リクエスト

□君までの距離
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「A弥、もう寝る?」
「…別にどっちでもいいど」
「なら寝ようよ」
「…分かった」
幼なじみということもあり、互いの家は近い。それなのにいつも互いの家を行き来したり互いの家に頻繁に泊まったりするのは、二人がただの幼なじみではないからだ。
「ふぁ…。A弥、早く」
あくびを噛み殺しながら、A弥に早く同じシングルベッドに入るよう催促するC太は本当に眠そうだ。
「…C太、もうそろそろ春だね」
もぞもぞとA弥がシングルベッドに入り込むと、途端にC太がその細くて白い腕を掴んで引っ張り、自分の胸に体を寄せる。
A弥を抱きしめて寝ると、C太は落ち着いて眠れるらしい。そう本人がA弥に語ったことがある。
「…ん、そうだね」
眠そうにしながらも、A弥の言葉に律儀に返事をするC太。そんな所にも無償の愛を感じ、A弥は知らず知らずのうちに笑顔になっていた。
密着させるために引っ張られた腕は、既にC太の背中に回っている。
「…あのさ、冬が過ぎたら春になって、春が過ぎたら夏になるよね?」
「……うん、そうだけど。クーラー付けたら涼しいから大丈夫」
C太の言葉に、A弥は黙り込んだ。
C太は、夏になればくっついて寝るには暑いとA弥は伝えたいんだ、と勘違いした。
「……うん、そうだよね」
その返答には、A弥と夏になってもくっついて寝るということが前提になっている。
A弥は、夏の暑くなる日まで暑い暑いと言いながら抱きしめ合えるのか、聞きたかったのだが、先に答えを言われて聞くタイミングを見逃してしまった。
タイミングを見逃してしまっていても、答えそのものは違えどきちんと答えを貰えた。そのことに満足して、嬉しさをこれ以上顔に出さないよう、A弥はC太の背中に回している腕に少しだけ力を込めた。
「A弥…もう、オレほんと眠い。…から、おやすみ…」
「あ、うん。おやすみ」
C太はふわりと笑ってからA弥の額に軽くキスをし、すぐに寝息をたてた。
「…僕も、もう寝ようかな」
気持ちが高ぶっているせいで、あまり眠いわけではないけれど、ふとした拍子にC太が目覚めてしまった時、起きていたら寝れないのかと心配されてしまうことを理解しているA弥は、瞼を閉じた。
今は冬だけれど、暖房は付けていないけれど、温かい。
この温もりを何時までも感じられることを願い、 A弥は眠りについた。
「…そんな不安、今すぐにでも無くしちゃえばいいのに」
小さく呟いているその声を、耳に入れる間もなく。




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