私とミーハーの仁義なき戦い

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 跡部君と軽くときメモっぽい空気になって暫くが経った。

 作ったドリンクを専用のボトルに入れ、冷蔵庫に詰めた。どうでもいいけどこの部室が豪華すぎて最早居心地が悪い。

 スコアは氷帝の1年がやるそうなので、ちょっと暇になった。どうすっかなー、とりあえず次のメニューの下準備するか、と部室を出ようとすると、誰かにぶつかった。

「おぶふっ!」

 鼻があああ!と悶えると、私の頭より少し高い所から笑い声が聞こえた。

「ははっ、女の子なのに『おぶふ』って。自分おもろいなあ」

「まあ、可愛く繕う余裕なかったんで?」

「ははは、ほんまおもろいなあ」

 頭を上げると、そこには眼鏡をかけた長髪の少年がニコニコしながら佇んでいた。

「ああ、そういや紹介しとらんかったな。俺は―――」

「忍足侑士」

「!」

 私が彼の名を言うと、彼は酷く驚いた表情を見せた。あれ、合ってるよね?まさかの間違っちゃった?

「…あれ、俺紹介したんやっけ?」

 一瞬無表情になった彼は、すぐにパッと笑顔を作り、困った様に私に訊ねた。

「いや、私一応マネージャーだから、氷帝の部員の顔ぐらい全部分かるよー」

 ましてや練習試合なんかするんだ。全部員のステータスくらい頭に入ってる。

「…へえ、凄いんやなあ!俺感心したわ」

「ありがとう。まあ、それに忍足君はレギュラー候補でしょ?注目してるよ」

「はは、さよか。いやあ、それにしても、##NAME2##さんやっけ?可愛いなあ」

「…えー?そんな事ないよ」

「ほんまやって!その上仕事も出来るんやろ?ええなあ、立海の奴等が羨ましいわ」

「あはは。で?何か用があって来たんでしょ?どうかしたの?」

 私が笑いながらそう言ったら、忍足君はにんまりと笑った。先程までのとは違う、艶のある、くらりとしてしまいそうな笑みだった。

「俺な、凄く##NAME2##さんに興味あるんや」

「ええ?」

「初めて見たときから。それに、立海の奴等の##NAME2##さんの評価聞いて、めっちゃ気になってたんや」

「へえ、…なんか、照れるなあ」

「…なあ、俺の事、そういう対象で見てくれんか?」

 ここでいう『そういう対象』というのは、まあ、要するに恋愛感情込みのお付き合いってこと。それくらいは、まあ、分かるよ。

 彼の気持ちを、私は何となく初めから分かっていた。だから、答えは決まっている。

「それは無理だよ」

「…はは、ふられてもうた」

 私の返事に、忍足君は寂しそうに笑う。何でか聞いていいか?と聞かれ、私は困った様に答えた。

「だって忍足君は私の事が嫌いだから」

 忍足君は私の言葉に目を見開く。

「…は?」

「だから、無理だよ。私を嫌いな人を、私は好きになれない」

 しばらくした後、いや、正確には3秒ほどだ。忍足君が豪快に笑った。

「言い間違えとちゃう?俺を、自分が嫌っとるんやろ?」

「違うよ。忍足君が、私の事が嫌いなの」

 忍足君は困った様に笑う。

「俺の言葉、聞いとった?俺は、自分と付き合いたいゆうたんよ?」

「そうだね」

「どうしてそうなるんや」

「忍足君が私の事が好きな理由が、凄く薄っぺらいから」

「…?」

 意味が分からない、とでも言いたげな忍足君に、私は説明し始める。

「初めて見たときから気になっていた、なんてさ。一目惚れって、少女漫画とかでよくあるじゃん。普通は、そういうのときめいたりするじゃん。でも私あれ見ていつも思うんだけどさ」

「………」

「凄く薄っぺらいよね」

 私は笑う。

「要は、可愛いから好きになったんでしょ?それって。ある意味、最低な告白だよね。『一目惚れです』なんて、要約しちゃえば『顔が好みです』な訳でしょ?」

 私がそんな事を言っていると、忍足君が黙ってしまった。

「で、私は顔すら良くない。一目惚れなんてないない。まあ、次に告白する時は、せめて会話をちょっと位してからにしな。いくら嫌悪を抱いているからって、初対面の人の告白は駄目だよ。真に受けるほど愚かじゃないもん」

「…なんや、ただの馬鹿ちゃうんやね」

 その顔は無表情で、先程までの張り付けた笑みよりは好感を持てた。

「で、わざわざどうしたの」

「とりあえず、小手調っちゅーところやな。俺の言葉を真に受けたら、適当に遊んで棄てるつもりやったんやけど」

「ごめんね。期待外れで」

 とりあえず嫌味を言っておこう。

「ま、ええわ。思うたより阿呆ちゃう事分かっただけでも収穫やし」

「あ、そう」

「じゃあ、俺は練習戻るわ」

 張り付けた笑顔を浮かべ、部室の扉に手をかけた忍足君に、言いたいことがあって引き留めた。

「ちょっと待って」

「?なんや」

「あのね、さっきの私の言葉、訂正させてほしいの」

「さっきって」

「…私、忍足君の告白に、忍足君は私の事が嫌いだから、付き合えないって言ったでしょ?私が忍足君を嫌いなんじゃない、忍足君が私を嫌いなんだって」

「…ああ」

「本当はね、これが本心じゃないの。改めて、言わせて」

 私は、私が出来る最高の笑みを忍足君に向かって浮かべた。

「私も、忍足君が嫌い」

 忍足君は私の言葉に一瞬目を見開き、次いで笑った。張り付けたそれではなく、恐らく本心から。

「ありがとう。俺もや」

 柳とは違う同族嫌悪。

 私は奴が出ていった扉を見て一つ舌を打った。

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