私と親友。


□9話
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 幸村の出してきた条件は、簡単に思えて、その実最も愛美には困難なものだった。

「本庄愛美でえす。愛美って呼んでねえ?」

 いくら絶世の美女でも、やはり人間内面は大切だ。男という生き物は、どうやら外見だけで判断するわけでもないようだ。

 まあ、当然ながらテニス部一同ドン引きだ。

「幸村君!どういう事だよぃ!」

「これは少々異論があるのですが…」

 予想通り、レギュラーメンバーからの異論が飛んだ。まあ、今まで言い寄ってきていた女をそう簡単に受け入れる事は出来ないだろう。

 愛美は勘違いして、「やだあ、ブン太に比呂士ったらそんなに嬉しいのお?」なんて言う始末だ。あの子のおめでたい頭には脱帽せざるを得ない。

「ブン太、柳生。それに他にもきっと異論はある人は居ると思う」

 部員の不満な態度を前にしても、幸村はあくまで凛とした態度を崩す事はなかった。

「正確に言えば、彼女はまだマネージャーじゃないんだ」

「?…どういう」

「水無月さんがね、彼女を凄く推薦したんだ。だけどお前達にも不満はあるだろうからね。仮マネージャーという形で手を打ったんだ」

「ちなみに、仮マネージャーというのは具体的にどの様なものなのでしょうか」

 一瞬幸村から出た私の名前に反応して、皆が私の方を向いたけど、柳生の言葉で意識は逸れた。

「まあ、簡単に言ってしまえばまだ彼女はマネージャーじゃないんだ。彼女の仕事ぶりによって、マネージャーにするかどうかは決めようと思う」

 幸村が「ごめんね」と苦笑しながら溢すと、不平不満を漏らす人は消えた。

 …流石、幸村の人望と言った所なんだろう。

「本庄さんはマネージャーの仕事がよく分からないと思うから、水無月さんに色々と聞いてね」

「え〜。精市は教えてくれないのぉ?」

「ああ、俺は部長としての仕事があるからね。水無月さん、頼んだよ」

「ええ、勿論」

 愛美、行こう。と言って私は愛美を引っ張り部室に向かった。

「愛美、今からマネージャーの仕事を教えるから、ちゃんと覚えるのよ?」

「え?愛美は応援すれば皆の力になれるよぉ?」

「…はあ」

 妄想癖もここまで来れば感心してしまう。愛美の読んでいたという夢小説とやらもこんな女達が主人公だったというのだろうか。だとしたら、それこそ夢物語だ。こんな性格の女を好きになる奴はそうそう居ないだろう。…先を思いやり、ため息をつく。

「いい?愛美。あんたが言う逆ハーはあんたの努力次第なのよ?」

「努力?…愛美がぁ?」

「ええ、そう。だから、ちゃんとマネージャーの仕事をするの。そうしたら、皆に認めて貰えるから」

「認めて貰えるってなによう。愛美は…」

「…よりモテるってことよ。とにかく、裏の周りから見えない仕事は私がやるわ。だから、見える仕事はあんたがやりなさい」

「えええ」

「…愛美、私があなたに嘘を言ったことがある?」

「…無いけど」

「分かってるなら信じなさい。大丈夫。私が絶対にあなたの夢を叶えるから」

 だから頑張りましょ?と言えば、少しの間のあと愛美は頷いた。

 愛美の夢を叶えるから。私が元の世界に帰るために。

 献身的な言葉の裏に隠した自分勝手な傲慢な本心に、私は一人自嘲した。

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