私と親友。
□1話
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「なあなあ、仁王」
「…なんじゃ」
ホームルームが始まるまで寝てようと考えていたのに、目の前の赤髪に阻止され思わず声のトーンが低くなる。
「今日うちのクラスに転校生が来るらしいぜ」
「転校生…?」
それは初耳だった。いや、聞いたのかもしれないが記憶に無いだけかもしれない。成る程、それでクラスが妙に浮き足立っている訳だ。
「転校生って…、先週本庄が来たじゃろ」
「な。立て続けになんて、妙な話だよぃ」
本庄 愛美。
先週幸村のクラスに入った転校生。
人形の様な美貌で、俺ですら見とれた、が。
中身はなんてことない、何処にでも居るミーハーな女だった。
偶然幸村の隣になったらしく、会って早々に幸村にベタベタと接触してきたらしい。偶々幸村に教科書を借りにきた俺にも、いきなりしつこく寄り付いてきた。美人でも、ミーハーは勘弁だ。
女は、苦手だ。
ミーハーだから、というのは偏見だと友人は言うが、本当に皆そうなんだ、としか言えない。お前らの事を興味ないって言ってる奴も居るよ?とか言われる事もある。確かに俺ら興味ない奴もいるだろう。だが、それは俺達と直接関わっていないからだ。前にそう言っていた奴を紹介してもらった時、最初こそ本当に興味ない様子だったが、少し仲良くしたらすぐに彼女面し始めた。おそらく、俺というブランド品を見せびらかす優越感などに溺れたんだろうと思う。
だから、俺は女に必要以上に関わらない。テニス部の奴等も、似たようなものなんだろう。
「ま、本庄みたいな奴じゃなけりゃ、関わらなければ問題ないだろぃ」
「…そうじゃの」
話が途切れた所で、担任が教室に入ってきた。後ろを向いて話していた前の席の丸井も、慌てて身体を前に戻した。
「転校生を紹介する。水無月霙さんだ」
「水無月霙です。よろしくお願いします」
教室にまばらな拍手がなる。
別に、何かに特別優れている様子はない、が。
なんだろう。違和感を感じる。
「水無月の隣は仁王だ。あの銀髪の隣なんだが、おい仁王、手をあげて誘導してやれ」
俺の隣?最悪だ。誰が手なんてあげるものか。悪あがきと知りつつ、俺は腕を机の上に置き、その上に顔をうつ伏せる。自分を隠すように。
「おい仁王!」
「大丈夫ですよ。銀髪は一人しか居ませんし分かります」
「そうか?悪いな」
足音が俺に近付き、隣で止まり、椅子を引く音が聞こえる。
「仁王…君だっけ?起きてる?」
流石に無視するのも気が引けて、ゆっくりと顔を上げる。
「ああ、起きてた。私、今さっき転校してきた水無月霙。多分色々聞くけど、よろしくね」
「…仁王じゃ。分からん事は他に聞け」
どうせ、関わりたい口実だろう。うざいんだよ、そういうの。
「……器の小さい男ね」
俺は水無月のぼそりと呟いた言葉にかっとなって席を勢いよく立ち上がった。
「お前っ…!」
「おい仁王!お前ホームルーム中だぞ!」
担任に怒られて、舌打ちをしながら席につく。
「…何か?」
「っ、聞こえる様に言ったじゃろ」
嘘をつきなれた俺にはわかる。あれは、わざと聞こえる様な音量で呟いたんだ。俺が、反応するように。
「何の事だか、分からないわ。仁王君、被害妄想激しいんじゃないのかしら?」
「っ、」
「水無月さん?なんかあったの?」
水無月の隣の女子が水無月に尋ねる。あの位置なら、俺らが話してるのは分かっても、内容は分からないのだろう。
「ああ、なんか仁王君が私がよろしくって言ったのが、聞き間違えて悪口に聞こえたらしいわ」
「そうなんだあ」
「ああ、私の事は霙って呼んでくれない?」
「うん!私は早希子っていうの。呼び捨てでいいからね!」
「おい、転校初日から授業離脱するなー」
「あら、ホームルームって授業に入るんですか?」
「それは屁理屈だろう!」
担任と水無月の掛け合いで、クラスがどっと湧く。あの子面白いね、等と声がこそこそ聞こえる。
ホームルームが終わり、水無月の周りには好奇心全開でクラスメイトが集まった。それを俺は最初は気に入らずに見ていたが、話を聞いていると本当に面白い奴なんだと興味を持ち始め、やがて好感を持ち、少しだが話もした。
「ああ、そうだ仁王君」
「…なんじゃ?」
「さっきはごめんね。なんか急にあんな風に言われたから、ついむきになっちゃった」
「…いや、構わん。俺もあんな態度とって悪かったぜよ。眠くてイライラしてたなり」
変な言葉使いね、と笑う水無月に、なんかいい奴かもしれない、と少し考えを改めていた。
今までと違う女ということに関心がいって、俺は水無月に最初に抱いていた違和感の事を忘れてしまっていた。
まるで俺らを画面の向こうから見ている様な無機質な視線を、俺は気にならなくなってしまった。