私と親友。


□13話
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 夢を見た。

 私の大好きな人達の夢だ。

 お母さん、お父さん、お兄ちゃん、友人。それに…。

「中村君…」

 彼は少し鋭い目を柔らかく細め、私に向かって微笑んでいた。

『水無月』

 私の好きな、声。笑顔。

『悲しそうだな』

「…私は、間違えてしまったから」

『間違い?』

 彼の問いに、私は頷く。

 誰でもいい。とにかく懺悔をしたいと思った。

「愛美を、私の都合でめちゃくちゃにしてしまったの。それをある人に指摘されて、…何も言えなかった」

 事実だったから。知っていたから。

『…今からじゃ駄目なのか』

「え」

『いや、よく知らないけど。いいじゃん、今から謝って、やり直せば』

 そりゃ、そうできるならそうしたい。

 今更都合がいいけど、愛美はやっぱり私にとって親友だから。大切だから。

「…やり直せないかなあ」

 泣く権利なんて無いことくらい分かってるけど。自分勝手だけど。

 今度は、あの子を純粋に助けたい。駄目な事は駄目だと叱りたい。…何の見返りもなくていいから、優しくしたい。

『水無月は、自分を悪く言うけど、そんな事ないだろ』

「…?」

『お前にとっては自分の為でも、本庄にとってお前のした事は役に立つ事だったんだろうし。これからあいつの為にやるって事なら、それでいいんじゃないか』

 許されると、言うんだろうか。私の、過ちが。

「…許されるのかなあ」

『…俺は本庄と会ったことが無い。だから俺にとって本庄は、水無月の話の中だけの存在だ』

 だから、俺は本庄がどうするかなんて分からない。と、淡々と続ける。

 その通りで、中村君に聞くこと事態が可笑しいんだと自分の醜態を恥じた。

『ただ』

 中村君は先程と変わらない様子で、やはり淡々と続ける。

『水無月の話を聞いてて、俺は本庄に悪いイメージを持った事は無かった』

「…そんなの」

『水無月は自分を良く見せるために本庄を悪く見せようとしたんだろう?それが自分の罪だって言ってたし』

 果たして私は中村君に言っただろうか。

 私はその懺悔を、別の人にした様な気がした。

 誰だっただろうか。

『水無月が本当にただ打算的にしか生きていないなら、俺は本庄に嫌なイメージを持っている筈なんだ』

「………」

『水無月はさ、優しいよ。あと、大袈裟だ』

「大袈裟って…」

『そんな事を罪とか過ちとか、気にしすぎだ』

「だって…!」

 紛れもない事実だ。私が愛美に今までやってきた事は、一生をもってしてもつぐない切れない罪だ。

『人は打算的な生き物だよ。他人に良いことをする奴は、大体その対価としての見返りを求める』

「見返り…」

『ああ。別に物を寄越せとかじゃなくても、ただ自分の満足の為とか、そういう事もある』

「!」

『…水無月の、他人に誉められたい、って気持ちは、皆あるもんだ。誇れる事じゃないかもしれないけど、別段恥じる事でもないんじゃないか?』

「私は…」

 一つの結論が私の頭を過った時、目の前の中村君が急に泡の様に消え始めた。

「あっ…!」

『…時間切れか。まあ、異世界の人間が干渉するのはこれが限界って事かな』

「………?」

 焦る私とは対照的に、特に動じずいつも通りのクールな彼は(今日はいつもより大分饒舌だったけど)、自分の身体を見ながら淡々と私にはよく分からない事を呟く。

『神だっけ。本当ケチな奴。まあ、所詮俺も人間だし、仕方ないか』

「中村君…?」

『…ああ、水無月は心配しないでいいよ。本庄との事、頑張りなよ』

「!待ってっ…!」

 そう言った彼はもう殆んど実体が無くて、私は無我夢中でまだ実体が残っている右手に縋りついた。

「私っ、私、中村君が…!」

 きっと、今私の前に居るのは私が作り出した幻想なんだろう。夢っていうものは、往々にしてそういうものだから。

 でも、それでもいいから、言いたかった。

 滅多に変わらない中村君の表情が、優しげな笑みになった。

『…今度、直接聞かせて』







 目が覚めたら、最近ではもう見慣れた天井が視界に映った。だけど、それは酷くぼやけていて、私は勝手に流れる涙を止めるために手で抑えた。

「…好きだよ」

 寝起きで掠れた声は、誰の耳にも届くことなく空気に溶けた。

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