私と親友。
□3話
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それなりに仁王と丸井と仲良くなり、クラスにも馴染めた所で一日目は幕を降ろした。
それにしても、ああ、愛美は一体何処なんだろう。結局探しても一度も会えなかった。あの子は、私が居ないと何も出来ない。常々なんとかならないかとは思案してはいたが、こんな初めての環境で彼女が普通に溶け込める筈がない。何故かって、今まで引きこもって、ろくに人と話さなかったんだから。ああ、心配だ。そういえば仁王達とは接触してないのだろうか。明日尋ねてみよう。
それにしても。
「疲れた…」
ベッドに潜りながらぼやく。
別に、悪いことはしてない。だけど、人に媚を売っている様で、気分が悪い。
前の世界では、違ったから。
私は、男子にだって大人にだって、いつも強気に、誇り高く、生きていた。
けど、構わない。
もう一度、皆に会えるなら、私の誇りなんて、どうでもいいんだ。
「明日は、どうするか」
しばらくは仁王と丸井に接触し、親密になり、それとなく情報を引き出そうか。
しかし、彼等だけでは足りない。他にもレギュラー何人かと親密になり、人脈を広げるべきだ。クラスメイト達からも、信頼を得たい。
ああ、それにしても疲れた。頭がボーッとする。
「お母さん、お父さん…」
『お帰り、霙。今日は学校楽しいことあった?』
『ただいま、霙。明日は休みだからどっか行くか』
「お兄ちゃん…」
『なあ霙、今日はゲームでもして夜更かししよーぜ』
「皆…」
『ねえ、霙。何してるの?』
『今日は何して遊ぶ?』
『お前面白いよなー』
『私、霙の事大好き!』
「…中村君」
『水無月、今日は何を描いたんだ?』
「っ…!」
涙がこぼれ落ちそうになるのを、必死に堪える。ああ、泣かないと、決めたばかりじゃないか。
でも、気持ちが込み上げる。
中村君は、高校で同じクラスになった。
かっこよくてクールで、でも最初は全然興味なんてなかった。
でも、ある時彼は美術室で絵を描いてる私に話しかけてきた。
『綺麗だな』
私の絵を、綺麗と呼んだ。
『俺は、この絵好きだよ』
私の絵を、好きと言ってくれた。
美術部でもない私の絵は、誰も興味を持たない。というより、私の絵は理解されない。専門家には、うけが悪いらしい。
昔から、絵が好きだった。だから、描き続けたけど、評価されない絵を描き続けるのは、限界だと、褒められない絵を描くのは辛いと、感じていた時だった。
そんな時、彼は私の絵を綺麗だと、好きだと言ってくれた。
ただのお世辞かもしれない。
ただの社交辞令かもしれない。
でも、私が彼を好きになるには十分過ぎるきっかけだった。
彼に、救われたんだ。
『霙の絵は独特だよな』
あれから、彼は度々私の絵を見にきた。
彼はクールと周りからは言われていたけど、私の絵についてはよく話してくれた。
そのたびに色々な意見をくれて、嬉しかった。
『そ、そうかしら』
『ああ、なんか面白いよ。俺は絵とかはあんまり詳しくないけど。たまにテレビとかで美術品とか見るかな。なんだっけ、バッハ?』
『ふふ、バッハは音楽家よ。ゴッホの事かしら?』
『あー、それそれ。あれとか上手いな、って思うけど、俺は水無月の絵の方が、見ていて楽しいって思うよ』
彼は、毎回来るたびに私の喜ぶ事を言ってくれて、私はますます夢中になった。
無理かもしれないけど、告白したい、と思った。
そう考えていた矢先に、私はこの世界に来た。来てしまった。
告白したい。出来るならば、彼と付き合って、手を繋いで、デートをしたい。絵以外についても、話してみたい。
「中村君」
私は、改めて元の世界に戻る気持ちを確かにした。