カゲプロ
□無自覚バレンタイン
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「ねぇ、シンタロー」
「…なんだ?コノハ」
「今日って『ばれんたいん』だよね?」
「あー…そういえばそうだな」
オレには関係ない行事だから忘れていた。
そういえば数日前からマリーとモモが料理雑誌を見ながら盛り上がっていたような。チョコレートのお菓子の特集でも載っていたのか、「コレ美味しそう!」「じゃあコレ作ろっか」「うん!」みたいな会話を聞いた記憶がある。
「ねぇ、シンタロー」
「なんだ?」
「チョコレート無いの?」
「……欲しいのか?」
「うん」
コノハはコクンと頷く。
「…あのな、コノハ。バレンタインってのは女の子が友達や好きな人にチョコレート渡す日なんだよ。だからオレはチョコレートなんて持ってないし、あげる訳もないし、逆にオレが欲しいくらいだ」
自分で言っていてむなしくなりながらも説明するとコノハは首を傾げる。
「でもシンタロー、女の子より可愛いし美人だよ?」
…………………。
……………は?
「…コ、コノハ」
「何?」
「あのな、オレは男だし、可愛いくも無けりゃ美人でもない。女の子の方が数倍可愛いぞ?」
「そんな事ないよ。シンタローの方が可愛いもん」
「いや、だから」
「少なくとも僕は女の子より、シンタローからのチョコレート欲しい」
「………………っ」
…コノハと会話している時、心臓に過剰な負担を掛けているような気さえする。
それではまるでオレが好きと言っているような物ではないか。顔にどうしようもなく熱が溜まって、胸が高鳴って逆に痛いくらいだ。
「?どうしたの?シンタロー顔赤い」
「な、何でもない!!」
何であんな事を言っておいて平気な顔が出来るだコノハは!
気を紛らわすためにコーヒーを飲む。苦さで頭を冷やす。落ち着けオレ。
「あ、シンタロー。チョコレート合った」
「は!?」
オレはコーヒーを飲むのを止め、コノハを見る。コノハの手にはト●ポの箱が握られていた。
「確かにチョコだけど…」
「はい」
いきなりコノハにト●ポの箱を手渡される。
「?」
「あげる、シンタローに」
「何でオレに」
「だって好きな人にあげるんでしょ?」
僕の好きな人シンタローだもん、ふわりと微笑む。
「────ッッ」
あぁ!もうっ何でそんな恥ずかしい事が平然と言えるんだ!
「シンタローどうしたの?また顔赤いよ?」
「なっ、ちょっ近いっっ!!!」
コノハは覗き込むようにオレに顔を近づける。オレは反射的にコノハを押し後ずさった。
…無自覚なのだろうがコノハのこういう行動にいつも振り回される。
何故にそんなに鈍いのか。
毎日毎日好き好きと冗談を言うにも関わらず、こういう所は鈍感だから困る。
「……近寄りたくない程、シンタローは僕の事嫌い…?」
コノハが眉を八の字にして悲しそうな顔になる。
「──え…、いやそうじゃなくて…、えーとその……」
何て言えばいいんだ。
コノハが近すぎてドキドキして仕方ないから押してしまった。
……なんて言える訳もない。ドキドキするって…オレはホモかよ!?キモいわ!断じてオレはホモじゃない!
コノハがあんな事言うから、他人に冗談でも好きとか言われた事がないから、ついドキドキしてしまうだけで別にホモではない!!
オレが心の中で格闘している間にもコノハはどんどん悲しそうな表情になってゆく。これ以上放っておくと泣いてしまいそうな雰囲気すらある。
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