月花物語

□四、空虚
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あとからのこのこ手柄を取りにやって来たお偉いさん方を土方が上手く追い返したあと、



「土方!千鶴も!」
「和音!?」
「和音ちゃん!?」




和音はぴょん、と屋根瓦から飛び降りり、切羽詰まった顔で土方に詰め寄った。



「奴等が出たんだ。池田屋の方に。外出許可を出してくれ」
「……奴等?」
「怪(あやかし)だ。頼む、仕事させてくれ!」
「……」
「お願いっ!私の式神、怪は感知出来ても人は全く駄目だから、京を一回りして土方探してたんだ。外出許可貰うために」
「和音ちゃん……怪とか、式神とかって……?」
「……わかった許可する。すぐ戻って来い」
「了解、ありがとなっ」





そう言い残して、和音は走り去っていく。なんというか、いつもの落ち着いた彼女とはとても思えなくて、千鶴は正直驚いていた。



「土方さん、あの、」
「まあ、正直俺も驚いた」
「へ?」
「なんだ、気づいてなかったのか」
「えーと、何をですか?」
「さっきの和音だ。あいつ――あんなに明るくなかったろ」
「それは……そうですけど」
「それにあんな尻尾、なかっただろ」
「……尻尾?」



土方は、一体なんの話をしているのだろうか。
千鶴が首を捻ったとき、背後から声がかかった。






「あ、土方、それに……千鶴?なんでお前ここにいるんだ?」
「ああ、和音か」
「和音ちゃん!?」


なんで!?
さっき怪がどうのって走って行ったんじゃ……






「なあ、これくらいの狐がこの辺通らなかったか?」
「ああ。池田屋の方に走ってったぜ」
「き、狐?」
「ああ。私の式神なんだ。急に逃げ出してな……って、千鶴は言ってもわかんないよな。また今度話すよ。あ、捕まえ次第変えるから門限見逃してくれないか?」
「ああ、許可する」
「…………随分物わかりが良いんだな。土方なのに」
「俺が融通効かねえ野郎みたいな言い方すんじゃねえよ。事情は今しがた理解したところだ。とっとと行ってさっさと戻って来い」
「了解了解」




和音が走って行ったあと。
状況を飲み込めない千鶴が頭を抱えて唸っていた。
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