私と貴方の恋愛事情
□人を愛するのに理由なんていらない
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尻軽と呼ばれるかもしれない。…いや、私は処女なんだけどさ。
彼氏と別れて1週間で、私は新しい恋に目覚めてしまった。
「みっちゃん!どうしよう!」
「…まあ、とりあえず尻軽とかじゃないんじゃない?身体の関係は無かったんだし」
「違うよ!心変わりが早いって意味で使ったんだよ!ていうか今言ってるのはそこじゃなくて!」
「なによ」
「…そ、その、なんていうか、恋の、…相談、みたいな…?」
恥じらいながらみっちゃんにそう打ち明けると、みっちゃんはなんとも言えない顔をした後、色々を含んだのであろう溜め息を吐き出した。
「あんたって…」
「そ、そりゃあ私もね?早いなあとは思うよ。でも、でもさ。好きになっちゃったんだよ…!」
「あのねえ…!そういう事言ってんじゃないの!あんた何でそう、恋多き女なの!?」
「え」
いやいや、それは心外だ。流石にそこまで尻軽じゃない。今の所私は人生で恋した男は中村くんと王子様(仮)だけだ。そういえばボーイフレンド(仮)って携帯アプリあるけど面白いのかな。
「そうじゃなくて…。なんていうの?劇的なっていうか、古典的な恋の落ち方が多いって意味」
「古典的な…?」
「その王子様と、曲がり角でぶつかって好きになったんでしょ?」
「まあ、なんか言い方に若干納得いかないけど、大体そんな感じ」
なんかそれだと私は曲がり角でぶつかった男性皆見境なく好きになっているみたいじゃないか。なんだそれビッチじゃねーか。
「あんた中村くんの時もそんなんだったじゃん」
「全然違うよ!」
「違わない。いや、シチュエーションは確かに違うけど」
みっちゃんははあ、とまた溜め息を吐いた。「幸せが逃げちゃうぞ☆」と言ったら英和辞典で殴られた。くっ、この現代で電子辞書でなく敢えて紙製を使う輩がまだ存在しているなんて…。武器にカウントしてもいいレベルの殺傷能力だった。痛い。
「子犬を雨の中拾い上げて優しくしてたとこ見て好きになったんだっけ」
「超素敵だった…!自分も濡れてるのに犬に傘を差し出して『俺んちじゃ飼えねえんだ…』って儚げに去っていくあの後ろ姿!」
「いやいやいや、ベタすぎるだろ!何世代前の少女漫画だよ!」
展開がベタすぎて逆にレアだよ…、と呟くみっちゃんに私は目下の悩みを告げる。
「それで相談なんだけどさ」
「あ、スルーなんだ。まあいいけど。何?」
「王子様(仮)の名前が分からないの」
「…はあ!?」
みっちゃんは数秒の間を開けて大声をあげた。ああ、教室中から視線が集まってるよ。何この羞恥プレイ。
「みっちゃん、しー!」
「これが静かにいられるか!何、あんたさっきから王子様(仮)って呼んでるのって、そいつの名前分かんないからなの!?」
「う、うん…」
そりゃ私だって名前が分かってたら王子様(仮)なんて呼ばないよ。なんだよ(仮)って。
「クラスは!?」
「廊下で会ったんだよ?分かるわけないじゃん」
「なんで偉そうなのよ!…ああ、もういい。容姿は?特徴とかある?」
みっちゃんが諦めた様に少し大人しくなった。いい傾向だ。で、容姿とな。
「イケメンだった!」
「それくらい分かるわっ!あんたが一目惚れするなんてそれしかないでしょうが、この面食い!」
「面食いって面(つら)を食べるって書くんだよね。なんとなくグロテスクなイメージを抱くのは私だけかな」
「知らないわよ!死ぬほどどうでもいいわ!」
まあ中村くんは格好良かったし、私を面食いと称するみっちゃんもあながち間違いでもないのかな。ただ、尻軽で面食いとかどこのビッチだよ私。
「で、他に何かないわけ?」
「何が?」
「王子様(仮)の容姿よっ!」
「血圧上がっちゃうよ」
「誰のせいだっ!」
え、私のせいなの?
「で、王子様(仮)の容姿ね。…えっとね、髪の毛は肩くらいまであったかな」
「ロン毛?とまではいかないか…。どっちにしろ私の趣味じゃないわね」
いや、知らんよそんなの。
「あと、なんか黒っていうよりは藍色?っぽい髪の色で、ウェーブかかってた」
「…うん、続けて?」
「え?うん。あとは、なんか見た目儚げなのに結構がっしりしてたから、運動部じゃないかなあ」
「へえ…」
「あとは別に…、って、どうしたのみっちゃん」
一通り特徴を言い終えてみっちゃんを見れば、何故か疲れた様子を見せるみっちゃん。なんでやねん。
「遊佐…」
「うん?」
「諦めなさい」
「なんで!?」
どうしてそうなった。意味が分からないよ。そこのところ詳しく。
「あんた、そいつは駄目よ。相手が悪すぎる」
「知ってるの!?」
これまた吃驚。なんとみっちゃんは相手が分かっちゃったみたい。知り合い?はたまた有名人?
「それ、テニス部の幸村精市よ」
みっちゃんは『あんた』って呼ぶから名前変換意味ない…。