カゲプロ
□猫の日という事です。
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「何してるんですか?」
メカクシ団のアジトに来てみると何故かシンタローさんがネコミミを付けて鏡と向き合っていた。
「ひ、ヒビヤ!!?」
シンタローさんは物凄く驚いて、ズサー!!と僕から距離を取る。そしてソファーの裏に隠れてしまう。
「いや…コレはその…っ!オレが好んで付けている訳ではなくて…!!」
あわあわと慌てるシンタローさんを収めるように「とりあえず落ち着いてください」僕は言った。
「…すまん」
ソファーに座った僕は同じく反対側に座ったシンタローさんに何故か謝られた。
「…何で謝るんですか」
「…だってオレがネコミミ付けてる見苦しい所なんて、見せちゃてるし…」
バツが悪そうに僕に目を合わせない。
「別に見苦しくないですよ。逆に似合ってます」
「…嬉しくない…」
と口ではそう言っているのにシンタローさんの顔は朱になる。可愛くてついつい手を出したくなる気持ちを抑えて「何でネコミミが生えたんですか?」と問う。
「…エネとモモが通販でネコになるドリンクを買ったみたいなんだ…。それを栄養ドリンクと騙されて飲んじまったんだ…」
オバさん達グッジョブッッ!!!
僕は隠れて親指を立てる。
シンタローさんは気持ちと連動するように耳と、尻尾がうなだれる。
「明日には戻るらしいんだけど…」
「えっ、戻っちゃうんですか?」
不満げな声を漏らすと軽く睨まれた。
「何で不満そうなんだよ…。こっちは困ってるってのに…」
「だって僕、ネコ好きですし」
シンタローさんとネコなんて夢のコラボじゃないですか!
「目を輝かせるなよ…」
はぁ…、とシンタローさんは溜息をつく。
「そういえば他の皆さんは?」
「…買い物に出たみたいで居なかった。置き手紙によると今日は遅くまで帰らないそうだ」
「へぇ…」
じゃあこのネコミミシンタローさんをこの時間独占出来るのは僕だけか…。
そう考えると少し…いやかなり優越感。あの猫目さんやエセ敬語を使う人、影薄い人、青いツインテールの人、オバさん、白髪の女の子やコノハ達に邪魔されず会話ができる、もといい存分に鑑賞出来るわけだ。
「…で、みんなも来ない事だし、オレは帰ろうと思うがヒビヤはどうする?」
「え、帰っちゃうんですか?」
残念だ。かなり。
そんな心情が顔に出ていたのか、シンタローさんは少し考える素振りを見せた後、ポンと僕の頭に手を乗せる。
「……いや…やっぱり居るよ。一人で家に居てもつまらないし」
撫でながらお兄さんのような笑顔で笑う。それは本心じゃなくて、きっと僕が残念がったから残ることにしてくれたんだろう。優しいなぁ。
さすがだてにあのオバさんの兄やってる訳ではないようで、全身から良いお兄さんなオーラが…。
単純にシンタローさんが居る事になったのは嬉しい。
嬉しいが…、
………でも複雑だ。
子供扱いされているようで、それはそれで気に食わない。少しムカムカする。
「シンタローさん」
「ん、何だ?──んぅっ!!?」
ムカついたので、シンタローさんの唇に噛みついてみた。シンタローは驚愕のまま顔が固まっていて、してやったりって気分になる。
ペロリと唇を舐めてみると肩がビクッッ!!!と跳ねた。ビビりすぎでしょ。
シンタローさんはやっと僕にキスされてる事を理解したようで、耳まで真っ赤にする。
それがものすごくキタ。ヤバいくらいキタ。何てこった凄く可愛い。この人本当に年上か?
なんかムカムカしていた気持ちも収まり、逆にこのまま押し倒したくなってしまったので、唇を解放した。
さすがにココで押し倒してしまうと引かれるような気がする。僕だっていきなり年下の男にキスされて押し倒されたら、怒るどころかドン引きだし。
「…ぁう……ぁぅ……」
シンタローさんは真っ赤な顔のまま固まって、口をパクパクさせている。
「…にゃにしてんだよ!!?」
呂律が回らなかったのか、ネコドリンクのせいなのか、言葉が少し変だ。
「つい」
てへ☆みたいな雰囲気で言ってみると、わなわなとシンタローさんは拳を握りしめる。
「…初めてだったのに…っ」
シンタローさんは真っ赤な顔で少し涙目になりながら睨んできた。
「……僕もキスしたのなんて、初めてですけど」
「何で初めての相手がオレなんだよ!」
パンッと軽く頭を叩かれた。痛くはなかったけど、それ突っ込むの逆じゃないかとは思った。
「…だって初めては好きな人としたいじゃないですか」
って言うとシンタローさんは固まった。
「………………………………………………………………………………………………………………………は?」
たっぷり三十秒くらい間を開けてやっとシンタローさんは返事をした。
「す、好きな人…?」
ギシギシと壊れた機械みたいな動きで自分を指差すシンタローさん。
「はい。好きな人」
僕が頷く。
「…い、いやいやいやいや」
まるでナイナイと言うかのごとく、手を振る。
「ヒビヤ。オレ、男。お前も男。同じ性別。おk?」
「はい。でも好きなんですもんシンタローさんの事」
鈍いシンタローさんにはこれくらい言わないとダメかなって思ってハッキリ言い切る。
「あ、言っておきますけど、勿論キスしたくなるような恋愛の意味での好きですからね。年上として好きだとか、尊敬してるとかじゃありませんからね」
笑顔で言うと、シンタローさんはボッと顔を更に赤く染め上げる。
「にゃ、」
「好きですよシンタローさん」
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