」

「あれ?なんか都合悪いの?」

「いや、暇なんですけど。敢えて言うなら私が特に臨也さんと話したいと思ってないって事ですかね」

「相変わらず君辛辣だよね」

 まあ、結局別に断る理由もなく、私達は近くの喫茶店に入った。

「最近お忙しいんですか?」

「まあねえ。ちょっと厄介事に巻き込まれちゃって」

「厄介事、ですか」

「ま、大したことじゃないけどね。あ、もしかして寂しかった?」

「いや、別に」

「冷たいなあ」

 だって別にメールとかあんまり好きじゃないから、来ない方が楽なんだもんよ。

「ちなみに、厄介事って何なんですか?」

「気になる?」

「興味本意ですね。差し支えなければですけど」

「うーんとね、俺が…」

 臨也さんの言葉を遮る様に、ガシャーン!という音が喫茶店に響き渡った。

「へ!?」

 音の方へ振り向くと、一面硝子になっていて外の景色も楽しめる様になっていた窓硝子が、粉々に粉砕されていた。

「…え」

 そしてそこから平然と入ってきた男。多分、ていうかどう見てもこの人が壊したんだろうけど。

「平和島さん…?」

 まさかの知り合いという。

「いぃーざぁーやぁーくぅん?」

「何?シズちゃん、そんなに怒鳴って」

「テメェ、知らねえとは言わせねえぞ」

「なんだろ。あ、もしかして君の取り立てる相手が『謎の自殺』をしちゃった事?」

「っ、テメェ!」

 平和島さんは電信柱をおもむろに抜き、臨也さんの方に投げた。

 …あれ、臨也さんの方って…。

「って、私の方じゃねえかああああああ!」

 間一髪で逃げる。さっきまで私が座っていた席を見ると、見るも無惨な事になっていて、下手したら今頃私も…と考えてゾッとした。

 ていうか完全に平和島さん臨也さんしか見えてないな。

「テメェよくも…」

「免罪だよ!自殺だよ?俺が殺したわけないじゃん!」

「アイツがテメェとちょくちょく会ってた事は知ってた。アイツは借金を返せたんだ。自殺する理由はねえ。つー事は、テメェがやった以外に理由はねえんだよ!」

「あは!出たよその短絡的思考回路。何でそれで『俺が犯人』になっちゃうかなあ」

 …えーと。

 全く話についていけてないけど、つまりこういうことか。

 平和島さんの取り立ててた人(Aさんとしよう)が自殺して、でも特に自殺する動機もない。一方、偶然臨也さんはそのAさんと知り合いだった。平和島さんの見解だと、Aさんは臨也さんが原因で自殺したんじゃないかと、そういう事か。

 …いや、さすがにぶっ飛びすぎじゃないですか、平和島さん。

 確かに噂からしても、臨也さんってそういう事平然としそうだけど、臨也さんの知り合いが死ぬと臨也さんが犯人みたいな考えじゃん、それ。

 それとも、確固たる確信でもあるんだろうか。

「ま、そうなんだけどね」

 …マジか。

「っ!」

「ってぎゃああああああ!平和島さん!私も居るから!臨也さんが死ぬともれなく一緒に死ねる位置に私居るから!」

 臨也さんと心中なんて絶対に嫌だ。

 果たして彼が私の存在を覚えているか否かというのは激しく疑問ではあるが、とりあえずもう覚えてなくてもいいよ、この際。平和島さんが私という名の巻き込まれたただの一般市民の存在に気づいてさえくれれば。

 …そもそも私が臨也さんから離れれば済むんじゃないのかって?ははは、そりゃ出来たらそうするよ?…さっきから臨也さんがずっと私の腕放さねえんだよおおお!ちきしょおおお、この確信犯が!地獄に堕ちろ!

「あ?…あれ、お前」

 …あー、あの反応は私の事覚えてるやつだね。いっそ忘れてた方がお互いの今後の為にも良かった気がするけど、まあ、いいんじゃないだろうか。この際。

「お久しぶりですね、桂里です」

「ああ、いや…。なんでテメェが此処にいるんだ」

「私の隣にいる胡散臭い人に拉致されました」

「酷いなあ。奢りだからって一番高いデザート頼んだくせに」

 いやいや、あれくらい無いと割りに合わない。

「テメェ、なんでノミ蟲と知り合いなんだ」

 ノミ蟲?…えーと。このタイミングで言うノミ蟲っていうのはつまり…。

「臨也さん、哺乳類じゃなかったんですか」

「うん、どう見ても同じ生態だよね、俺達」

「いや、やっぱ偏見ってよくないし、…ね?」

「ね?じゃないから。そんな所に気を使わなくていいから」

 彼が私と同じ生態、つまりホモサピエンスであるということはつまるところあれか。ノミ蟲っていうのは彼の愛称、ニックネームという訳か。…おおふ。

「なんていうか、悪意を仄めかすニックネームを持ってますよね、臨也さん」

「仄めかすっていうか悪意しかないけどね。ノミ蟲という呼び方に愛称なんて言葉は微塵も似合わないしね」

 噂通り、やはり二人は仲悪いのか。お二人は顔を合わせればバトルを勃発させるなんていう仁義なき関係であるというのはどうやら事実の様だ。

「とりあえず、お二人が仲が悪いことは理解しました」

「それは良かった」

「で、今の状態が非常に危険であるということも理解しました」

「うん、物分かりが良くて助かるよ」

 いやあ、分かりたくなかったけどね。

 ただ、目の前に自動販売機を掲げ、今此方に投げいらんとばかりの形相だ。非常にまずい。臨也さんはともかく私は死ぬ。

「ちゅー事で逃げましょう」

「え?」

 私は臨也さんが私の腕を掴んでる手をもう片方の手で掴み、そのまま走り出した。  

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