私と貴方の恋愛事情

□これは悲劇か、それとも茶番か
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 私には、半年前から付き合っている彼氏さんが居る。中身や容姿が共に平凡代表と言っても過言じゃ無いレベルで地味な私に彼氏が出来るなんて、正しく青天の霹靂だ。あれ?使い方合ってるっけ。まあいいや。大切なのはニュアンスだよね?

 で、その彼氏が中村君っていうんだけど、これが結構格好いいんですよ。凡人代表という称号を持つ私には過ぎた人であるが、これが現実である。

 しかも中村君は見た目もイケメンだけど中身もイケメンだ。

 優しくて気配りも得意。周りからの評価もとっても高い。

 そんな彼は勿論女の子にモテて、ぶっちゃけ私もその女の子達の一人だったんだけど…。

 私の友達に中村君と仲の良い友達と仲が良い(ややこしいな)子がいて、その子と彼の友人が協力してくれていきなり私は中村君と急接近。なんやかんやお互い意識とかし合って、そして半年前に告白をされた。

 夢かと思ったけど夢じゃなかった。頭の中にはジブリの某作品で畑の前で騒いでいる少女達が駆け回っていたが、それどころじゃありませんでした。

 勿論私は即答でオッケー。こうして付き合い始めて、まあ自分で言うのもなんだけど、凄く上手くいっていた。

 そんな彼が、今日大切な話があると私を呼び出した。

 学校の中庭に呼ばれ、彼を待ちながら、そういえば此処で告白されたんだよね、なんて考えて一人で顔を赤くした。なにやってんだ私。

 そんな馬鹿をしていたら呼び出した本人が登場。先生に呼び出されてたんだ、と謝る彼に特に気にしていないと笑う。

 そうすると、彼は少し間を空けて真剣な顔で私を見つめたから、私も真剣な表情になる。

「…俺、ずっと遊佐に言わなかった事がある」

「…うん」

「…お、俺」

 Mなんだ…、と彼は消える様な細い声で言った。

 ………ん?

「え?あの…」

「だ、だから、俺、Mなんだよ、昔から」

 M。エム。えむ。

 いや、正直Mって言われると1つしか思い浮かばないんだけど。

 …服のサイズ?いや彼はどう見てもLLはいくだろう。でかいもん。ならなんだ。俺ミッドフィルダーなんだ、とかそういうの?うん、君がサッカー部でその位置を任されてるのは知ってるよ?…いや、これも違うか。

 となると、…一番最初に思い浮かんで即効後回しにした、…あれか。

「…ちなみにMっていうのは…」

「…マゾヒストって事かな」

 彼が照れた様に頬を染める。…いやいやいや、困る困る!反応に困る!何そのカミングアウト!

「えっと…」

「出来れば、遊佐には、その…対を担って欲しいっていうか」

 …対って。つまりMの反対になれと。Mの反対… 。

「わ、私に、Sになれっていうの…?」

「…いや、最悪受け入れてくれればいいんだ。…で、出来れば、たまに罵って欲しいんだけど」

 なんてこったい。

 付き合って半年。まさかの衝撃的な告白だ。まさか彼にそんな性癖があるなんて…。

 彼の事は素敵で、Mだとしても好きだって思うけど…。

「だ、駄目だよ、私…」

 そう言うと彼は目を見開き、悲しそうに此方を見つめる。

「ど、どうして…!君にSになって欲しいなんて高望みはしない!傍に居て欲しいんだ!」

「私は…」

 彼の顔が見れず、顔を俯かせる。

「私も、…私もMなの!」

「…!そ、そんな…」

 言って、初めて私は自身の性癖を自覚した。

 今まではちょっと弄られキャラだよなあ私って、位にしか思ってなかったけど、私はそれが内心嬉しかったのかもしれない。少なくとも、嫌な気分では無かった。

 二人の間に沈黙が走る。…こんな悲劇があっていいのだろうか。お互い好きなのに、相容れない性癖。

「…ごめんなさい。私には無理だよ」

「そっか…」

「っ…さよならっ!」

 私はそこから走り去った。そうする事しか出来なかった。

 こうして、私の初めての恋人と終わりを迎えた。

 この出来事が、後の私にどう影響するかなんて、この時の私は想像も出来なかった。

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