カゲプロ

□お揃いなもの
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「シンタロー君が一番似合うのって赤ジャージだよね」

 突拍子も無く、アヤノがオレを眺めて呟いた。

 今は体育の授業中。外が雨という事で他の生徒はドッチボールをしている中、オレ達は体育館の隅で見学中だ。
 オレは別に実技に出なくても、テストで単位は取れる自信が十分にあるのでズル休みである。いや自慢でも嫌みでもねぇよ?ただの事実だからさ☆(ドヤァ)

 オレとは違いマジメなアヤノはただ単に風邪気味なので休んだだけだ。

「…は?それって褒めてんの?貶してんの?」

「似合うって言ってるんだから褒めてるんだよ?」

 欠席者は欠席者で体操服用のジャージを着用しないといけないのでオレ達は見ているだけなのにも関わらずジャージ着用中だ。

 ジャージが似合うって言われて喜ぶ奴は極少数だと思う。そして誠に残念ながらオレは多数派。赤ジャージが似合うと褒められても余り嬉しくない。それどころか赤ジャージしか似合うと言われない自分が虚しい。もっとイケメンに生まれたかった。
 しかし残念な事に栄養は全部頭に吸い取られたらしい。何てこったい。少しくらい背と顔に栄養を分けてくれよ。顔に栄養は関係ないし、背も低い方ではないけどさ。
 それとジャージが似合う奴って熱血系の筋肉質な野郎ぐらいしか居ないと思うのだが…。バリバリ頭脳派のオレには遠く離れてると思う。いや自慢でも嫌みでも(以下省略)

「でも似合ってるよ?シンタロー君には赤色が似合う」

「だったらジャージに限るなよ」

 胸を張って、よくシンタロー君の事よく見てるでしょう?と笑うアヤノの声を聞きながらぼんやりとドッチボールのボールを目で追う。
 どうやらクラスの中谷(オレ様系イケメンでリア充)の顔面にボールがめり込んだようだ。よくやった山口。お前は今日から勇者だ(オレの心の中のみの)。真っ青な顔で中谷に謝りながら慌てふためく山口に密かに拍手を贈った。

「というかそれを言うならお前もだろ」

「?」

 アヤノは首を傾げる。

「いつも赤いマフラーしてるだろ」

「あぁ…まぁね。大切な物だから」

 そう言って少しアヤノが微笑む。アヤノはさすがに今はしていないものの、登下校の時は必ず首にマフラーを巻いている。

「アレ似合ってるよ」

「え?」

「だから赤ってオレよりもお前に似合うと思う。あ、でもそうなるとお揃いだな」

 少し可笑しく思えて笑って、横に顔を向けるとアヤノは顔が何故か赤かった。

「…?どうした?風邪が悪化したか?」

「…この無自覚なタラシめっ」

 そう言うと何故かぷいっと顔を逸らされた。意味分かんねぇ。

 再び目を授業に戻す。中谷は鼻血を出して保健室に向かったらしい。どうやら中谷の彼女もついて行ったらしい。何てこった山口。お前の勇気溢れる行動は無駄に終わったぜ。





「…でも、やっぱり赤はシンタロー君の色だよ」

 まだ引っ張るか。

「何でだよ」

「似合うし、それに…私の好きな色だから」

「……」

 キーンコーンカーンコーンと授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。
 アヤノは立ち上がる。

「……どうしたの?早く行かないと次の授業遅れるよ?」

 いつまでも立ち上がろうとしないオレを不思議に思ったのか小首を傾げる。

「…先に行っててくれ。どうせ女子が着替えないと教室入れないし」

「あー、女子は着替えるの遅いもんね。分かった。じゃあまた後で」

 軽く手を振りながら女子の友達の元に駆け足でアヤノは去っていく。


 その後オレがアヤノに会ったのは結局次の授業が始まった後だった。

 アヤノが去った後、顔を膝に埋めながら赤くなった顔をどう治そうかと悩み、結局水道で顔を洗ってごまかして教室に向かったのはシンタローの誰にも知られてはいけない秘密となった。



ーおわりー

2013.03.17
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